第16話 八雲の記録
これは、八雲こと俺が記録として残してきた、この世界についての知見をまとめたものである。
これまでの情報を基に、世界の構造、用語、そして共に在る者たちについて記す。
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俺が転生したこの世界の名称。
かつてプレイしていたソーシャルゲーム『神環ノ縁』を基にした異世界だが、ゲームの再現ではなく、独自の歴史と文化を持つ。
住民は全て実在の人格を持ち、ゲームキャラクターとしてではなく、一人の人間として生きている。
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この世界を循環する霊的エネルギーの流れ。
天地、火水、命と名付けられた五つの神格が互いに霊力を循環させ、霊災と呼ばれる穢れを封じ込めている。
巫女たちの神技は、この神環の流れを媒介することで発動する。
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神環の乱れによって発生する、穢れの具現化。
異形の霊的存在として現れ、人々を蝕む。
通常の浄化では対処できない規模のものは、空間そのものを迷宮として封印する必要がある。
■スキルリンク/
本来、異世界転移者(プレイヤー主人公)と巫女の間でのみ成立する神技継承の儀式。
性交を通じて霊力の流れが変質し、本来では得られない力が顕現する。
俺のような転生者(NPC)には本来不可能なはずだが、レンの出現により状況が変化した。
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俺が独自に名付けた現象。本来、スキルリンクは「転移者(主人公)⇔巫女」という一対一の接続だった。
しかし、レンとの結縁後に発生した現象は、それとは明確に異なっており、「転移者(レン)⇔八雲(俺)⇔巫女(綾音たち)」という俺を介在させていることからそう名付けた。
神主として修行している俺たちは巫女との行為により力を与えることは出来たが俺だけがブリッジ可能な理由は不明。
■転移者補正
外来転移者に対して自動的に働く、言語翻訳などの適応システム。
この世界がプレイヤーの存在を想定して設計されていた証左。
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◆用語
■封印迷宮
霊災が都市域に浸潤した際、霊的震源を閉じ込めるために空間そのものを迷宮化したもの。
内部では神環構造が発狂した異形の霊がうごめく。
■神環水
霊素の還流作用がある湯。
過剰な神技使用での霊路疲労を和らげる効能を持つ。
■巫女階
巫女たちの社会的な階級制度。
相里家のような五家は最上位に位置する。
■環式・防陣転布
俺が独自に編み出した巫術結界戦術。
攻撃力を持たない代わりに、防御と制御に特化している。
自らの身体を術結界の支柱とする技術。
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綾音とレンが編み出した、二人の感応だけで成立する連携神技。
ゲームの「神縁双技」とは異なり、媒介者を必要としない。
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◆人物
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【基本情報】
- 前世:現代日本の半導体技術者・山本祐一
- 享年:42歳(2024年5月、心不全で死亡)
- 転生先:神理界カグラのNPC神職
- 現在の立場:神環大社の宮司
【来歴と心情】
この世界に転生して二十余年。当初は「ゲーム『神環ノ縁』の世界」として認識し、本来の主人公(男性プレイヤー)が召喚されるのを待つつもりだった。しかし、レンという女性の姿で転移者が現れたことで、状況は一変した。
俺は本来、脇役のはずだった。主人公の親友ポジションとして、巫女たちを支える存在。だが今、俺は巫女たちと結ばれ、彼女たちの縁の中心にいる。
この矛盾に、俺はまだ答えを出せていない。
【戦闘スタイル】
攻撃力を持たない代わりに、防御と制御に特化した巫術結界戦術。
「盾役(タンク)」として、仲間を守ることに特化している。
【葛藤】
この世界が俺を「主人公」として扱い始めていることへの違和感。
ヒロインたちが俺を求める理由が、ゲームの設定によるものなのか、それとも彼女たち自身の意志なのか。
その答えを、俺はまだ見つけられずにいる。
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■陽ノ宮レン《ようのみや・れん》/
【基本情報】
- 本名:朝比奈美央
- 芸名:陽ノ宮レン
- 職業:声優(転移前)
- 担当予定役:『神環ノ縁』未実装キャラ「柊ユリ」
【来歴】
本来、男性の姿で召喚されるはずだった「プレイヤー主人公」が、なぜか女性の姿で転移してきた存在。
声優としてようやくメインキャラクターを掴んだ矢先の出来事だった。
当初は「男でない自分では役に立てない」という劣等感に苦しんでいたが、俺との結縁を経て、「声を持たない者の声になる」という使命を見出した。
【性格と成長】
明るく前向きだが、内心では不安を抱えている。
他の巫女たちとの関係性において、緩衝材としてのバランス感覚が強い。
最近では、綾音や玲を萌えさせて制御する技量?も持つようになった。
【神技】
霊環模写・外写接続。他者の神技の残響を感じ取り、リンクする能力。
【彼女にとっての俺】
「元の世界に戻る方法を探す」と約束した相手。
同時に、この世界で初めて自分を「選んでくれた」存在と思ってくれている。
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【基本情報】
- 出身:都・相里家
- 立場:巫女姫
- 武器:銀細工を施した薙刀
【来歴と性格】
都出身の巫女姫として育てられた、格式と理性を備えた上位巫女。
常に冷静沈着、言葉選びも丁寧で、他巫女からも一目置かれる存在。
しかしその実、「姫」という役割に縛られ、「綾音」としての感情を深く渇望していた。
俺との出会いを通じて、「姫」ではなく「女」として生きることを選んだ。
【神技】
広域型薙刀術と神環散布型の同時展開。
【彼女にとっての俺】
「名を呼び、名で抱いてくれた」存在。
姫ではなく綾音として、初めて愛されたと感じてくれている。
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【基本情報】
- 立場:綾音の護衛
- 身長:180センチ
- 武器:剣
【来歴と性格】
戦斧を振るう前衛型の巫女。口調は男勝り、態度も直情型。
性には奔放だが、誰にも心を渡してこなかった。
その結果、巫女として神縁反応を示さず、「結ばれていない巫女」と認識されていた。
俺に「盾としての姿」を見て心を動かされ、初めて「受け身」になることを選んだ。
【神技】
最強クラスの攻撃神技。「自己再定義」が条件で発動する。
【彼女にとっての俺】
守るべき自分が「守られた」相手。
初めて「受け入れる側」になることを許してくれた存在と感じてくれている。
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【基本情報】
- 特性:音霊巫女
- 特徴:足首に赤鈴を結んでいる
【来歴と性格】
音を媒介にする特殊な霊感体質のため、幼少期より「声を持つこと」を禁じられて育った。
俺との結縁で初めて「声」を得たが、それ以降も日常会話を自ら拒む沈黙状態に戻っていた。
音を拒絶する霊災との遭遇を経て、初めて「声を出すことの意味」に直面。
俺の呼びかけに応え、自らの声で叫ぶことで覚醒した。
【神技】
音の共鳴による霊災制圧。
【現在の状態】
普段のダウナーな口調と、挑発的な甘え方を自在に切り替えるようになった。
「声を持った響」として、第二の変化段階に入っている。
【彼女にとっての俺】
「声を出しても怒らなかった」相手。
「いっぱい喋らせて」と願える存在。
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◆俺の記録
この世界は、俺に何を求めているのか。
ゲームの再現なのか、それとも新しい物語なのか。
巫女たちが俺を求める理由は、設定によるものなのか、それとも彼女たち自身の意志なのか。
まだ、答えは出ていない。
だが、一つだけ確かなことがある。
彼女たちは、確かに「生きている」。
そして俺は、彼女たちと共に「生きている」。
それが、この世界における俺の、今の答えだ。
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【八雲の記録ノートより】
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