ルビコン川の先

@Fouler

第1話緩やかな雨

ざあざあと雨が降り注ぐ

窓の閉め切られた事務所では、もくもくとタバコの煙が舞い上がり、今日も静かに依頼人を待ち惚けている、


ここのところ3週間ほど、依頼人に事欠いている中、きゅるると腹の虫を鳴らしつつ、俺はこほりと咳き込んで、タバコをゆるりと吸い続けている


そんな中、雨音に紛れてカンカンと金属音を響かせて、1人の人間の足音が響く、

部屋の前でバサバサと傘を振る音が聞こえる中で、遠慮も無しにガチャリとドアが開き……


「入りますよ先生……ってクッッサ!?なんでこんな雨の中タバコ吸ってんですか!」

「良いだろー桐野、こちとらニコチン依存症なんだよ、やる事ねぇんだからタバコぐらい吸わせろってんだ」


ごほごほと咳き込む齢16ほどの少女が叫ぶが、俺は特段気にせずに、ゆるりとタバコを吸ってると、むんずと掴まれ水の溜まった……水よりは吸い殻の積み重なった灰皿に、むんずと刺されて鎮火してしまう


「ダメです!またウチからの仕送りを無駄にしちゃって……これ以上お母さんに仕事してない事バレちゃったら、仕送り止められちゃいますよ」

「へいへい、姉貴はそう言うとこすぐキレるからねぇ……」

「お母さんだけじゃなくて私もキレてます!!」


そ、今の話から分かる通り、目の前の高校新一年生、桐野こと『桐野文香キリノアヤカ』は俺の姉の妹だ、言うなれば姪っ子ということになるんだろう、まぁぶっちゃけ俺は姪ってよりは、妹みたいな感覚に近いんだが……


まぁ何故、実の姉なんぞに仕送りをされてるのか、俺は一体どう言う立ち位置なのか、そこに関してはまた追々話していくとして……


「まったく、ほら、換気扇つけますよ」


文句を言いたげな様子で彼女が換気扇を付ける中、俺は静かにテレビのリモコンを手に取って、静かにテレビをつける


どこかで聞いたことのあるような声のニュースキャスターが、これまたいつも通りと言った様子でニュースを口に出していく


『午後6時のニュース速報です、本日未明の【ノワリの違法使用】による売春営業を行なっていたとされる店舗10店を、警察官が同時多発的に一斉検挙を行いました、現場では———』


「うへー、またこう言うのかよ、風俗ってんも落ちたもんだなぁ、最近のヤクザもんももう一丁根気見せろってんだよ」

「せーんせーい!なぁにやってんですか、ったく……またノワリです?ついこの間近くの病院で、薬剤の不正使用があったばっかりだって言うのに」


ぷんすこと頬を膨らませ、髪をたなびかせる桐野の様子を眺めつつ、俺は薄らと思考の中に入っていた


正式名称を第六因子(The Sixth Factor)今生きている人間に存在している、超能力と言って差し支えない異能力


発火パイロキネシス電撃エレクトロキネシス念動力サイコキネシス精神感応テレパシー瞬間移動テレポート未来予知プレコグニションetcetcその他多くの超能力


まぁ、過去の大規模な事件があったもんで、多くの国で全国民にの投与、服用が義務化されたんだが………


まぁ、何事にも抜け穴はあるもので、こうして犯罪など何なりと使われるようになってるのが結末だ、しょうがねぇと言えばしょうがねぇが


「それで、今日は依頼の方は来てるんですか?」

「おう、昔からの知り合いから回ってきた仕事だ、久々の話な奴な」


そう話しているうちに、カツカツと男の足音が聞こえる、コツコツと部屋の扉をノックして、

俺が入れと言ってやれば、その男は部屋に入ってきた


「久しぶりだなひー助、免許は合格したか?」

「合格してんなら、わざわざお前に依頼を持ち込まず、俺で処理してるよ、ター吉」


明るいブラウンのコートを着て、大柄で髪をオールバックにした男、ひー助こと日沢庸介ヒザワヨウスケが入ってくる、コートを脱ぎ、濡れたそれの内側から、今にしては珍しく茶封筒の書類を投げ渡す


