AI調停官 飛騨亞鈴
坂崎文明
第1話 AI小説ランキング1位事件
「AI調停官
とても四十代に見えない
「
音楽や動画などの生成AIが社会に浸透していく現代社会において、様々な未知のトラブルが発生していた。
それに対応するために、文部科学省から科学技術部門を分離し、科学技術省に格上げし予算なども大幅に増額した。
科学技術省にはAIに関する大幅な調査捜査権限を与え、AI社会へのスムーズな移行を促進するというのが『AI調停官』の役目である。
「……あのさあ、
ここはネット小説投稿サイト<作家でたまごご飯>の京都の運営事務所兼本社ビルだった。
当然の疑問である。
もちろん、答えは用意してある。
というか、こういう性格の人には素直に正直に気持ちを伝えた方が協力してくれるはずだ。
「それは、
と、目を少しうるうるさせながら、泣き落としで
「そうなの! 飛騨君がそんな事を言ってたの? それは仕方ないわね。私に任せなさい。何でも訊いてOKよ」
単純だが、本当に頼もしい女性である。
少し好きになった。
「どうぞ、ミルクコーヒーですが、ゆっくりしていって下さいね」
お茶菓子の抹茶の
彼女は織田めぐみ。
黒髪のショートカットで京都美人という雰囲気で、青色のスーツとスカート姿である。
この小説投稿サイト<作家でたまごご飯>の運営統括兼『たまご出版』の編集長である。
<作家でたまごご飯>は元々、ネットで大人気になった異世界転生小説の驚異的なPVの広告収入で運営されていた。
本の出版自体はネット兼リアル出版社の<メガロポリス>、大手出版社『KAWAKAMI』などが母体の小説投稿サイト<ヨムカク>などの大小の出版社が担っていたが、業界のPV数に応じた広告収益を作者に還元する流れから、<作家でたまごご飯>としても新たな収入源を確保する必要が出て来た。
そこで大手出版社などから元編集経験者を募集して、『たまご出版』という出版部門を立ち上げた。
実は神楽舞は<作家でたまごご飯>では総監督という謎の役職なのだが、元伝説的な運営統括であり、つまりは名誉職みたいなものだった。
運営統括でありながら、趣味で投稿していたネット小説の『お嬢様は悪役令嬢』シリーズが大ヒットし、小説家として大成功してしまい、今では
が、業界の人脈などが豊富で何かと営業などで活躍している。
『たまご出版』の元編集経験者のほんとんどが神楽舞人脈だという。
「やっぱり、このミルクコーヒー美味しいですね」
お茶菓子の抹茶
思わず笑顔になってしまう。
これがインスタトコーヒーとミルクの黄金比率で
織田めぐみがアルバイトしていた某名古屋の有名喫茶店で教えてもらったレシピらしいが、噂どおり、本当に美味しいミルクコーヒーだ。
織田めぐみの実家が茶道の家元であるのも関係してるかもしれないが。
「ありがとうございます。喜んでくれて、なによりです」
織田めぐみはそのまま神楽舞の横の応接ソファーに座った。
「ところで、
「結論、ほぼ、出ちゃいましたね」
それにしても熱い人だ、織田めぐみ。
織田信長の子孫だとか聞いたけど。
「それで、
今度は神楽舞が興味深々で訊いてきた。
「私の役割は今回のような事件が起きた時に、事態を把握しつつ、穏便に予想されるトラブルを未然に防止する事です。例えば、今回の投稿者が未来を嘆いて自殺するとか。実は事前に『ヨムカク』にも連絡して、アカウントBANなどのきつい処分は控えて貰ってます」
「え!?」
神楽舞と織田めぐみが目を丸くして驚いている。
「すでに、捜査員が動いて彼女の住所を特定、監視しています。今回の投稿者は女子高生らしいので、どこかのビルの屋上から飛び降り自殺でもされたら困ります。そうなったら、AI行政全般を統括してる科学技術省はどうなると思いますか? 女子高生の両親が涙を流す姿をテレビで流され、世間とマスコミから総攻撃されて、文部省からはやっぱり文部科学省に戻すべきだと言われるだろうし、石田三成科学技術大臣は辞任という、ろくでもない未来しか見えません。私も職を失うでしょうし」
「……はあ、大変ねえ、
神楽舞が同情してくれた。
ちょっと嬉しい。
「AI調停官と言っても、確かにAI犯罪に限定しての捜査権限は付与されていて、捜査員もいます。『マトリ』、麻薬捜査官と少し似ています。ただ、あくまで『穏便に予想されるトラブルを未然に防止する』のが役目です」
「でも、あなたしか出来ない仕事でしょう。
「たまに、少しだけ見えます。
飛騨家の故郷の岐阜県高山市丹生川村にある大丹生池は、大蛇が棲んでいたという伝説も残る。
かつてはそこで雨乞いの儀式も行われていたというが、
湖面に映る太陽の光をみつめて、しばらくしてから目を閉じると
それは遠い過去のものだったり、未来の映像だったりした。
飛騨家の分家は多数あるが、その当主は先祖から継いだ『あれい』という名前を引き継ぐ習わしになっている。
当主は未来視の能力が強い者がなるという。
その時、
「どうしたの?」
神楽舞が心配そうに尋ねてきた。
「……11月2日、一日で120作品更新。18万文字の投稿が<ヨムカク>で確認されたようです」
肩を落とす。
「それ、<メガロポリス>の月間新人賞で暴れた男かも。<ヨムカク>に引っ越しすると言ってた」
織田めぐみが指摘する。
AIの力を自分の才能への絶望や無力を補うために使用する人々は、これからどんどん出て来るだろう。
さて、どうしたものか。
事態は臨界点を超えつつある。
そろそろ何らかの手を打つ必要がある。
(あとがき)
複垢調査官 飛騨亜礼 - カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154917720
縄文夢通信と『日抱き』の御魂鎮め、レイラインと古代人の超能力開発法
https://ncode.syosetu.com/n8874cg/14/
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