第7話ですわよ!

服作って

カッカッカッカ…


 ドンドン ドンドン


シンデレラの姉たちが帰ってからすぐ、荒々しいドアノックの音がする。

姉達が何か忘れ物をしたかで、また戻ってきたかと思ったシンデレラは、若干の呆れ顔で

 「元気がよろしいのね…。」

 と言いながらも、足早にドアを開こうとする。

けれども、開く直前。この階段を登る足音をふと思い出した。

(屋根裏部屋までの階段は、屋敷の3階の階段とも直結しているから、特に気に留めていなかったけれど、先程の足音。お義母様の今日履いていらっしゃった細いヒールの音だった。だとしたら…)


本人も知らぬ間に息を飲みつつ、ゆっくりとドアを開くと、そこには案の定継母が立っていた。

 胸のよく開いたワイン色のドレスに黒い手袋が継母の雰囲気によく似合っている。

 けれども、その高圧的な印象とは真逆に、その雰囲気はいつもより柔らかい。

 元来の眉を吊り上げ、シンデレラを睨みつけてくるような素振りはない。

 むしろ、父親が生きていた時の継母のような、眉の下がった優しい表情をしていた。


継母は、優しく落ち着くゆりかごのような優しい声でこういった。

 

「…シンデレラ!」

そして、シンデレラに目線を合わせるように、両足をつけてしゃがみ、シンデレラにそっとハグをした。


 「…っ!」


 突然の母親の愛情に驚きを隠せないシンデレラはつい先程まで継母に虐げられたことなど忘れて、継母の温もりを体一杯に感じた。手袋越しからも、母親のぬくもりがジンジンと感じられる。


 しばらくして、継母は、シンデレラの体を優しく剥がして言った。

「シンデレラ、舞踏会に行きましょう…!」


「ぶ、舞踏会、ですの…!」

 昔から母親の影響もあって、大好きだった絵本の一冊に、舞踏会から始まるお姫様の恋物語を描いたものがあった。そのお話の内容と繊細に描かれていた挿絵を思い出し、一瞬のうちに頭の中には夢のような舞踏会のイメージが浮き出される。


 女性達の花のように美しいドレスに、大理石を擦る音がして。

 男性達は左胸に布が引っ張られるほどの勲章をつけた軍服を着て、よく磨かれた革靴を鳴らしながら。


 チカチカと自らが主役のように上から見下ろしているシャンデリアのもと、パートナーにとっての唯一として、ひとときの甘い時間を過ごす。



 流れるように美しい彫刻を持つ数々のテーブルの上には、台にも劣らない芸術作品の料理の数々が並んでいて。


そのどれもが、言葉で表せられないほど鮮やかで、眩しくて。



シンデレラは、下を向き、視線に入ったボロボロの服を見る。


 華やかなドレスとは程遠い洋服。

 


 

 ‘行きますわ!‘という一言がとても安易には口から出すことができなかった。


 何も返事のないシンデレラに対して、継母は続けた。

「貴族でないものも参加できるをするそうよ。大丈夫。私たち3人も勿論行くわ。寂しがらないでいいの。…一緒に行きましょう?」


継母は、シンデレラの頭を撫でながら、ニコニコと、‘どう?’と言う。

 けれどもドレスの下では、‘早くYESといえ‘とばかりに細いヒールの先がリズムを刻むかのように動いている。


そんなことには気づいていないシンデレラは、稀に見る母親の愛情を存分に受けた後、決意を固めた。


 その水色の透き通る空のような瞳を継母に向けて言った。

 「ぶ、舞踏会…行かせていただきますわ!」


 

「そう…!よかったわ!」

 継母の口角が気味悪く上がった。

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ですわ口調のシンデレラ様 焼きそばこっこ @yakisoba_kokko

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