第25話 子供たちは、キャッキャと、走り回っている

冒険者ギルドに来ている。

今日は、別に依頼を受けるつもりはねえ。

ただ、日課のように依頼ボードを見に来る。

んで、テーブルについて、だらっとしている。

イーナは向かいの席で桃の果実水を飲んでいる。

桃の甘く、柔らかい香りが漂う。

足をぶらぶらとさせて、暇そうに果実水を飲んでいる。

ちと、行儀は教えねえといけねえ。


『フェルドがテーブルにうつ伏せている時点でダメでしょうね』


うっせえな、ジリ。

暑いんだよ。

夏は暑いんだ。

で、テーブルが冷たくて気持ちいい。

そういうことだ。


隣のテーブルでは、カールたち『幸福の青い大樹』がのんびりしている。

アイツらも仕事のペースを落としているらしい。

まあ、焦って仕事するこたねえよ。


それに比べ、若いのは元気だね。

ディーターたち『星を掴む強靭なる蔓』だ。

もう俺の手を離れて、自立して依頼を精力的にこなしている。


「フェルドさん、お疲れ様です」


「おう。ディーター。頑張ってんじゃねえか」


「はい。まだゴブリン狩りですよ。僕らはまだまだです」


謙虚になっているが、顔つきは精悍になっている。

いいねえ。

若いのは成長が早え。

ちょっと頼りねえリーダーかと思ったが、もう大丈夫そうだ。

クリスタ、グレーテの信頼も厚そうだ。


「ちょっと聞いてよ、フェルドさんー。ディーターったらねー」


「おい、クリスタ。待て、待てってー、それは言うなよ!」


おーおー、いちゃついてんじゃねえか。

別に羨ましかねえぞ。

若い奴が仲良しなのはいいことだ。

男ってのは好きな女がいると、頑張れるからな。

ディーター、頑張れよ。


「……フェルドさん。今度、スキル教えてください」


「おう、グレーテ。いつでもいいぞ。暇なときに来いよ」


「はい。よろしくお願いします」


グレーテは嬉しそうに笑う。

こいつらはエルマさんの宿に泊まっている。

で、朝の日課は一緒にやっているんだ。

ほんと、飽きずによくやっているよ、こいつら。

真面目なんだよな。

それならグレーテに次のスキルを教えてやらねえとな。

……俺自身もスキル覚えなきゃな。

教えるスキルがなくなっちまう。


ディーターたちは依頼のためにギルドを出て行った。

森でゴブリン狩りだろうな。

ゴブリンの数を減らしてくれるのはありがたい。

ついでに薬草も採ってきてくれている。


「おい、カール。ディーターたちに抜かれんじゃねえか?」


「んなこたねえよ、おっさん。俺たちを舐めねえでくれよ」


「その割にだらけてんじゃねえか」


「うるさいよ。昨日は働いてたんだ。今日は休暇だよ」


まあ、俺も本気で言っているわけじゃねえ。

こいつらが頑張っているのは知ってるからな。

んな感じでダラダラしていた。

……マリアンネさんの視線が痛いな。

そろそろギルドを出ようかな。


「あー、フェルドさんだわー!」


ラーレか!

