第10話 明るいあの子の暗い過去(1)
「うん、私はね、死にたかった時にあなたに、
春に救われたの」
……は?
あまりにも唐突だった。
動揺しながらも、聞かなくてはと思った。
「ど、どういうこと?」
「あ!違うの、困らせるつもりで言ったんじゃなくて。それくらい助けられたってこと!」
な、何だそういうことか。おまりに重々しい感じだったから勘違いしてしまった。
……それになんだか、聞きたくない言葉だった
那佐さんが訂正した後、話を続ける。
「それでね、私は昔さ子役をやってたんだ。自慢じゃないけど、ちょっぴり有名だったの、」
「……」
那佐さんが過去に対して何を思っているかは分からないが、少なくとも良いようには思っていなさそうだ。
「それでね、自分が一番でなきゃ嫌みたいな。そんな嫌な子で、そんな自分が今は嫌い。」
そう、私は過去に後悔しかない。
でもそれは貴方がいなかったらの話。
「良かったじゃない!また仕事が増えるわよ!」
「良くやった!お前は自慢の娘だ!」
初めはお母さんとお父さんに褒めて欲しかったから続けてた。ただそれだけの為に
「うん!私頑張るね!」
こうやっていられる間は両親は私を見てくれる。そう思っていたから子役をしていた。
「させないわ、その手を離しなさい!」
「はい!カットー!」
「いいね!美波ちゃん、今日も絶好調だね」
「ありがとうございます、監督」
役者として生きるのは私にとって、そう難しいものでは無かった。監督や他のキャストも愛想良く接していれば、良く扱ってくれた。
少しのイレギュラーはいたけどね、
「ちょっと!そこの那佐!」
「……」
「おい、緋奈が呼んでるだろ。無視するな」
「何?私、忙しいんだけど」
彼らは私と同い年で、当時の私に負けないくらいの知名度があった。
双子の妹の方が七咲緋奈(ななさき ひな)黒髪にツインテールで、染めた明るい緑のインナーカラーが幼さの割に大人な雰囲気を出していてる。というのは黙っていればの話で、話す姿は年相応すぎて、また印象が変わってくる。
双子の兄の方は七咲緋佩(ななさき ひお)妹に同じく黒髪に緑のインナーカラーを入れており、サラサラした髪が目先を揺れている。性格は落ち着いていて妹を制止する事も多いが、基本的に妹を優先する。
そんな変わった兄妹だけど、なんだか羨ましくも感じていた。
「那佐、今日も撮影お疲れ様!でも、私の方が目立ってたわ!」
「そう、それはよかった」
「さっきから何だその態度は、せっかく緋奈が話しかけてくれているというのに」
「別に頼んでない。それじゃ私忙しいから」
「あ!ちょっと!」
「もう良いだろ緋奈。あんなやつほっとけ」
この二人は世代で唯一、私と張り合える演技力を
持っていた。よく、二人セットで私とライバル扱いされていたが、そんな事は心底どうでも良かった。
私は年齢に比べて少しだけ大人びていたから、
出来る演技の幅が広くて重宝されていた。そんな少しの要素で芸能界では大きな差ができる。
だから、私は自分の強みを誰よりも理解して、全面に押し出していかないといけない。じゃないと置いて行かれるから、誰にも見て貰えなくなるから。
「じゃあ、美波ちゃん帰ろっか」
「はい、硯さん」
マネージャーの
「おおー!すご!俺の家100個分くらいの高さあるんじゃね?」
「そんなにないよ春くん!それより早く入ろ!」
いつものように硯さんに送ってもらい、帰る。 ただそれだけのはず、変わったのはそこにいた
貴方達
その時は場違いな子供がいるなぁって思った。
それになんだかずるいとも思ってしまった、
私も最初はそうだったから。
テレビで自分と同い年の子を見た時、私は理由もなく惹きつけられた。
形容し難く、何かに押されるように芸能界に入った。
自分だってあんな風になれるんだって、確かな夢と希望を持って入った。あの時の私はこの子達そっくりだと思った。でもそう思うと、逆に可哀想に思えてきたけど、それも自分が哀れになるだけだった。
だってここは想像したような愉快な場所ではなかったから、どこまでも業務的であり、演技でしかない。
スポットライトが当たるのは一握りのごく一部であり、その裏には数え切れないほど、夢を諦めた子達がいる。
「……こんなとこ入らない方がいいのに、」
つい声にも出してしまう本音
「……美波ちゃんはお仕事つらい?」
「辛くはないです。でも楽しくもないです、」
「……そっか」
私がここに居続けるのは両親を喜ばせたいから
□
「今日もお疲れ様。私、監督さん達に挨拶あるから楽屋で待ってられる?」
「はい」
大きな撮影が一区切りつき、硯さんが挨拶して周る。私は言われた通り、先に楽屋に戻っていく
「うーん、なんでダメだったんだろ?」
「絶対間違えてるんだって!春くんが落ちるわけないじゃん」
「それは過超評価ってやつじゃないか?」
「……春くん、過超じゃなくて過大だよ。春くん台本の漢字読めた?」
「読めなかったから、アドリブでやった!」
「だからじゃん!今から春くんが読める台本作らせよ?演技で春くんが落ちるわけないもん!」
見覚えのある二つの影、思っていた通り以前ビルの前で見た二人組だった。
「誰かにアドバイスとか貰えないかなぁ。ん?」
二人組の男の子の方が私を見つめてくる。
……嫌な予感がする。
「なぁ、そこの君!俺に演技を教えてくれないか?」
「は?」
「春くん!教えて欲しいなら私が教えてあげるから、知らない子に聞かないで!」
女の子の方は男の子を揺らすが、男の子の目は
真っ直ぐこちらを見つめたままだった。
「な、なんで私が……」
「いいじゃん!君、演技上手そうだし、ね?」
「い、嫌です。他の人に聞いてください」
「は?春くんが頼んでんのにそれは無いでしょ」
あなたは結局どっちなの?
