31日目
調査31日目:2020年12月1日
地方ニュース 電子版 タイトル:【続報】子籠(こもり)ダム事件の「首謀者」女が脱走。事態は長期化へ
2020年12月1日 11:45 報道
子籠村警察署への集団侵入事件の主犯格と見られ、起訴手続きに入っていた氷室葉月容疑者(21)が、本日未明、警察署の留置場から不可解な方法で脱走したことが判明した。
捜査関係者によると、葉月容疑者は脱走直前まで「単独犯である」との供述を維持しており、背後にあると見られるネット集団や行方不明者との関係も口を閉ざしていた。留置場からの異様な脱走を受け、警察当局は「容疑者独自の妄想」として事件を早期終結させようとする方針。ただし事件の背景にあるとみられるネット上のカルト集団の行方は継続して追跡するため、事態は長期化する見通しとなった。
また、ダム湖畔で昨日未明に発生した集団暴動で逮捕された村の古老らは、動機を「カルト的な儀式を阻止しようとした」と主張している。警察は彼らの関連性について否定も肯定もせず、混乱が広がっている。
◇
地方テレビニュース:『デイリー・トピックス』より(専門家インタビュー) 放送日時: 2020年12月1日 14:00
キャスター:「氷室容疑者の脱走という事態を受け、事件は新たな局面を迎えました。引き続き、元公安警察の神代岳さん、社会評論家の西野賢治さんにお話を伺います。西野さん、この異例と言える容疑者の留置場からの脱走をどうご覧になりますか」
西野(社会評論家/オカルト否定論者):「これは、集団ヒステリーが招いた、最も卑劣な自己保身の例です。彼女は自分が負うべき汚名を背負ったまま、背後のネット上の過激集団に手を引かせたのではないでしょうか。事実を有耶無耶にしようとしているんですよ。彼女の行動は、単なる犯罪の暴走であり、呪いなどという非科学的な概念で事件を塗り固めるべきではありません」
キャスター:「神代さんはいかがでしょうか」
神代(元公安警察):「西野先生の分析は、表面的なものです。氷室容疑者が警察署を脱出したこと、そしてダム湖畔でネット民を含む、若者グループが呪いの解放儀式を完遂した可能性を、私は疑います。容疑者達の真の目的はテロではなく、ダムの『呪い』を開放することだったのどはないでしょうか」
西野(社会評論家/オカルト否定論者):「(強い口調で)それは、元公安という肩書を利用した、無責任な扇動に他なりません! あなたのような発言が、非科学的な恐怖で塗り固めるのです!」
神代(元公安警察):「私が『呪い』という言葉を使うことと私のかつての立場は全く関係ありません。事実を認めないあなたがおかしいんだ。科学や論理で解決できない異常事態が現実に起きていることをそろそろお認めになってはいかかですか?」
キャスター:「お二人とも熱が入りますね。事態の早期収束を願うばかりです」
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Webページ
呪いの箱を解呪する方法急募します(Part 13) タイトル:【Akari.T】事件の真実と、私の宣戦布告
(Akari.Tからの続報は依然ないが、氷室容疑者の脱走というニュースを受け、さらなるコメントが投稿されている)
No. 210. ユーザー名: なりすまし疑惑 投稿日時: 2020年12月1日 11:55
コメント本文: 来た! ついに来た! 容疑者は計算通り脱走したんだ! これであかり氏が儀式を完了させる猶予ができたんだよ。彼女の犠牲が、報われたんだ!
No. 211. ユーザー名: 報道の闇を暴く 投稿日時: 2020年12月1日 12:00
コメント本文: 警察は「テロ行為」として幕引きしたかったのに、容疑者の脱走で大恥かいたな。あかり氏の氏名が公に出ることはない。本当に、あかり氏の未来を護ったんだ。
No. 212. ユーザー名: 天才ハッカー 投稿日時: 2020年12月1日 12:15
コメント本文: 被害者の失踪と、容疑者の脱走は作戦の最終段階だったんだ。英雄として讃えよう! 我々の勝利だ!
No. 213. ユーザー名: 正義の鉄槌 投稿日時: 2020年12月1日 12:20
コメント本文: みんな落ち着けって。なんだかんだ言っても、テロの首謀者の女が逃げたんだろ? 汚名を持って逃げたテロリスト。警察は一刻も早く捕まえろ! ネットで英雄視する奴らは同罪だ!
No. 214. ユーザー名: 緊急通報 投稿日時: 2020年12月1日 12:30
コメント本文: 葉月氏とあかり氏は本当に同一人物なのかもしれない。それはもうどちらでもいい。どちらの成功も信じる!
No. 215. ユーザー名: 地方の古物研究家 投稿日時: 2020年12月1日 12:45
コメント本文: 容疑者の脱走は、呪いから解き放たれるための最後の献身だったのかもしれない。彼女の汚名が、他の若者たちの未来を護った。このあとは無理をせず、安心して籠もって欲しいものだ。
◇
ボイスログ / 橘あかり
記録日時: 2020年12月1日 16:00
場所: 子籠(こもり)村 外れの山道
Akari . T:「記録を開始します。夜明けから半日。村の出口付近は、報道陣と警察車両で完全に埋め尽くされている。私たちは、水元さん、葉月さん、そして宗一郎さんと仲間が用意してくれた山道を使って、村を離れます」
(遠くで聞こえる、無数のカメラのシャッター音、ヘリコプターのプロペラ音、そして報道陣のけたたましいざわめきが、ノイズキャンセリングをかけたようにこもって響いている)
宗一郎:「あなたがたの儀式の成功を見届けました。箱は役割を取り戻し、呪いは永久に鎮まりました。さあ、もう、後ろを振り返ってはなりません」
Akari . T:「(静かな声で、安堵)……これで、本当に終わり。私たち、もう普通の生活に戻れますよね」
水元透:「(安堵と負い目の混じった声で)報道も警察も追っているのは葉月さんだけです。葉月さんに僕らは庇って貰えた。だから葉月さんに申し訳ない……」
葉月:「(言葉を遮り、強い決意を込めた声で)気にしないで。でも、私たちはここでお別れよ」
Akari . T:「えっ……? 葉月さん、どうして?」
葉月:「私が行くべき場所は、あなたたちとは違う。私と一緒にいてはだめよ」
水元透:「待ってください、葉月さん! 僕らが君を置いていくわけには……」
葉月:「(短く、冷たい笑い)いいの。私たちは目的を達した。
私たちが何を犠牲にしたかなんて、誰にも分からなくていい。私の汚名が、あかりさんの未来を護れたならそれでいい。私はね、あかりさんに感謝してるんだから。
……。というわけよ。あなたたちはもう行きなさい。二度と、振り返らないで」
Akari . T:「(切ない叫びにも似た声)葉月さん……!
……ありがとうございます」
(葉月が一人、遠ざかる足音。そして、あかり、透、宗一郎が別の方向へ歩き出す、三つの異なる足音)
(二つのグループの足音が、静かに遠ざかる)
水元透:「……行こう」
Akari . T:「(震える声で、かすかに)……うん」
(ボイスログが、「カチッ」という小さな音を立てて停止する)
(記録終了)
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