うむ、ちと長居しすぎちまったか。


「ホントだー、フェルドさん、今日はー♪」


「こんにちはフェルドさん、イーナちゃん」


「おう。アポロニア、エラも元気そうで何よりだ」


「おう。ラーレ、アポロニア、エラ。イーナも元気だ!」


イーナが元気よく手を上げる。


『フェルド。少しいいでしょうか』


「んだよ」


『どうも、あなたの口調。イーナ様に悪い影響を与えているように思うのですが、気のせいでしょうか?』


「気のせいだよ、きっと……」


そりゃ、うすうす俺も気付いてたって。

だが、子供のことだ、親の真似をするのは当たり前。

で、大きくなりゃあ、治るよな。

きっと……


「ラーレ達も頑張ってるようじゃねえか。今日はどうしたよ」


「んー、今日も依頼を受けようと思っていたんだけど、ちょっと寝坊しちゃってね、アポロニアが」


「ラーレ、言っちゃだめだってー! 私がだらしないみたいじゃん!」


「あんた、実際だらしないでしょ。で、ちょっと遅くなっちゃったので、ランチしません? ねえ、イーナちゃんお肉食べましょうよー」


ラーレがイーナの手を取って、ぶんぶん振っている。


「お、お肉か!」


おい、イーナ。

その反応だと、俺が肉を食わせてねえみてえじゃねえか。

昨日の夕飯だって、豚肉だっただろうが。

ちと、量は少なかったかもしれねえが。

だって、イーナが野菜を食わねえからいけねえんだぞ。

肉ばっかじゃ大きくなれねえだろうが。


「そう、お肉よ! 牛さんだ! ラーレちゃんの驕りだよ」


「牛さんかー! それはよい!」


イーナがノリノリだ。

……前に同じようなことあったような気がするが。


マリアンネさんを見る。

……睨んでねえか?

なんかヤバそうだぞ。


「しかし、後輩に奢ってもらうのはちとな……」


「えー、いいじゃない、フェルドさん。命の恩人のイーナちゃんとフェルドさんに何かお礼をしなきゃって、三人で話してたんだよー」


「行きましょう、フェルドさん。お礼をさせてください」


アポロニアとエラにもそう言われちゃあなあ、行かねえわけにもな。

後輩の心遣いを無駄にするってのも、先輩として失格だよな。

肉が食いたいわけじゃねえぞ。

さすがに、今なら、俺だって肉を食えるくらいにはなってんだからな。


『私にも当然あるんでしょうね。裏で大変頑張っていたんですからね』


いやー、ラーレ達、ジリの活躍は見てねえからなあ。


『いえ、フェルドのお肉をいただければいいのです。問題ありません』


おい、そりゃあ、あんまりだろうがよお。

ジリに睨まれました。

……はい、ジリさんには大変お世話になっております。



「じゃあ、早速……」


ラーレがイーナの手を取って、立ち上がらせる。

マリアンネさんの視線が……


「おやあ、フェルドさん、こんにちはあー。んん? どうしたい、みんなでえ」


「あー、ドミニクさんだー! こんにちはー、元気ー?」


「おう、元気だぜえ。アポロニアも元気そうだよねえ」


「そうだよー、元気だよー! ドミニクさんに会えて、もっと元気になっちゃったよー♪」


アポロニアに尻尾があったら、ブンブン、振り回している感じだ。

可愛いっちゃ、可愛いんだがなあ。

そのおっさん、妻子持ちだぞ。

んで、愛妻家だぞ。

んで、それを知っているんだろう、アポロニア。


「よし!」


マリアンネさんが手を打つ。

何だ?


「ドミニクさん。フェルドさんたちにくっついていってください」


「んんん? どういうこったい、マリアンネさん」


「ラーレちゃんたちが、フェルドさんにこの前のお礼で奢るというのです。それで、フェルドさんが彼女たちに悪戯しないように見張っていてください」


「あー、いやいやあー。フェルドさんならそんなことしねえと思うがなあ」


おう、俺はしねえよ。


「それは知っています。ですが、万が一がありますので、ドミニクさんも行ってください。費用はギルド持ちです」


「おう、驕りかい。そりゃ、気前がいいねえ。ラーレちゃん、俺も一緒でいいかい?」


「あ、ドミニクさんなら全然一緒でいいですわ」


ラーレも二つ返事。


「やったあ! 一緒だねー、ドミニクさん♪」


「おうおう。ご機嫌だねえ、アポロニア」


アポロニアはドミニクの手を取って、にぎにぎしている。

ドミニクからみりゃあ、子供みたいなもんかもしれねえな。

彼女、身長も小さいしな。

だが、アポロニアは狙っているよ、ちゃんとな。

気を付けろよ、ドミニク。

妻のハイダを悲しませるんじゃねえぞ。

俺が泣き付かれて、飲みに付き合わされるんだからな。

彼女、酒癖が悪いんだよなあ……


ま、俺としては、おっさんが一人増えるのはいいことだよ。

子供くらいの年齢の女性三人と食事会ってのもね。

ということで、ドミニクも連行し、食事会。

肉、美味かったぜ。

イーナもご満悦だ。

ドミニクがなあ、酒が進んで、いらんこと話しやがって。

こいつ、ちと、酒が弱くなってきてんじゃねえか?


俺たちの若い頃の失敗談な。

ラーレたちも喜んでいたよ。

俺もエラに話していたが、俺もドミニクも失敗ばっかりだ。

まあ、ドミニクのよりか、俺のほうが失敗がちっとだけ多いかもしれねえがな。

しょうがねえから、俺も酒を飲むぞ。

昼間からだ。

本格的に、今日は休業だ!