「別に私じゃなくても……」
「てか、この子もしかして那佐美波じゃない?」
「なんか聞いた事あるな、誰だっけ」
いちいち癇に障る子達だけど、なんだかその時間は心地よくて、少しなら良いかと無意識に絆されてしまった。
「しょ、しょうがないし、ちょっとだけなら
い、いいよ?」
「まじ!?ありがとう!」
「えー、もういいじゃん春くーん」
少しの暇潰しにとその子達と楽屋に入った。
「じゃあまずは自己紹介だな、俺は柏村春!こっちは永乃碧だ。君は?」
「私は那佐美波、とゆうか本当に私のこと知らないんだね、」
「なんかすまん」
「いいよ別に、じゃあ早速なんだけどこれ呼んで」
今回の撮影で使った台本を手渡し、その中のあったセリフを適当に指差す
「分かった!」
それからはしばらく、技量を測るためにセリフを読んでもらった。
……結論から言うと思ってたより酷くは無かった
むしろ、これが初めてなら私よりすごい。
永乃さんは基本に忠実で、安定した出来だった。
柏村くんは基本が全然成ってなくて、練習してない事が透けて見えてたけど、感情の入るシーンでは演技を演技で無くしてしまうような自然さがあった。それが私には懐かしい感覚を思い出させた
「う、うん。なんか二人とも思ったより出来てるね」
「ふん、当たり前でしょ。春くんがオーディション受けるって聞いて、毎日12時間は練習したもん」
「すごいな、碧ちゃん。俺は毎日10分が限界だった。」
「えへ♡、もっと褒めてもいいよ?」
「……あの、アドバイスいい?」
「あぁ、ごめん。こっちから頼んどいて、今から頼む」
「……むぅ」
その後は頼まれた通りにアドバイスをしたり、私の演技が見たいというから、見せてあげたりも
した。
そうすると必ず柏村くんが「すごいな!本当に泣きそうになったよ」「天才だ!ここに演技の天才がいる!」ふざけたように聞こえる褒言葉でも、ただ、彼が褒めてくれるだけなのに、それは私にとって新鮮なものだった。
「でね、ここをこうするの」
「ふむふむ、そういう感じかぁ。美波は教えるのも上手いな」
「……そ、そんな事ないよ」
いつの間にか春は私をしたの名前で呼ぶようになった。だから、私も春と呼ぶ事になった。短時間だけど、どんどん縮まる距離が嬉しかった。
「私の春くんに色目使わないでくれる?」
「使ってないし!それよりあなたは何しに来たのよ!」
「春くんに変な女近寄らないかの監視ー」
「真面目にやらないなら出てってよ!私は春に教えるので忙しいの。」
「そうやって、春くんを私から寝取るつもりなんでしょ!させないから!」
「寝てから言って!早く出ていきなさ──」
「美波ちゃん?他にも誰かいるの?」
「あ、硯さん……」
「あなたたちは、この前、本社に居た子?」
「お邪魔してます、美波の友達の柏村春です!
こっちの子は永乃碧で同じく友達です。」
「そ、そうなの?美波ちゃん。」
「は、はい」
「そうなの!それは良かったわ、美波ちゃんが同い年の子と仲良く話してるの見た事ないから」
予想外、そして心外な言葉だが事実なのが刺さる言葉だった。
「す、硯さん!」
「あ、ごめんなさい。でもどうする?美波ちゃんそろそろ帰る時間だけど」
「あ!でも、え、えっと」
もう少し一緒に居たいなんて我儘が脳裏をよぎる
「美波、またな!」
些細なあなたの一言それが私の明るい明日を約束してくれたみたいで、心の底から安堵した
「うん!」
それからは充実しているようで、色がついてなかった私の世界をあなた達が沢山の色をつけてくれた。
でも、やっぱりなんでもうまくは行かないみたい
────────────
記念?の10話目!
今、主人公周りの過去編を見直してみると、だいぶ曇ってたので、タグに曇らせを追加しました!
那佐さんの過去編は1話で書き切ろうと思ったんですけど、長くなりそうなので区切りました!
次回もお楽しみに!
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