狐居酒屋 ~えー毎度バカバカしい小噺を一席~

みなつき

狐居酒屋

 えー、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いを一席。


 ある長屋に女狐めぎつねが住んでおりまして、これが歳の頃三十、油の乗ったいい女。

 ところがその亭主、朝から晩までゴロゴロゴロゴロちっとも働かねえ。



 痺れを切らしたあねさん。

「あんた、少しは働いておくれよ。野に行って兎なり鼠なりさ、狩りするとかさ」

「何言ってんだい。俺は身体が弱いんだ」コンコンと嘘咳なんぞしやがって。

「あんたが働かないと、子のミルクも底つきちまうよ」



 この亭主、悪知恵だけは働きます。

「俺にいいアイデアがある。そこの横丁の狸じじい、最近羽振りがいいそうじゃねえか。お前、安酒でも飲ませてさ。少しばかりおぜぜをいただくってのは?」


 亭主が亭主なら女房も女房。

 まあ、女狐と言えば昔から、少々性悪と相場が決まっております。

「悪くないね」と、家の前に机と椅子出して、狐酒屋の出来上がりってわけさ。



 さっそく提灯を見て、狸じじいがのこのこやってきた。このじじい、酒と女にゃ目がねえってんだから、すっかり姐さんに入れ込んじまいやがった。


 自慢の腹鼓に「あれまあ、素敵な出っ腹」なんて姐さんが煽てるもんだから、毎晩毎晩やってきて飲むは食うわ。子分をお供にポンポコポンポコ大騒ぎ。



 ところがこの狸じじい、渋ちんときてる。明日払う、明日払うと毎晩、けにしてちぃとも金を払わない。

 これではたまらないってんで、「ちょっと、あんた。そろそろ狸じじいから、取り立ててくんないかい」と亭主に相談。



 次の夜、狸じじいに少し酒が入ったところで、亭主が切り出した。

「旦那。そろそろ附け金を払ってくれ」

「俺、金なんぞ持ってないぞ」

「なんだと。羽振りがいいんじゃなかったのか」

「羽振りがいいのはカミさんの方さ」

「じゃあ、初めから払う気なんぞなかったってことかい」と、大喧嘩。



 それを見ていたじじいの子分、呆れて姐さんにこう言った。

「おいら働き者だ。あんたの子の面倒も見る。こんな亭主放っておいて、一緒に来ないか」

「あら」と見れば、25-6ぐらいのトビの兄さん。これがシュッとしたいい男。年上の色っぽい姐さんに惚れちまったってわけだ。



「そうねえ」と、二人は手に手をとって駆け落ちさ。


 これが本当の トンビに油揚げ攫われた。取らぬ狸の皮算用。



 お後がよろしいようで。<(_ _)>














★他のサイトにも掲載しております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐居酒屋 ~えー毎度バカバカしい小噺を一席~ みなつき @Minastuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