無能と呼ばれた俺が、実は世界最強だった件 〜最弱スキル【鑑定】が万能すぎて学園最強の聖女様に惚れられました〜

深海馨

第1話 無能と【鑑定】スキル

王立魔術学園。

​ エリート魔術師の育成を掲げるこの学園は、その門戸を貴族にのみ開いている。

……ただ一つの例外を除いて。

​「おい、平民。そこをどけ」

「すみません、ゼノン様」

​僕はカイト。

三代続く平民の家に生まれながら、入学試験の魔力測定で「規格外」の数値を出してしまったがために、特待生としてこの学園に入学してしまった、ただの平民だ。


​ 入学時のスキル発現の儀。

貴族の生徒たちが【火炎魔法】だの【氷槍】だの、派手な戦闘スキルを授かる中、僕が授かったスキルはたった一つ。

​【鑑定】。

​ただ、対象の情報を読み取るだけ。

魔術学園において、戦闘値ゼロを意味するそのスキルは、「無能」の烙印として僕の学園生活を決定づけた。


​「カイト。貴様、今日の当番は聖女アリア様の実技準備室の掃除だったな」

「え? 今日はゼノン様の当番では……」

「口答えか? 俺はこれからアリア様と模擬戦の打ち合わせだ。貴様のような無能とは違う」

​ゼノン・ダレス。

侯爵家の嫡男で、僕を目の敵にする筆頭だ。彼のスキルはB級【雷槍】。貴族の中でもエリートとされる男。

僕は争いを好まない。ここで逆らえば、面倒なことになるのは目に見えている。

​「……わかりました。僕がやっておきます」

「フン。わきまえろよ、平民」

​ゼノンは肩をわざとぶつけて通り過ぎていく。

(……痛っ。まあいい。平穏が一番だ)

​僕の目標はただ一つ。

このエリートだらけの学園で目立たず、騒ぎを起こさず、平穏無事に卒業すること。

そのためなら、多少の雑用など安いものだ。


​実技準備室へ向かう途中、中庭のテラスが騒がしいのに気づいた。

人だかりの中心には、この学園の至宝と謳われる二人の姿があった。

​一人は、先ほどのゼノン・ダレス。

そしてもう一人は、息を呑むほど美しい銀髪を揺らす少女。

​アリア・フォン・エルロード公爵令嬢。

【聖裁】というS級攻撃魔法と【回復魔法】を操る、学園最強の聖女様だ。

​「アリア様、ご覧ください。俺の【雷槍】も、王家の秘伝書を読み解き、さらに練度が上がりました」

ゼノンがアリアの気を引こうと、手のひらにバチバチと雷光をほとばしらせる。

​「……そう。訓練の成果ね」

アリア様の返事は氷のように冷たい。

彼女は家柄や噂で人を判断せず、実力のみを評価すると聞く。ゼノンのような取り巻きには辟易しているのだろう。

​僕は物陰に隠れ、その光景を眺めていた。

(あ、もったいない)

​僕はそっと右目に意識を集中する。

​——【鑑定】

​僕のスキルは、ただの【鑑定】じゃない。

対象のスキルを鑑定すると、自動で「コピー」し、ストックする。

それだけじゃない。コピーしたスキルは、自動で「上位互換」に進化する。

​僕の脳内に、無機質なシステム音声が響いた。

​『スキル【雷槍(B級)】を鑑定。上位互換スキル【天雷(S級)】をストックしました』

​(よし、今日の収穫完了)

​ゼノンの【雷槍】がS級の【天雷】として僕のスキルリストに追加された。これが僕だけの秘密。

僕が「無能」のままでいる理由。この力がバレたら、間違いなく平穏な生活は終わる。


​「……そこにいるのは誰?」

​その時、アリア様の鋭い視線が僕が隠れる茂みを捉えた。

まずい。

​「し、失礼しました!」

僕は慌てて姿を現し、深く頭を下げる。

「当番の雑用で通りかかった、カイトです!」

​アリア様は、僕のみすぼらしい平民の制服と、貴族たちの蔑む視線を一瞥し……そして、心底どうでもよさそうに、一言だけ言い放った。

​「そう。……邪魔よ」

​その瞳には、侮蔑も同情もない。ただ、無関心があるだけ。

それが、学園最強の聖女アリア様と、無能カイトの、最初の出会いだった。

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