第10話 歪んだ関係

「――この近くの宿だ」


 二人の男がローブに身を包み、路地裏に身を潜めていた。

 すでに夜は更けており、周辺に人の気配はない。

 すっかり寝静まった時間帯だが――彼らの目的は一つだ。


「あの死体はメッセージだ。あれほど残虐に痛めつけた死体を見せつけることで、手を引けということ。だが――我々がその程度で引き下がると思っているのならまだ甘い」


 彼らの狙いはクリスだ――彼らの仲間の一人がクリスを発見し、先行して仕掛けた。

 その結果――返り討ちにあった。

 少なくとも、クリス一人の犯行ではないことが分かっている。

 どうやったのか、彼女は協力者を手に入れたのだ。

 それも――まともな思考の持ち主ではない。

 森の中に残された遺体は随分と痛めつけられていた。

 一部が魔物によって食い荒らされていたが、それを加味した上でも――凄惨さは伝わる。

 クリスを追うのであればお前もこうなる――そういうを理解した上で、彼らはここにいる。


「仇討ちなど柄ではないが――仲間をやられて黙っているわけにもいかないだろう」

「その通り。我々の沽券に関わるものだ」

「――そんな安いプライドは捨ててしまってはどうです?」

「!」


 声がした方角に視線を向けると、そこに立っていたのは一人の少女だった。

 片手に小型のハンマーを持ち、小さく笑みを浮かべている。


「何者だ――と、聞く必要はなさそうだな」

「せっかくなら名乗らせてください。ルーフェ・トリジアン――趣味は拷問です」

「拷問――お前があれをやったのか」


 男達の雰囲気が変わる――突如、姿を見せたルーフェに対し、向けるのは殺気だ。

 当然、それも彼女には伝わっているはずだが、ルーフェは余裕の態度を崩さない。

 男達から見れば、ルーフェは素人だ。

 暗殺者というわけでもなければ、小型のハンマーなど武器にしている時点で、彼女が戦闘向けの人間でないことは分かる。

 だが、ここに姿を見せたのは――おそらく拷問で得た情報があるからだろう。

 少なくとも、ルーフェは男達のことを把握している。


「後ろに回れ。俺は正面からやる」


 一人の男が声を掛けると、もう一人は頷いてその場から姿を消した。

 ――ルーフェはその動きを追えていない。

 やはり、男達から見ても彼女は素人だ。

 こうして対峙している間も、隙だらけなのだから。

 だからこそ――異様である。

 少なくとも殺された仲間より強いとは思えないからだ。


「どうしました? いつでもどうぞ」


 煽るような口調でルーフェは言い放った。

 男達は――前後から挟むようにして一撃を加える。

 背後からは心臓を、正面からは喉元を――確実に死に至らしめるための一撃だった。


「ご、ふっ」


 ルーフェは血を吐き出し、びくりと身体を震わせた。

 手応えもあり、確実に仕留めたはず――なのに、彼女はその状態でハンマーを振り下ろしたのだ。


「……!?」


 衝撃。

 仕留めたという一瞬の油断が、その隙を生み出してしまった。

 しかも、刃が突き刺さった状態でルーフェは無理やり身体を動かして、二人の頭部を殴り抜いたのだ。

 後方に回った仲間は当たり所が悪かったのか、大きく身体を痙攣させたままに地面に倒れ伏す。

 もう一人――正面に立った男は、揺れる視界の中、膝を突いてルーフェを見上げた。


「ああ、後ろの彼――このままだと助かりませんね」


 随分と淡々とした口調で言い放った。

 男はルーフェに化物でも見るかのような視線を向ける。


「お前……何故、動ける……!? 何故、生きているんだ……!?」


 与えたはずの致命傷はすでに完治している――それはもはや、人が扱える治癒術の領域を遥かに凌駕していた。


「何故と言われても、私はそういう才能があったんです。もしも、私がまともであったのなら――今頃治癒術を生かして、聖女として崇められていたかもしれませんね?」


 どんな傷でも癒す聖女――かつて、この世界にもそんな存在がいたとされている。

 実際、ルーフェの治癒術を見れば、誰もがそう思うだろう。

 けれど、ルーフェはそんな存在になるつもりはないのだ。


「実のところ、今日はもう満足しているんです。クリスの安全を確保するためにここにいるので――当たり所さえよければ、もう何発かであなたも楽になれますよ」

「こ、の――がっ」


 男は抵抗しようとするが、無慈悲に振り下ろされたハンマーに成す術もなかった。

 ――こうして、クリスを狙った者達は、本人の知らないところで静かにこの世界から消え去ることになった。


   ***


 ルーフェが部屋に戻ると、クリスはベッドで静かに眠りに就いていた。

 ルーフェは返り血のついた服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿でベッドに座る。


「大丈夫。あなたが狙われている限り――私が守って差し上げますから」


 その言葉通り、ルーフェはクリスを守るつもりだ。

 彼女にとってクリスは最高のパートナーかもしれない――一緒にいるだけで、自身の欲求を解消できるのだから。


「私は異常者ですが、あなたと一緒にいれば――多少は普通でいられるのかもしれませんね」


 自嘲気味に小さく笑みを浮かべて言い放つ。

 本当はそんなことは微塵も思っていない――けれど、ルーフェはクリスと共にいれば、確かにまともではいられるのだ。

 そして、クリスはルーフェといる限り――きっと死ぬことはない。

 そんな二人の――歪んだ関係がそこにはあった。



***あとがき***

読みやすい長さでまとめちゃおうと思ったのでここらで一区切りにしていこうと思います!!!!

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元拷問官の最強治癒師 ~拷問のついでに会得した治癒術で不死身です~ 笹塔五郎 @sasacibe

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