普通じゃない生き方5

 大学のキャンパスでは相変わらず愛唯が、セルカ棒を持ってスマートフォンからショート動画の撮影を二人のギャルと一緒にいつものA棟の広い玄関前でポーズを決めながら戯れる。周りの学生は映らないように避けながら中に入って行く。みんな三人の邪魔にならないよう気にしていた。

だがお構い無しに撮影を続ける三人。何回も何回も撮り直しを続けている。

いつまでやっているんだ?場所を考えろと周りは不満気な視線で見送る。

そしてやっと撮影が終了したらしく、改めて映像を確認する。もう玄関中に広がる程の大爆笑が、学生達の目に止まる。

誰も止める人など居なかった。そんな中、映士がA棟の階段を登りから玄関に辿り着く。

 映士は談笑を続けている愛唯達を見つけてしまい、困った表情で見つめる。


(こいつら、本当周りの迷惑を考えないよな…何がtopptopの上位配信者だよ。どこで撮影してんだよ…特定されるぞいつか…)


すると愛唯と目線があった映士。フッと鼻で笑いながらA棟の中に入ろうとした。


 『ちょっと!何?さっきガンつけてきやがって!あんた同級生の奴やね?』


軽くため息を溢した。あーあ…目をつけられた…

やはり映士は愛唯と絡むと碌な事が無い。今日も最悪な日になりそうだと脳内で考えてしまう。

だが、目をつけられたなら話し合わないと多分この女は今後も目をつけてくるだろう。以前言っていた嫌な人がいるというリストの中に自分が入れられる。面倒だが謝ってさっさと講義に行くか。そう思い愛唯の方に面倒くさそうに身体を向ける。


『ちっ!どうもすいませんでした』


正直もうこの女にどう思われようと、どうでも良かった。topptopで有名なのか知らないが興味ない。何より周りも迷惑している。迷惑配信者と同じだなと感じる。幾ら表で元気な振る舞いをしていようが、素の人間性がダメなら話にならない。配信画面では、余裕な人間の態度で居るのはいい事だと思う。だがそんなのは所詮ネットの世界の愛唯だ。本物はと言えば…


『あぁ?ごめんなさいじゃなくて!さっき!なんでガンつけたのか教えろって言ってんの!マジ頭悪ぃのか?』


これだよ…。なんでこんな奴が有名配信者として飾られているんだよ…。みんなリアルを見ろ!リアルを!と、もし配信をしているなら視聴者に言いたいくらいだ。

 まぁ、ネットリテラシー内でちゃんとしているだけで、人間性としてはアウトだ。なんかの拍子でボロが出るのではないかとは感じている映士である。

 もうこんな所で説教なんてうんざりだ…。なんで朝から会いたくもない奴と喧嘩しているのを周りに見られなきゃいけないんだよと、頭の中で愚痴が溢れる。


 『きっしょ!ほんとに。なんでアタシの同級生ってこんなイライラする奴がチラホラ出てくるんだよ。あーあ、勉強するやる気なくなったぁ』


こっちの台詞だよ。何言ってんだこの女は?

 本当生意気な奴だ。この前はいきなり特撮ヒーローの動画を見ていたら向こうから偉そうに突っかかってきて、今度は周りが迷惑している事など無視して配慮なしで大学のキャンパス内を撮影して、迷惑顔の奴を見つけたらこの態度。何様なんだよ…


『だからごめんって言ってるじゃん…周り見てるよ?あんたもインフルアンサーなんだったら周りに見られている事意識しなぁ?』


『はぁー!?なんでお前みたいな逆立ちしてもフォロワーなんてかき集められない奴なんかに言われないといけない訳ぇ!?うぜぇんだけど!!』


『そうやって声を大きくしたら尚更見られるぞ?』


『チッ!なんなのこいつ?お前晒してやろうか?うちのリスナーに?その顔面を!お前あんまアタシを舐めない方がいいよ?わかってる?』


本当にしつこい女だ。どうして欲しいのか尋ねると謝れと言われた。

 さっき謝ったじゃん…


 『大変申し訳ございませんでした』


ポケットに手を突っ込みながら映士ば頭を下げた。

 結局愛唯はその様子を写真に撮って気分が良くなったのか、三文句をブツブツと言いながら人を連れて階段を降りていく。

いや、講義を受けるのじゃないのかよ…だったらただの迷惑な人じゃん!と思った。まぁ、さっきの喧嘩でやる気がなくなったと言っていたから本当は受ける気だったのかもしれない。だが、もう受けないなら本人の自由だ。

 そのまま映士はほっといた。


『あーあ。なんか写真撮られたけど拡散とかしないよな…まぁしないよな。流石にそこまでネットのマナーがわからない訳じゃないだろうし』


もう映士にとって自分の謝っている写真がばら撒かれようがどうでも良かった。最悪なスタートの始まりである今日を、一日大丈夫だろうかとそっちの方が不安になる。

 

 『あーあ、なんか今日ツイてないかもな…』


そう言いながら周りの生徒を見回すと、みんな先程あの木ノ本愛唯に散々怒鳴られていた奴と、冷たい視線が映士に向けられていた。

 ほら、やっぱりツイてない…

 その後みんなはコソコソと自分を見ながらA棟のキャンパスに入って行く。


 『……そんなに愛唯って奴の方を味方になるのねみんな…世間ってのは本当、上っ面だけは良い奴が認められるんだな…中身は最悪なのに…』

 

 映士がぶつぶつ文句を垂れる。そしてため息を再び溢しながら講義に向かうのであった。

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