第16話:嫉妬の炎

 高橋との関係は、もう修復不可能なところまで来ていた。

 会話もなく、ただ同じ空間にいるだけ。心がすり減っていくのを感じながら、美咲は意味もなくスマホの画面をスクロールしていた。


 友達の楽しそうなランチの写真。旅行の報告。結婚式の招待状。

 どれも、今の自分とはかけ離れた、キラキラした世界。

 ため息をつきながらタイムラインを眺めていると、ふと、ある投稿が目に留まった。


 共通の友人がシェアしていた、有名な筋トレインフルエンサーの投稿。

 添えられたコメントには『すごいビフォーアフター!別人じゃん!』と書かれている。


(ビフォーアフター、ね…)


 何の気なしに、その画像をタップした。

 そこに写っていたのは、二人の男性の写真。


 左の男は、ひょろりとしていて、自信なさげな表情。

 どこにでもいる、冴えない男。


 そして、右の男は――。


「……え?」


 美咲は、息を呑んだ。

 信じられなかった。

 そこに写っていたのは、見違えるようにたくましくなった、佐藤優斗の姿だった。


 こんがりと焼けた肌。分厚い胸板。綺麗に六つに割れた腹筋。

 そして何より、その表情。自信に満ち溢れ、真っ直ぐに前を見つめている。

 自分が知っている、あの頼りなかった優斗とは、まるで別人だった。


「う、嘘…なにこれ…。これ、優斗…?」


 何度も写真を見返す。

 見間違えのはずがない。あれは、自分が振った、元カレの佐藤優斗だ。


 震える指で、コメント欄を開く。

 そこには、女性たちからの絶賛のコメントが溢れかえっていた。


『なにこのイケメン!超タイプ!』


『この身体、反則でしょ…抱かれたい』


『努力できる男の人って素敵。彼氏にしたい』


『元カノ、絶対後悔してるだろうな(笑)』


 最後のコメントが、グサリと美咲の胸に突き刺さった。


 ――後悔してるだろうな。


 その後悔が、今、まさに美咲の心を支配していた。

 自分が手放したものが、こんなにも価値のあるものだったなんて。

 自分が捨てた男が、今や手の届かない場所で、眩しいほどの光を放っている。

 そして、その周りには、自分ではない、新しい女たちがハイエナのように群がっている。


「なんで…」


 スマホを握りしめる手に、ギリ、と力が入る。


「なんでよ…!」


 強烈な嫉妬。

 取り返しのつかないことをしてしまったという、絶望的な後悔。

 ドス黒い感情が、炎のように心を焼き尽くしていく。


「私の優斗だったのに…!あの人は、私のものだったのにぃぃぃっ!」


 部屋に、美咲の甲高い絶叫が響き渡った。

 床に転がったスマホの画面では、自信に満ちた笑顔の優斗が、美咲をあざ笑っているように見えた。

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