小競り合いですよ魔王様

「何でも、大きな橋を挟んだ魔族の街と一触即発の状態らしい」


物騒な話を聞いた私は、街で大慌てで馬を借りて飛ばしていた。

馬の持ち主の了承は…おそらくあったと思う。


その橋のある川沿いの道を馬で飛ばしていた。

有り余る魔力で空を飛べればよかったのに…と思いながら。


「…あの橋か!」


そばに小さな小屋がある橋が見えてきた。

重厚で頑丈そうな、歴史を感じる石の橋だ。

その近くに数十名はいるだろうか?武装した兵隊の姿が見えた。

橋の反対側にも目をやると、やはり同じように武装した魔族の兵隊の姿が見えた。


「…間に合うかな?」


そう思った瞬間、お互いの陣営から矢が飛んでいった。

かなりの数だ。


「…!?」


私は馬から飛び降り、魔力を解放した。

そして飛び交う矢に向けて強力な攻撃魔法を撃った。

足元にあった石などが吹き飛んだようだ。


「…な、なんだ!?」


橋の上に私が放った太い光の筋が走り、飛んでいる矢が全て一瞬で消し飛んだのを見た両陣営から同じような叫び声が上がった。

身体能力をブーストして全速力で走って来た私は周囲を見回した。

そのせいか、私の走ってきた辺りの物が吹き飛んでいた。

一人の兵士の腕に矢が刺さっていた。


「大丈夫ですか!?」

「いてて…毒などは塗られていないようだ…」

「わかりました!」


そう言って私は矢を抜いて治癒魔法をかけた。


「う、うわ…なんだこの魔力は…」

「動かない!」

「は、はい」


私の魔力に周囲は驚きっぱなしであったが、構わずに魔法をかけ続けた。


「…よし、とりあえずこれで応急手当は終わり…」


そう言って今度は橋を渡って魔族の陣営の方へと全速力で向かった。

一人の兵士の足に矢が刺さっていたので、同じようにして無理やり治療した。


「…さて、こちらの指揮官はどなたですか?」


私の魔力に皆驚き困惑していたが、年長の魔族が現れて指揮官を名乗り出た。


「…わかりました!」


私は彼を掴んでまた全速力で人間の軍の方へと向かった。


「こちらの指揮官はどなたですか!?」


魔族の指揮官を連れて来た、異様な魔力の私にやはり皆怯えていたが、こちらも一人の男性が名乗り出た。


「わかりました!」


そう言って空いてる手で彼を掴むと、今度は橋の真ん中まで二人を引っ張って走った。


「…さて、お二人に話を伺っていいですか?」

「は、はい…」

「は、はい…」


どちらの指揮官もキョトンとしながら返事をした。


二人から話を聞くと、どうもこの橋を通って盗賊団のような連中が行き来しているらしい。

片方の国で盗みを働き、見つかるとこの橋を通って隣の国へと逃げるらしい。

そしてどちらの方も、それぞれが相手の方の盗賊団だと思っているようだ。

そこでその連中を捕らえるために人間側の街が監視小屋を作ったそうだ。

その小屋を見た魔族側の街の住人が、侵略の準備かと思い緊張が高まり、とうとう小競り合いになったという事だそうだ。


話を聞いている間二人はモメそうになっていたが、魔力を少し解放して驚かせて落ち着かせた。

この間、両陣営はどうしたものかと迷いじっとしていた。


「なるほど、じゃあ簡単じゃないですか」

「え?」

「え?」


私はそう言うと、二人を少し歩かせ、橋の中央部に軽く魔法を撃った。


「国境はこの辺ですかねー」


辺りに激しい音が響き、石が吹き飛び橋が削れて中央に溝ができた。

二人は私を見て驚きながらも不思議に思いながら顔を見合わせていた。


「ところで、あの小屋には今人がいますか?」

「い、いや…テーブルと椅子がいくつかあるぐらいだが…」

「わかりました」


それを確認すると私は魔法でその小屋を持ち上げた。

人間側の陣営から悲鳴が上がり、魔族側の陣営から困惑の声が上がった。

土台に付いていた土がパラパラ落ちて、橋の人間側の方が少し汚れてしまったようだ。


「えーと大体この辺ですかね…よいしょ!」


そしてちょうど橋の真ん中辺りに小屋を移動させた。

なるべくそうっと下ろして窓ガラスは割れていなかったため、ほっとした。

中に入ると、テーブルと椅子がごちゃごちゃになっていたが、それ以外は無事だった。

テーブルと椅子を戻して二人を呼んだ。

二人も困惑しながら入って来た。


「この小屋にお互いに数名の人員を派遣して、ここで国境の警備をすればいいじゃないですか」

「え?」

「え?え?」


二人はまだ困惑しながら煮え切らない態度を取っていた。


「いいですね?」

「はい!」

「はい!」


笑顔で確認を取った。

二人とも快諾してくれたようだ。


「では早速手続きお願いしますね」

「はい!」

「はい!」


