第四章
ヲタク心1
朝八時。スマートフォンからアラームが鳴り響く。狭く寝心地は悪い狭苦しい部屋の真ん中で掛け布団無しで寝ている映士が、アラーム音に目を覚ました。手探りでスマートフォンを探し、充電コードから引き抜いてアラームを止める。そして目を擦りながらゆっくりと上半身を起こす。
『…おはよー』
部屋に飾られた特撮玩具達に挨拶をすると、スマートフォンで時間を確認する。
『……八時かぁ…支度すっかねぇ…』
身体を起こしながらそう言うと、布団を早速片付けだす。きちんと降り畳んで部屋の隅に寄せて、折り畳み式円卓テーブルを部屋の真ん中に持っていくと、手慣れた様子で組み立てた。そして洗面台に向かい、ガラス前にたった映士はボサボサの髪をガシガシと掻き乱す。そして顔を洗い出し、洗面台に置いてあるプラスチック製のコップの中に入った歯ブラシをとる。もうボロボロだった。
歯磨きをしながらも片手で髪先をいじっては、鏡に映る自分と睨めっこをする。目やにがついていた。それを空いた手で落とした後、蛇口から水を勢いよく出した。
『ぶわぁぁ!むぉー!またかよ…』
口の中で歯磨き粉が溜まっている為うまく喋れないが、蛇口の加減が分からず水道の水が飛び散り、映士が着ているパジャマに水滴が付着したのだ。
とりあえず口を濯ぐ。そしてついでに顔も洗う。顔をパジャマの裾で拭いて、先程まで着ていたパジャマを脱ぎ捨てた。
『えーっと何時からだっけぇ?』
スマートフォンを取りに行こうとパンツ一丁の姿で折り畳み円卓テーブルに向かった。テーブルの上にスマートフォンが雑に置いてある。
『えーっと、えっと…十一時半上映…まだ間に合うな』
映士はスマートフォンのカレンダーを確認する。
そう!今日は映士が予定していた『エクストラマンミラクラー』の映画を観に行く日だ。以前予定を入れていた。しっかりとカレンダーに記入していた。
この日を大学生活を過ごす中密かに待ち侘びていた映士は、朝から良い天気である事から好調な気分だった。その上、何も予定がない。大学も休みの土曜日。そしてアルバイトも入れていない。フリーな日だ。
『おっしゃあ。気合い入れていきますかねぇ!』
自分しかいない部屋だから思いっきり一人で大声でそう言うと、早速今日来ていく服を選ぶ事に。部屋の僅かなスペースに設置された白い衣服入れからズボンとTシャツを選ぶ。映士のファッションセンスはとにかく地味である。それは自分でも理解している。だが、映士はファッションに興味がないのは昔からだ。その分自分の部屋スタイルにはこだわって、特撮玩具に囲まれる部屋としたのだ。
服もズボンもどの組み合わせをしても似合わないから、エクストラマンミラクラーのカラーに近い色合いの組み合わせにした。
白い生地に胸元にコンデンサーマイクがプリントされており、赤いペンキをかけられたようなTシャツ。そして、ズボンは白と灰色の迷彩柄半ズボンだ。
全然エクストラマンミラクラーに近くない。寧ろ何これ?自分のセンスを疑ってしまう。囲まれたアクリルケースの反射で自分の服装を確かめる。
『……なんだお前?』
自分の姿を足から頭まで追うように視線を送ると、自分の顔を見て、これが自分なのか…と初めて認識した。今までこんな服を自分は着ていたのかとかこの自分を疑ってしまう。
『…ダサいなぁ……』
映士はアクリルケースに映る自分を見るのをやめた。見なかった事にしようとキッチンに向かう。早速小分けにしているふりかけを買っていた為、一パック取り出した。ピンクの袋に『鮭味』と書いてあった。そしてキッチンの奥にある炊飯器に向かい、お椀を手に取り、白飯を盛り付ける。その後、食器洗い器からお箸を一膳取って円卓テーブルに向かった。
ふりかけをテーブルに落とすと、熱々の白飯を丁寧に置いた後、ゆっくりと腰掛けていただきますと唱える。
こう言う時に冷たい麦茶が欲しいと思っていたが、そんなものがこの家にはない。まずお茶の作り方も知らない。いつもお茶はスーパーで安い2リットルのボトル飲料コーナーにある物を買っている。でもすぐ無くなるから買い溜めしていた。
ウォーターサーバーの勧誘も来た事があるが、いらないと断った事がある。今になって欲しいとなる日が来るとは思わなかった…
ふりかけを白飯に上から溢さないようにかけると、ピンクの袋をくしゃくしゃにした。そして箸を手に取って雑にかき混ぜる。そのせいでせっかく溢れないようにかけたふりかけが、ちょっとずつ溢れてしまった。後で拭くの面倒だなぁと思いつつも、ご飯を大量に口に含む。
ふりかけの味が、思った以上に悪くなかった。
ご飯が進む。鮭味と書いてあったが、意外と香ばしい焼き立ての鮭の風味が口の中で感じる。そして後から塩加減が抜けていき美味しかった。
映士は小分けのふりかけを買うのは、色々な味を楽しめるのだが、少量ずつ入っている事によって余る事がなく、お皿一杯分で好きな味を選べて食べれると言うメリットがある。同じ味のふりかけだと飽きてしまうのが勿体無いと感じるが、色んな種類を小分けで入っている分、すぐ飽きる事がないので実家の方でも良く買ってもらっていた。
今は仕送りなど一切ない為、自炊生活で日々過ごす中、映士にとってコスパが良いものなら即買いする。このふりかけもそうだ。効率的なものを好む映士にとって大変助かっている。
あっという間に完食した。朝からこれだけだとお腹が空くと一般の人間なら思うだろう。だがこれで良い。何故なら映画館でポップコーンやソフトドリンクを買う予定があるから、今はこれで満足なのだ。
『ごっちそうさまー!』
手を合わせて、何も入っていないお椀に頭を下げた。
時間を確認する。九時十分。後二十分後にバスが来る。それまでに外に出る支度を始めた。
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