ハローニューフレンド
シャーペン
今日は友達記念日
この暑さの原因である太陽は今日も燦々と輝いていた。俺は避暑地であり憩いの場である図書室に避難し、いつも通り椅子に腰掛け恋愛小説をめくる。やはり、課外終わりの恋物語というのは得も言えぬ感情を与えてくれる。この時間は大好きだ。
「あぁ〜〜〜〜」
項垂れ声を漏らす眼の前の彼女に、頁から目線を上げた。
「どうした」
「え?…いや、宿題が終わんなくてさぁ〜」
「もう三十日だぞ。終わるのか?」
「終わらせなきゃあのクソ教師に大目玉食らうんだよ〜〜」
最悪、という感じにため息をつく彼女。何に苦戦しているのかとテーブルに目線を落とす。散らばる原稿用紙、そして頁の開かれた、おそらく読みかけの本が目に入った。なんだ、読書感想文なんかにつまずいてるのか。
「読書感想文なんて自分の感想書けば終わりじゃん」
「それで文字数が稼げないから困ってるんですけど!」
猫が威嚇するみたいに訴える彼女。その気持ちは残念ながら俺にはわからない。首を傾げながら執筆途中の原稿用紙を拾い上げ目を通してみる。
「んー、この『ヒロインが可哀想だと思った』ってどうしてそう思ったんだ」
「だって、家庭に恵まれてたら主人公と結ばれたわけだし。それに自分の気持ちを伝えられなくて他の女に取られたって可哀想すぎるでしょ」
「なんつー小説読んでんだ…まぁ兎に角、それを書けばいいんだよ」
「それって何?」
「だから、さっき自分で言った事を」
「ん〜〜?」
なぜ伝わらないんだと呆れながら原稿用紙を彼女の元に戻す。
「例えばさっき言ったのを書くなら『家庭が恵まれない故に主人公と結ばれることの無かったヒロインの気持ちに心を打たれました』って書けばいいんだよ」
「…あぁ〜?」
「はぁ…」
「もっとわかりやすく説明しろ〜!」
これ以上は考えられないくらいには分かりやすく説明しているつもりだ。それなのに伝わらないとなると、次はどうしたものかな。うあ〜と唸り声を上げる彼女を横目に頭を捻って、一つ閃いた。
「視点を変えてみよう。要は文字数が稼げればそれで良いんだろ」
「出来れば内容もあると嬉しいです」
「ワガママ言うな」
「ハイ」
「まずその書いたやつを全部消す」
「ハイ?」
「それから書き直す」
「おいこら」
「じゃないとそれ以上書けないからな」
「面倒くさいんですけど」
「じゃあもう手伝わない」
「ゴメンナサイ手伝ってくださいお願いします!」
「じゃあ、やってもらおうか」
渋々消しゴムを持ち上げ原稿用紙に滑らせる彼女の顔は、不平不満を言いたげだった。まぁ俺が居なきゃ何も出来ないからか、小言を言う事も無かったが。
元々少ない文字数だった為に消す作業自体は直ぐに終わった。
「さてと、じゃあやりますか」
「よろしくお願いしま〜す」
どうもだらしのない挨拶によって、この共同作業は幕を開けた。
◯
約3時間の作業の元に、ようやく読書感想文作成は幕を降ろした。何度指摘しても同じミスをされ、そして首を傾げられる度に殺意を覚えたがなんとか口にも拳も出さずに済んだ。お互いに安堵と疲労のため息をつく。
「あぁ〜〜〜〜〜やっと終わった〜〜〜〜〜〜」
「…疲れた」
俺は椅子に全身を預けた。なんだって人の読書感想文を作るのにこんなに時間を掛けなければならんのだ。自分で始めたことだというのに不満が募るばかり。用紙の角を合わせる彼女を横目にそんな事を考える。
数分すると彼女は立ち上がった。何をするのかと思って見ていると荷物をまとめている。ハッとして窓を見ると、外はもう日が傾いて淡いオレンジ色に塗られている。
「もう5時か」
「そうだよ〜」
「全然小説読めなかった…」
「ご愁傷さまでーす」
「誰のせいだと思ってるんだ?」
「しーらない」
「お前な〜!」
この野郎と椅子から立ち上がると彼女はゲラゲラと悪戯に笑いながら扉に走り、勢い良く開く。そのままここを後にするかと思いきや、彼女はこちらに振り返って言った。
「ねぇ、明日遊びに行かない」
「え、何処に?」
「神社でやってる夏祭り、ここに7時集合ね!」
「7時!?いや7時は」
じゃあねと言い残すと、こちらの話など一つも聞かずに彼女は走り去る。
「…えぇ」
一人残されてしまった。
「門限7時なんだけど」
口から漏れた伝えようとした事実が、寂しく部屋に響く。彼女の居なくなった部屋は随分と静かで閑散としていた。
なぜ奴は人の話を聞かないのだ。呆れ果てながらさっきまで座っていた椅子に腰掛けた。
というか、そもそもとして
「誰なんだ、あいつ?」
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