第12話 受付の**「ノイズ」と耕介の覚醒**

 受付の騒動

​ 新三郎は久門家の裏手で、静馬を拘束し、多恵と対峙した後、再び入鹿池の桟橋へ戻った。静馬と多恵を警察に引き渡す手配をするためだ。その際、眠ったままの金田一耕介を放置するわけにもいかず、新三郎は彼を担ぎ、明治村の正門受付近くまで運んだ。

​ その受付前で、まさに**「ノイズ」**が爆発していた。

​「なぜ入れないんだ!これは盲導犬だぞ!法律で認められているだろう!」

​ 中年の男性が、受付の制服を着た職員に対し、激昂していた。男性の足元には、ハーネスを付けた訓練された盲導犬が、静かに伏せている。

​「お客様、誠に申し訳ございません。村内は原則、補助犬を除くペット同伴はご遠慮いただいております。補助犬であることは承知しておりますが、一部の建物内では文化財保護のため、補助犬であっても入場制限を設けております…」

 職員は困惑しきっている。


 ​盲導犬: 法的に守られた**「合理的」**な存在。

​ 入場制限: 文化財保護という**「別の合理性」**。

​ 男性の怒り: 「合理的」なルール間の衝突から生まれた「不合理な感情のノイズ」。

 新三郎は、静馬が追い求めた**「ノイズ管理」が、日常の些細な衝突の中にも常に存在することに、背筋が寒くなった。静馬ならば、この男性の怒りの「波」を計算し、瞬時に「消去」**しようとしただろう。

 耕介、再び覚醒

​ 新三郎がその騒動に気を取られた一瞬。背負っていた金田一耕介の身体に、再び異変が起きた。

​ 新三郎の背中で、耕介がボサボサの頭髪を掻きむしり、**「う、うう…うるさい」**と低い声で呻いた。

​「耕介さん!」

​ ドサリと地面に横たわった耕介の瞳に、冷たい理知の光が戻ってきた。耕助の覚醒だ。

​ 耕助は、目を開けるなり、騒動の中心にいる盲導犬を見つめ、静かな声で言った。

​「新三郎君。あの犬だ…あの盲導犬が、**『ノイズの痕跡』**を嗅ぎつけている」

​「どういうことです、先生?」

​「琴江の三味線の『ノイズ』は、静馬の計算を狂わせた。そして、あの盲導犬は、『盲導犬を入れてはならない』という『感情のノイズ』に晒されている。だが、犬は知っている。『ノイズ』は『真実』を覆い隠すための煙幕だ」

 ​耕助は、騒ぎ立てる男性を指さした。

​「あの男性は、盲導犬の入場を巡って騒いでいるのではない。彼は、『入鹿池で起きた殺人事件』の『真のノイズ』を、犬が嗅ぎつけるのを防ぐために、『別のノイズ』を意図的に作り出しているのだ!」

 盲導犬が嗅ぎつけた「真実」

​ 新三郎は、目を見開いた。耕助は、地面に転がったまま、吠えることのない盲導犬に語りかける。

​「お前が嗅ぎつけているのは、**『ニードルガンの麻痺薬の残り香』か?それとも、龍之介の死体から流れ出た『硝酸銀の匂い』**か?」

​ 盲導犬は、静かに頭を振った。

​ 耕助は、その動作に驚愕し、自力で身体を起こした。

​「違う…!お前が嗅いでいるのは、**『血』ではない…『水』**だ!」

​ 盲導犬は、新三郎が運んできた耕介の着物に鼻を寄せた。そこには、先ほど猟銃が倒れていた場所の泥水が付着している。

​「あの猟銃は、久門家当主の千代ちよのものだ。そして、盲導犬が嗅いでいる『水』の匂いは、入鹿池の水ではない。久門家の**裏庭にある『内なる池』**の、藻の強い、淀んだ水の匂いだ!」

​ 新三郎は、愕然とした。静馬と多恵が逮捕されてもなお、事件の**「ノイズ」**は消えていなかった。

​「新三郎君。『猟銃』を撃ち、静馬の計算を狂わせたのは、多恵看護婦だ。だが、その『猟銃を多恵に渡した人物』、あるいは**『猟銃を撃つことを命じた人物』**が、まだこの村の中にいる!そして、その人物こそが、久門千代の『ノイズ管理』を裏で操る、真の黒幕だ!」

​ 耕助の瞳は、**盲導犬が嗅ぎつけた「内なる池の水の匂い」**の背後にある、**久門家の、最も深く淀んだ「血の秘密」**を見抜いていた。

​ 次に新三郎が追うべきは、久門千代の居場所、そして彼女の持つ**「内なる池」の水の秘密**、つまり、この一族の**「血の因縁」**に関する真実でしょう。


 明治村禁忌


 村内は指定場所を除いてすべて禁煙です。


 盲導犬、聴導犬、介助犬を除くペット同伴での入村はご遠慮ください。 ...


 飲食店舗以外の建物内での飲食はご遠慮ください。


 建造物破損のおそれがある危険物、ボール等遊具の持込はご遠慮ください。

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