第15話 私の完璧は彼のため
カタカタとキーボード音を鳴らし、資料を作っていく俺。
「はぁ、ただでさえ班決めで憂鬱なのに、なんで俺がこの作業なんだ?」
少しでも気を紛らわせたくて来た生徒会、まかされた仕事は修学旅行のしおりだった件。
……うん、これだけで小説書けるな。
「どうした春、今日はお前が一人で生徒会に来これた記念日なのに。」
「勝手に記念日認定すんな。」
「すまんすまん、でもやっぱりご機嫌斜めか?」
「……別に修学旅行の班決めに納得いってないとかそういうのじゃない。」
「ほぼ出たぞ。」
お前には分からんだろうな立喜よ。俺は入れる班が限られてる人間なんだ、話せる人はいても、いざ一緒に行動するとなると気まずいんだ。
俺にもプライドはあるんだ、あまり弱みを晒させる様な事させないでくれよ。
こういう自分の話を掘り下げられたくない時は、相手の繊細な部分を突くのさ。
「それより立喜、宮前先輩攻略は順調か?」
「おまっ!?」
ふっ、決まったな。ひどく動揺してるじゃないか
「ここでその話すんなよ、いつ来るかわからねぇんだぞ」
「ふんっ、俺の傷を抉るからこうなる」
「それは悪かったけどさ〜」
でも聞いたら聞いたで、気になってきたな。あれから少し経ったけど、進捗はどうなんだろう。
「少しだけ聞かせてくれないか?お前も報告の場が欲しいだろ。」
「す、少しだけだぞ?」
やっぱり話したかったんじゃねぇか。にやけ顔が隠せてないぞこのイケメン。
「あれからな、ちょっと踏み込んでみてタイプを聞いたんだ」
「あぁ、俺の予想だと鋼の草の炎四倍弱点だな」
「ポ◯モンかよ、てかそっちのタイプじゃねぇよ!」
最近立喜はツッコミのキレが上がってきた気がする。
「ごめんごめん、最近ハマってて。続き聞かせてくれ」
「……それでな、タイプじゃないんだけど。好きな人がいるらしくてさ」
「な、なに!?それ割と重大情報じゃん!」
思わず大きな声を出してしまった。
……まじか、あの会長に好きな人が?
でも、一番の問題は、、、
「……誰かは聞いたか?」
「いや、流石に無理だった。」
そうですよねぇ
「でも」
でも?
「……生徒会のメンバーらしい」
へぇあ!?まじかよ、生徒会じゃ無い奴それ聞いたら卒倒すんぞ。
てか、それもしかして立喜、まじで……
「それ、二人きりの時に聞いて言われたのか?」
「あぁ、俺を見て微笑みながらな」
確定だ。俺の恋愛経験則(正確性につきましては保証は出来ません)が言っている!勝ち確や!
「立喜、おめでとう。」
「何がとは聞かない。ありがとう。」
どうやら彼も勝ちを確信している様だ。いや、
これは過信でもなんでもない。ついに落とされたんだ難攻不落の会長が。これは快挙、賞を与えるべき。
そろそろ立喜の勝ち確エンジョイ恋トークに火がついてきた所だが、俺は知ってる。こういう時に限って……
ガラガラガラ
「あら、二人とも早いのね、お疲れ様。」
「お、お疲れ様です!」
はい来た。これなに?どっかで聞いてんの?次は立喜を讃える回が始まるとこだったのに。
「柏村くん、お疲れ様」
「……お疲れ様です」
ちな会長は挨拶が返ってくるまで、無限に聞いてくる。
「ふふっ」
会長が微笑む。見慣れないその様子に少し違和感に何故か怖いと思ってしまう。
「え?怖いんすけど、どうしたんですか?」
あっ、やべそのまま口に出た。
「いいえ?柏村くんがこうやって、真面目に働いてくれているのが嬉しくって。」
「なんていうか、すいませんほんと」
「別にいいの。今はこうやって、しっかりやってるもの」
生徒会室での俺の会話の五割は謝罪だ。入学してすぐ生徒会選挙がある珍しい学校で、入学した直後の俺は勢いのまま生徒会に立候補し、当選した
今思うと俺が当選した理由がわからない。同じクラスでは美波や黒峰さんも立候補していた。でも選ばれたのはクラスで俺だけで、学年でも立喜と二人だけとなった。
まぁいっか、仕事し──っ!?
「か、会長、どうかされました?」
作業を再開しようと画面に目をやると、モニターの上側から会長が覗いていた。
いやなにしてんの?この人、、、
「そっか、もう修学旅行の時期なのね。」
懐かしそうにそう言う会長はどこか寂しそうにも見えた。
「会長は去年ですもんね。楽しかったですか?」
「お、俺も気になります!」
なんか隣からイケメンが飛び出してきた、急に割り込むなよ、反射で裏拳を入れるとこだったぞ。
「んーっ、楽しかったわ。……でも少し物足りなかったわね。」
顎に人差し指を当て、思い出を振り返っている
会長はなんでか俺を見て言ってる気がする。
「宮前先輩、物足りなかったっていうのは?
あっ!言いたく無い理由なら言わなくても大丈夫です。」
しっかり聞くとこは聞くが、相手に逃げ道を用意した質問は立喜の人の良さが表れている。
「気になる?」
「は、はい。気になります」
「柏村くんは?」
なんで俺に聞いてくるんだよ。もちろんイエスですけどね!
「気になります。」
「そう。じゃあ言うけど、一緒に行きたい人がいたの。学年違うから無理だったけどね。」
おっとぉ?
それはもしかしなくても、立喜の事では?思わせぶる様な視線でこちらを見てくる会長。
視界に入っているのは俺と立喜、この場合は立喜に向けたものだろう。
もちろん学年が違うと言うのは三年も当てはまるが、この生徒会はなんと三年がいない。
どんどん、ピースがはまっていく。
ちなみに肝心の立喜は机の下で力強いガッツポーズを決めた後、固まって動かない。
その日は立喜に飯を奢らせてから帰った。俺たち友達だろ?俺にも良い思いさせろこの野郎。
◇
後輩たちが帰り、静かになった生徒会室で今ここにいるのは私だけ。
私にはこの時間しか彼を独り占めにできない。
さっきまで彼が座っていた椅子に座る。そうすると下半身から彼の温もりを感じる事ができる。
本当は椅子に顔をうずめたいくらいだけど、汚れたら悪いしそんな事はしない。
どうせ家に帰ったらまたあの子に好き勝手されるんだ。契約とはいえ、許せない自分がいる。
「はぁ」
机に俯き、短いため息をつく。私が完璧なのは彼のためだ。これがこの学校で不自由なく過ごすため、あいつらから少しでも遠ざけるため、
そして……彼を管理するため。
そう思うと歳が違っても良いと思えた。社会に出てもそうだ、私がいち早く彼のための環境を作って彼を迎えれば良い。
今日は色々アピールしてみたけど、いまいち伝わっている気がしない。
「ねぇ、私いつまでも完璧でいて待っててみせるから、その時が来たら私を褒めて、私を認めて、
……私を愛してくれる?」
ううん、きっと私が望むものくれる。
だって彼はそういう人なんだもの。
────────────
15話目ですね!
報告なんですが、僕は今週からインターンシップが始まってしまうので更新が不安定になるかもです。すいません!
次回は地獄の班活動。柏村春死す。※死にません
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