喚ばれた二度目もチートステータス

羽哉えいり

第1話 召喚のタイミングは選べない

「――えっ、もしかして、また、なのか……?」




 身体から浮遊感が抜け、眩しさで閉じていた目を開いて周りの様子を確認する。


 装飾が施されている高い天井に大きな柱、重厚な石材で造られている広い空間。

 そして石畳の床に片膝立ちをしている自分を遠巻きに取り囲んで見ている人たち。その服装や外見で、ここが『異世界』ということに即効気付く。


「み、皆様、召喚に、成功致しました……」


 丈の長いもったりしたローブの人が色違いのローブの人たちに支えられ、息も絶え絶えになりながら周囲に伝える。直後歓喜の声がこの広間中に響き渡った。


 スポーツ観戦中の歓声か?

 正直めっちゃやかましい。


 この大声で目が覚めたのか、自分の真横で寝ていた人物がもそっと起きあがり、目をこすりながら話しかけてくる。


「おはよ〜、おうり。ここはもしやもしやあれなのかな〜?」

「こやき、そうだね。前とは場所違うけど絶対絶対そうだよねー」



「「二度目の異世界召喚ー!」」



 阿吽の呼吸のように息ぴったりで、思っていることを言葉にする。それが妙におかしくってけらけらと二人で笑い合ってしまう。だって我々は箸が転んでもおかしい年頃ですし。

 笑わずにはいられないでしょう、こんな状況は。


 あ、でも引いている人がちらほらいるぞ。さっきまで「うおおおぉぉー」なんて雄叫びあげてた騎士の人たちとか、ぽかんとした顔になっている。


 前の時は初めてだったから余裕も何もなかったけど、2回目ともなれば状況理解も早くて慣れたもんよ。経験者の余裕ってヤツだね。

 いや、そもそも何で我々がまた召喚されてるのって話なんだけど。 


 とりあえず自分らの状態確認。今回召喚されたのは我々二人だけのようだ。


 親友のこやきは学校の制服のまま。青色チェックのスカートに同色のネクタイ、白シャツの上にベージュのスクールカーディガンを着用。他の高校から可愛いと評判の制服である。

 そしてオレも召喚前と着衣変わらず、学校指定の前開きジャージ。水色ベースで白と紺が組み合わされているデザインが割と好き。何よりむちゃくちゃ着心地がいい。なので制服よりジャージを着ている時のほうが多い。学校卒業後にも着ている人がいるって話には共感が持てる。ただ左胸上にフルネームで名前が刺繍されており、簡単に名前バレしてしまうのがちょっと恥ずかしい。


 パッと見特に変わりなく、おかしな所も無さそうだ。自分ら二人して1回目の時と同じ服装なのは偶然なんだろうか。


「おうり〜、うちの髪どうなってる〜?」

「あー、大丈夫大丈夫。逆立ってないし二つ結びはしっかり無事だよ」


 召喚される直前目が眩むほどの光に包まれ、ふわわわ〜って体が宙に浮くような感覚に襲われている。前回到着後こやきの髪が何故かぼっさぼさになっていたのを思い出す。あの時大笑いしてしまったから、それを気にして聞いてきたのだろう。自分も前下がりボブにしてある髪を手櫛でささっと整える。


 今日は学校が午後から休みで部活もなく、こやきの家に直行して、いつものようにお菓子を食べながら恒例のゲーム大会をして遊んでいたんだよね。お腹がいい感じに空いてきて、それじゃあ次はたこ焼きパーティーを開催しようとテンションが爆上がっている時に、2回目の異世界召喚が発生。

 

 何きっかけだ?

 

 というか、今回チーズフォンデュを初めてやってみようと前々から作り方とか調べて凄く凄く楽しみにしていたのに。材料も買いに行って準備万端だったのに。熱々のたこ焼きにとろとろのチーズをつけて食べる夢がお預けだなんて、マジでありえない。青春を謳歌している女子高生にしていい仕打ちじゃないよね。


 ――あれ? 