二人は大慌てでそれぞれの陣営の元へと走っていった。

しばらくすると、どちらの軍も撤退していった。

そのまま小屋で待って夕方頃になると、人間側から3名、魔族側から2名の人員が送られてきた。


「お手数ですがよろしくお願いしますね」

「はい」

「はい」


5名はお互いギクシャクしながらも警備についた。

小屋から出ようとすると、魔族の兵士が一人私の事を呼び止めた。


「あ、そう言えばうちの街の将軍があなたにお話があるとかで…」

「了解しました。あ、この通行パスで大丈夫ですか?」

「えーと…はい、問題はありません」

「では向かいますね」


そして彼に聞いた道を通って魔族の街へとたどり着いた頃にはすっかり日が落ちていた。

話が通っていたようで、街の警備兵が私の姿を見つけると案内をしてくれた。


「どうもありがとうございます」

「いえいえ、将軍はこちらでお待ちです」


言われた部屋に入ると、小柄だががっしりとした体格の魔族が一人いた。


「ああ、やはり噂になっていた、復活した魔王様だったんですね…」

「私には以前の記憶はありませんが、そう言われています」


防音魔法をかけて彼に経緯を説明した。


「相変わらず以前の事は全く思い出せないのですが、この力をどう使うかを知るために旅をしている次第です」

「なるほど…」

「ところで私にお話というのは…」

「ああ、そうでした。この度は争いを止めていただきありがとうございました」


そう言うと彼は頭を下げた。


「いえいえ」

「実は例の盗賊団に関して人間側の街と協力して捕らえようという計画はあったんですが、疑心暗鬼になっていたためなかなか相手に言い出せない状態でして…」

「あらら」

「こちらの住人は人間の街の手引きで盗みに来てるんじゃないのかとまで思われてました」

「指揮官の方もおっしゃってましたね。向こうの指揮官も…」

「そんな中、向こうが小屋を建てたのでさらに疑心暗鬼が強まった結果、こんな感じになった次第で…」


多少強引だったものの、なんとかなってよかった。


「そこで、魔王様にぜひともお礼をと思いまして…」

「あら、そこまで気を使っていただく事はないのに…」

「いえ、さすがにそういうわけにも…」


すると彼は机の装置で誰かを呼び出した。


「お呼びですか?」

「ああ、こんな時間にすまない」


ドアを開けて一人の女性が入って来た。

見た目は完全に人間だが、魔力の感じから魔族らしい。


「こちらはわが軍のアンナです」

「初めまして、アンナと申します」

「よろしくお願いします」

「このアンナを魔王様のボディーガードとしてつけさせていただきたいのです」

「え?よろしいのですか?」

「はい、我々としては魔王様の身が心配ですので…」

「アンナさんはいかがですか?」

「魔王様の警護となると大変名誉な事ですので、引継ぎさえ終われば私はいつでもお供させていただきます」


というわけで、引継ぎの間街に滞在することになった。

その間に例の盗賊団も捕まった。

小屋を不思議に思ったが、無人だと思い通り抜けようとしたところ捕まったらしい。

人間と魔族の混成チームだったようだ。


「いやー、魔王様のおかげで盗賊団も捕まえる事が出来て本当に助かりました」

「いえいえ」

「向こうのチョウチョウ?も喜んでいるとの報告を受けました」

「なるほど…」


どうも将軍は人間社会に詳しくないのか、町長という役職をよくわかってないようだ。


「それで、向こうとの話し合いの結果、あの小屋をもうちょっと拡張してあのまま国境警備用に転用することにしました」

「ふむ」

「例の盗賊団以外にも、違法な物を持ち込んだり持ち出したりする輩もいますしね…」

「なるほど」


我ながら強引ではあったが、良い結果になったのは良かった。


「お待たせしました魔王様」


引継ぎの終わったアンナが旅の格好でやってきた。


「彼女は隠密行動の訓練もしているので、魔王様のお役に立てると思います」

「おー、それはすごい!」

「では魔王様よろしくお願いします」

「ええ、一緒に旅をする姉ができたみたいですね」


こうして私の旅に新たな道連れが加わった。


「しかし、盗賊たちの方が先に魔族と人間とで手を取り合ってたのは皮肉な話ですね…」

「そうですね魔王様…」



その後借りてきた馬の事を思い出し、慌てて持ち主の住む街へと向かい借り賃を持って謝りに行った。

だがあの後自分で街まで戻って来ていたという事だった。

どうやら私の魔力に驚いて街まで逃げ帰ってきたらしい。

街を出る時、その馬が私を見て怖がっていたのは少し悲しかった。


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