「何してるんですか、フェルドさん。いい歳して、飲みすぎるなんて。自分の体を大切にしないとダメですよ」


宿のベッド。

飲みすぎた……

ういー、気持ち悪りい……

イーナは俺が酒の匂いがするからか、宿の庭でジリと遊んでいる。


で、俺はベッドに横になって、エルマさんに看病してもらっているってこった。

情けねえ。


「はい、お水です。飲んでくださいね」


コップに水をもらう。

ぬるい水を飲む。

俺も、酒が弱くなっている。

わかっちゃいたが、少しばっかり酔っ払って、調子に乗っちまった。

まだまだ俺もやんちゃなところがある。

それはいいこったな。

……だが、気持ちわりい……


「フェルドさんもイーナちゃんの親になったんですから、やんちゃはダメですよ」


「面目ねえ。エルマさん」


「ほんと、男の人って、いくつになってもしょうがないですね」


エルマさんが苦笑する。

だが、その中に優しさがある。

だから、頭が上がらねえ。

頼っちまうんだよなあ。


外から、イーナの笑い声が聞こえてくる。

ティムも一緒みたいだ。


「子供たちの元気な声が聞こえるのは、いいですよね」


「そうですね、エルマさん。俺も、こんな穏やかな日常がくるとは思っていませんでしたよ」


「フェルドさんはいつも一生懸命でしたからね。少し休んでほしいとは思っていました」


「あー、俺、そんなにいっぱいいっぱいでしたか? 結構休んでいる気だったんですが」


「フェルドさんの結構休んでいるは、休んでないって感じですよ」


「そうかなあー。俺はしっかり休んでいるつもりだったんですがね」


笑われる。

彼女の笑顔が少しまぶしい。

胸にしみ込んでくる感じだ。


「あいつらが、少しでも幸せに暮らせるようにってね。少しだけできないかなって。俺の力なんてアレなので、本当にほんの少しですが」


「そうですね。ほんの少しだけ、優しい世界。そういうのっていいですよね。フェルドさんらしいです」


優しい世界、か……

そうか、そういう世界がいいねえ。

ほんの少しだけ優しい世界。

そうしたら、少しだけ死ぬヤツも少なくなって、笑顔が増えるんだろうな。

そんな感じがいいのかもしれねえな。


ちょっと体の調子が良くなってきた。

集中できるだけだ。

これで魔法が使える。

気持ち悪いと魔法が使えねえんだ。

《ヒールウォーター》を使う。

回復魔法が酔いにも効くというのは有名な話。

だが、酒を飲んでは回復魔法で酔いを醒ますってのは、酒を飲む意味がねえってもんだ。

酒なんざ、酔うために飲むんだ。

美味いからじゃねえよ。


「便利ですよね、水属性って。私も水属性がよかったなあって思います」


エルマさんは木属性だ。

才能はDだから、昔の俺より才能あるんだよな。

木属性ってのは、植物と風の属性だ。

なんか、いいよな。

イーナも同じだけどな。


「木属性ってのはエルマさんに合っていると思いますよ。あー……夏に木陰に吹くそよ風のような感じかなあ。上手く言えねえけれど、心地がいいんです。包み込まれるような」


「ふふふ。フェルドさん、たまに詩人ですよね」


「おかしいですか?」


「いえ。私が少し恥ずかしいだけです」


まあ、エルマさんが嬉しそうなのでいいんだろう。

あ、そうだ……


「大きなタライありますか?」


「え、洗濯用の大きなのがありますが」


「水を張って、子供たちを水浴びさせてやろうかと思いまして」


「いいですね。暑いですから」


立ち上がり、窓から子供たちを見る。

部屋は二階なんで、見下ろす形。

イーナが走っていて、ティムが追いかけている。

追いかけっこかな。


横にエルマさんが来る。


「ほんと、楽しそう」


一緒に子供たちを見る。

平和だな、と思う。

どれだけこの時間が続くのか。

その不安が湧き上がってくるのを無理矢理押さえて、今はこの幸せを味わおう。

大人がなるべく平和が続くように努力をしなきゃならねえよな。


子供たちは、キャッキャと、走り回っている。

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