 そういえば前回と同じことをしている場面があるような気がする。


 思い出そうと考え始めた時、広間の後ろの扉が開き、どよめきが起こる。


「――勇者様だ」

「ああ、王女様麗しい……」


 扉へ視線を向けると、二人の男女がこちらへ向かって歩いて来る。


 起こってしまったことはしょーがない。

 我々の楽しい時間をぶち壊してまで喚びつけた理由を存分に聞いてやろうじゃないの。


「私たちの呼び掛けに応えて頂き、誠にありがとうございます。初めまして。私はフェリシア=バルドールと申します。この国の王女です」


 フェリシアと名乗る綺麗なブロンド髪の可愛い女性。所々に金の刺繍がしてある上質な白い生地のドレスに、ラベンダー色のマントを羽織っている。ドレス丈は膝下くらいだけど、上はマントで胸元は多少隠れているが、やばいくらいたゆんたゆんなのが分かる。


「こちらはスカイ様です。隣国ローダン王国の王子にて、初代勇者様の正統な血筋を持つ方でございます」

「スカイ=ローダンです。お会いできて光栄です。宜しくお願いします」


 幼さがあるけど男性モデルのような整った顔立ち。藍色の長めの髪を後ろで一つに結び、濃い緑色のマントの下には動きやすそうな鎧を身に着けている。背中にある大きい長剣が戦い慣れしてそうに思わせる。


 ローダン……、ああ、ローダン王国って、思い出した。

 前に我々を召喚した国の名前と一致している。それならまた同じ世界に来たのかもしれない。


「500年前に邪悪な者から世界をお救いになった勇者様のお仲間様、どうか、どうかこの度もお力をお貸しくださいませ!」


 王女が悲痛な面持ちで話してくる。どうやら前回喚ばれた時からこの世界は500年経っているらしい。



 ――勇者に仲間がいたことが知られてるなんて、あいつ、オレたちとの約束を守れなかったのか?



 まあ、それはそれとして、現状見過ごせない事案が発生しているんだよね。今はそこにしか目がいかない。


「ねー、おうりー。うちね、今すっごい思うことがあるんだけど〜」

「あー、こやきも思ってた? すっごいよね」


「「お姫様の、でっかいよねー」」


 フェリシア王女のご立派なものを見ながら、我々はこそっと小声で同じことを言う。世界を救う云々よりも、今はただ王女のご立派なものの将来が心配になる。

 だって大きさ的にあのままだと垂れてしまう確率が高そうだ。つい先日、同じクラスの子から胸が大きいことの弊害と対策を熱弁されて詳しくなったばかり。知識を手に入れてあるので世界よりむしろそちらをお守りしたい。

 

「あの……、どうかされましたか?」

「いや、どうもしません。良いものをお持ちで素晴らしいなと」


 酔っ払った変態のオッサンのようなヤバい発言をしてしまう。言われた王女は意味が分かってないようなのでセーフ。

 女子高のノリでつい言ってしまった。反省反省。


「えーと、お二方のお名前をお伺いしたいのですが……」

「あー、はいはい。オレはおうり、春日野おうり。こっちはこやき、上若林こやき。年は二人とも17歳。よろしく」

「カスガノ、オウリ、様? カミワカバヤシ、コヤキ、様?」

「おうり〜、前回と一緒で名字まで伝えると混乱させちゃうよ〜」

「あっ、そうだね。オレらのことはおうりとこやきって呼んでくれて大丈夫です」

「オウリ様にコヤキ様、ですね。教えて頂き、ありがとうございます」


 フェリシアとスカイは丁寧にお辞儀をしてくる。王女と王子だからか、育ちがいいってこういうことなのかな。

 強制的に喚びつけられてたまったもんじゃないけど、やむなし。とりあえず話の擦り合せをしないとね。


 さっさと終わらせて、こんな思い入れも何も無い世界から帰るんだ。


 たこ焼きが、我々を待っているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る