第八話 エレ

「ほら、今日の飯だ」


彼女そう言われて、鉄の棒の隙間からパンを渡された。

彼女が渡されるご飯の量はいつも少なかった。

だが、彼女はそれに対して不満を持ったことはなかった。

彼女は生まれた時からここにいる。

母親や父親も知らない。

パンや、焼いただけの肉以外の食べ物も知らない。

彼女は、このコロシアムの外の事は何も知らなかった。

彼女はなぜ自分が戦って、なぜ相手が死んで、

なぜ人々が歓声が聞こえてくるのか、

何もわからなかった。いや、そもそも、あまり考えたことがなかった。


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試合が始まった。


ベリックは開始と同時に走り、大剣を振り下ろした。

その動きは、重く、速く、そして、確実だった。

もし相手が俺だったなら、避けるのに紙一重だろう。

そして威力は、盾と鎧をつけていても、身体が二つに割れるほどだろう。

それほどの一撃だった。


だが、運が悪かった。


彼の相手は、即滅のエレだった。

次の瞬間、彼の腕は地に落ちていた。

見ている者も、本人さえも、斬られたことをすぐには理解できなかった。

そして、瞬きをする暇もなく、彼の頭は身体に別れを告げた。

静かだった。あまりにも、静かだった。

人々から歓声が上がった。失望の声も、怒りの叫びも、混じっていた。

だが、それらはすべて、遠くから聞こえる雑音のようだった。

圧倒的だった。勝負ではない。これは、処刑だった。



少し前に、アレスは言った。


「彼女は、神級に近い実力を持っている」


「じゃあ、エレと戦ったら、アレスもただではすまないということか?」


俺は、そう聞いた。アレスは、少しだけ考えてから、答えた。


「ダメージ覚悟で戦うなら五秒。無傷なら十五秒でやれる、、。ちなみにお前なら無傷で1秒もかからない」


そして、その時の彼の言葉は、誇張でも虚勢でもなかった。

彼は、ただ、事実を羅列しているだけだった。


俺とアレスは、最近になって口数が増えた。俺にとって一番の恐怖であった彼が、

今では一番口を利く相手だ。アレスは言葉は使わないが、

行動によって俺に知恵を授けてくれる。彼は沈黙が重く、無表情だ。

何を考えているのかわからないため信用できず、

それどころか、疑がわれ、恐怖される存在だった。

だが、俺は、彼の中に流れる魔力から、重い沈黙から、稀に発する言葉から、

彼がどういう人間なのか、ほんの、ほんの少しだけそれを感じていた。

だがそれでも、彼の考えていることはわからなかった。



あの日から4年、、。いまだに、俺がここに連れてこられた理由はわからないし、

俺は彼の事を、、この世界の誰の事も信用していなかった。



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