RPGの脇役はバッドエンドを許さない~RPGのモブに転生したからバッドエンド回避して女主人公とラスボスを助けたらなぜか修羅場になった~
白波 鷹
第1話 モブ、ゲーム世界に転生する
―『プリテスタファンタジー』。
いわゆるRPG(ロールプレイングゲーム)というこのジャンルには主人公を男女選択できるものがある。この『プリテスタファンタジー』もその一つであり、よく見掛けるごく普通の作品だ。
しかし、この手の作品に思っていたのだが、モデルや台詞も別々に用意されているにもかかわらず、片方の主人公を選んでしまうと、もう片方の主人公の出番がないというのも勿体ないよな、と思ったりしたことがあるのは俺以外にも居るんじゃないだろうか?
そして、俺はというと、その手のゲームでは必ず男を選んでいる。いや、だって女の方を選ぶのって俺が男というのもあってストーリーに入り込みにくいし……なんか恥ずかしくて。
とまあ、そんな話は置いておいて―
「―それで、俺は夢でも見ているんだろうか?」
俺は鏡に映る自分の姿に思わず首を傾げながらそう口にする。というのも、なぜか目が覚めると、俺はその『プリテスタファンタジー』の世界に居たのだ。
「ただ……ここ、俺の知ってる部屋じゃないんだよなぁ……しかも、まだ子供だし」
そう言って、俺は鏡に映る自分の姿を色々と見てみる。まだ十歳そこそこの子供の見た目ではあるが……うん、間違いなく俺が極めた『プリテスタファンタジー』の主人公の見た目で間違いない。親の顔ほど見たからな。
とはいえ、簡単に信じることができない俺は自分の拳を作ると―自分を思いっきり殴った。
「痛ぇ!? な、何すんだ!? ……ふむ、やっぱり痛いな」
一人芝居をうってみたが、普通に痛い。夢じゃないらしい。
――まず、状況を整理しよう。
俺はこうなった原因を探るため、軽く今日までの記憶を遡ってみる。
社会人になって入った企業がブラックで、毎日死に掛けて、上司のミスに付き合わされていつもサビ残を強要され睡眠不足のせいで起きてるんだか寝てるんだか分からなくて―
「―はっ!? い、いかん……! 社会という現実のあまりのヤバさを思い出して思わず気絶しそうだった……! ……よし、忘れよう」
そう思うと、俺は綺麗さっぱり昔を忘れた。うん、忘れた。
「しかし、それはそれとして、結局ここはどこなんだ?」
『プリテスタファンタジー』の主人公はもともと王国生まれで、親は居ないものの、他の弟子と一緒に子供の頃から普通の家に住まわせてもらってるはずだけど―
「……どう見ても、お世辞にもここが『普通の家』とは言えないよな」
ボロボロになった壁や天井、そしていたるところに無理矢理付けた板……雨でも降った日には間違いなく浸水するだろうこの場所を普通の家とは間違っても言えない。おまけにベッドだって埃だらけでほとんど布切れ状態……ここ、本当に人が住む場所なのか?
「まあ、ちょっと、外でも見てみるか……よっと……って、おおおお!?」
窓の外を見てみると、真ん中に城が建っていて絶景だった。そして、それはまさに『プリテスタファンタジー』の中にあった城であり、俺がその世界に来たことを証明した。
「まさか、生きて『プリテスタファンタジー』の城を実際に拝める日が来るとは……感慨深いな。いや、生きてる……のか?」
まあ、そんなことはどうでも良いか。
そうして、俺が窓から見える景色に感動していた時だった。
―カンカンカンッ!
「ん? なんの音だ?」
例えて言うならフライパンをお玉で叩いたような……いや、そんなベタなこと今時しないよな。しかし、扉の向こうから聞こえてくるその音はそうとしか言いようがなく、俺が疑問に抱いていると、やがて扉が開かれた。
「ちょっと、シュウ? お昼だけど、具合でも悪いの?」
「え? 俺の名前?」
心配そうな顔で扉を開いてきた女性が発した言葉に俺は思わず声を上げてしまう。
俺の生前の名前は最宗 修(さいそう しゅう)……しかし、この『プリテスタファンタジー』の主人公の名前はマフィだ。
男女ともに使える名前に設定されていて、俺の姿はその男主人公だし、マフィだと思っていたんだが……。
「えっと、あの……それって俺の名前?」
「え……? ちょっと、まだ寝ぼけてるの? もしかして、頭でも打った?」
そうして、俺が戸惑っていると、少女はずかずかと中に入ってきて、わきにフライパンとお玉を置いて俺の下へとやってくる。さっきのってやっぱりあれだったのか……。
そして、俺よりも少し年上であろう彼女は、俺のおでこに手を置くと、心配そうな顔で声を掛けてきた。
「熱は……無さそうね。大丈夫? 私のこと分かる? エリシルよ」
「あ、あ~……」
すると、なんか少し記憶っぽいのが流れてきた。そうだ、彼女の名前はエリシル……この孤児院の年長者だ。
どうやら、俺は過去のこっちでの記憶と現実の記憶が同時に存在しているらしい。
とはいえ、こっちの記憶は映像として記憶されているというか、あまりはっきりはしておらず、現実の記憶の方が強く残っている。
ただ、今みたいに何かきっかけがあれば思い出せるみたいだし、上手く使えばこの世界で変に思われずに生きていけそうだ。
「ごめん、エリシル。もう大丈夫。まだ起きたばかりだから寝ぼけてたみたいだ」
「本当に? 風邪とかひいたりしてない?」
「大丈夫大丈夫」
「もう、しっかりしてよね。それより、ご飯できてるから早く食堂に来て」
「すぐに行くよ」
そう言って、扉の向こうに消えるエリシルを見送ると、俺は頭の中に出てきた『引っ掛かり』に両腕を組んで考える。エリシル……エリシル……はて、その名前をどこかで聞いた記憶が―
「―あ」
あれだけ『プリテスタファンタジー』をやり込んでいた俺ですら、エリシルという名前にすぐに行きつかなかったのも無理はない。
何故なら、エリシルはこの『プリテスタファンタジー』のラスボスであるミュライトの姉であり、孤児院で一緒に住んでいたが……物語開始時点で、すでに死んでいたのだから。
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