第10話:SNSという名の成長記録

 梓とのパーソナルトレーニング中、ふと彼女が言った。


「優斗さん、本当に変わりましたよね。身体もですけど、表情が全然違う。すごく自信に満ちてます」


「そ、そうですか? 梓さんのおかげです」


「そうだ! その変化、記録に残しておきませんか? SNSで筋トレ専用のアカウントを作ってみるのはどうですか? 同じ目標を持つ仲間と繋がれるし、何よりモチベーションになりますよ」


 SNS。それは優斗にとって、元カノの幸せな姿を覗き見ては自己嫌悪に陥るためのツールだった。


「俺なんかがやっても、誰も見てくれないですよ…」


 優斗が躊躇すると、梓は力強く彼の背中を押した。


「そんなことありません! 優斗さんの努力は本物です。私が最初のフォロワーになりますから!」


 梓にそこまで言われては断れない。優斗はその場で、スマートフォンを取り出し、新しいアカウントを作成した。アカウント名は、単純に「Yuto_workout」。プロフィール写真も設定せず、とりあえずその日のトレーニングメニューだけを投稿した。


『ベンチプレス 60kg 5×5 / スクワット 80kg 5×5… 今日も頑張った』


 最初の「いいね」は、もちろん梓からだった。

 それから優斗は、毎日のトレーニングメニューや、自炊した「筋トレ飯」の写真を淡々と投稿し続けた。


 アカウント開設から数週間後。フォロワーは数十人程度に増えていたが、ほとんどが同じジムの仲間か、似たような筋トレアカウントからの義理のフォローだった。


 そんなある日、梓が優斗のスマホを覗き込みながら言った。


「うーん、もったいないなあ。優斗さんの本当のすごさが伝わってないです」


「え?」


「変化が分かるように、身体の写真を載せてみたらどうですか? Before/Afterの写真を載せたら、絶対に反響ありますよ!」


「えええ! 無理です無理です! 恥ずかしいですよ!」


 全力で拒否する優斗だったが、梓の「見たいです!」という圧に負け、渋々承諾する。


 ジムの更衣室で、意を決して上半身裸の写真を撮る。そして、ジムに通い始めた頃の、たるんだ身体の写真と並べて投稿した。


『#筋トレ #ビフォーアフター 2ヶ月間の変化。まだまだだけど、これからも頑張る』


 投稿ボタンを押す指が、少し震えた。


 その投稿が、バズった。

 と言っても、何万もの「いいね」がついたわけではない。しかし、これまでとは比較にならないほどの「いいね」と、たくさんのコメントが寄せられたのだ。


『すごい変化! まさに努力の賜物ですね!』


『いつも投稿見てます! モチベーションもらってます!』


『私も頑張ろうって思えました! 尊敬します!』


 中には、明らかに女性からの『腕の血管、素敵です…♡』といったコメントも混じっている。


 見ず知らずの他人からの、純粋な称賛と応援の言葉。それは、優斗にとって何よりも嬉しい報酬だった。誰かに見られているという意識、応援してくれている人がいるという事実が、彼のトレーニングへの集中力をさらに高めていった。


 SNSは、もはや彼にとって自己嫌悪のツールではない。自分の努力を可視化し、承認され、さらなる高みを目指すための、最高の舞台となっていた。














 そして、このアカウントが、遠くない未来に過去の亡霊――元カノ・美咲の目に留まることになるのを、優斗はまだ知らなかった。

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