それを受け取り、爪先でチッと軽く切り、中の書類を軽く見ると、どうやら今回は殺人事件の様らしい


「妊婦連続通り魔事件ねぇ……」

「妊婦連続通り魔事件?妊婦さんが連続して狙われてるんですか?」


書類を除く俺を、その背後からツインテールをぶるんと振り、俺の頬をぶっ叩きながら、桐野が日沢にそう尋ねる


「あぁ、つっても狙われてんのは妊婦だけじゃない、正確に言えば生後3週間にも満たない乳幼児を連れた親子だ」

「……どいつもこいつもきっかり三週間未満の奴らばかりだな、赤子連れた方は?」

「赤子と共に亡くなってるよ」


日沢はコートをコート掛けに掛け、どかりとソファーに座り込む、どうやら此処最近は疲れが溜まってたようで、呻き声をあげながらバキバキと体を鳴らしている


「どう思うよ多城タジロせんせ」

「……死因が溺死、撲殺、殴殺、刃物に刀に鉄骨……こんな事故を連続通り魔って関連付けるのはよっぽど疲れてるやつか、本質が別にあるかだな」


そう言いながら資料を投げ渡す、どれも外での出来事だが、全て死因は事故を起因としている、場所による関連性もない、これだけなら、ただの事故と関連づけられる筈だ、偶々、なんの関係もない……


「で?どこの課の馬鹿がこいつに目をつけた?」

「超常事象対応課の玉宮警部補」

「……あんババアか、持ち込み言ったのもアイツだな?」


日沢がかくりと首を傾ける、玉宮は俺と日沢との学友だ、言っちまえば悪ガキどもと委員長って関係だった……

あの頃は嫌だったねぇ


そのように思考を巡らせながら、俺は再び資料に目を落としていると、桐野は資料をいくつか手に取り、じっとある部分を見比べて


「どうした桐野、赤子はお前の範囲外だろ」

「ちょ!先生!そう言うのじゃないですよ!と言うか不謹慎ですし!」

「へいへい、で、どこが気になった?」


そう言う彼女から資料を奪い取り、苦言を呈す声を無視しながら、資料を見据えて俺も……おそらく同じ点に気がついた


「……おい日沢、ホウレンソウはちゃんとしろよ」

「んだよ、お前ならわかるってわかってたんだよ……あぁ、全員、急に事故現場に走り出したって目撃情報があった、目をつけたのはそこだろうな」


資料末尾に、コピー&ペーストでもしたように【急に表情を変え駆け出した】って書いてやがった……

なるほどな、ある程度読みが見えてきた……


「……なるほどな【洗脳】あるいは思考誘導の類のノワリの可能性、か」

「その通り、玉宮もその可能性を追っていた、とは言えこっちじゃ手が足りん……目星があってるなら、リスクがあるからな」


通常、ノワリに対しては、全国民が【抑制剤】を投与されているとは言っていた、抑制剤とは何か?

簡単に言えば能力の効果を減退させる薬だ、無効化というわけじゃない、あくまで効果をに過ぎない薬


ある一定の試験を突破し、資格を保有している人間には、業務上、あるいは特定条件時にノワリ使用の許可が出されている、その使用時には……ノワリ自身の効果を一時的に上昇させ、身体に負荷が出ない程度に効果を引き出せる薬を買うことが可能となる


本来であればこう言ったような薬は、資格保有の有無の確認があり、未資格保有者は購入できないのだが……


絡みか……」

「あぁ、だろうな……頼めるか?」


まぁ、 簡単に言えばそう言う事である、世の中には抜け道がいくつもつくられるものなのだ


「先生……」

「犯人の目的がわからん以上、桐野は帰ったほうがいいな……学校の友達も、少なくとも今事件が起きてる地域には寄らないように呼びかけろ」


そう言いながら、俺は椅子から立ち上がる、日沢もそれを見て、立ち上がってコートを手にし、俺の分も投げられる


「わかりました、 じゃぁまた、来週来ますね」


桐野のその言葉に、俺は手だけを振って見せ、

日沢を連れて事務所を後にした

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