第1話 大人しいクラスメイトは……?
そ、そのセリフは……
俺のデビュー作、「ラブスレイブ・サガ」メインヒロイン、平もみじの言葉そのままだった。
佐賀と山梨出身の両親を持つキャラで、佐賀弁と甲州弁がぽろりと漏れてしまうキャラだった。
まぁHなゲームなので、そういう展開でも方言が多々あるんだけど。
俺が驚いたのは、一言一句そのままの言葉ではあるんだけど、藤田さんは生まれが東北ではあるが標準語以外は聞いた事がない。
いや、元々大人しい方だから、そんなにサンプルボイスが多いわけでもないんだけど。
これまで聞いた藤田さんから、佐賀弁が出てくる要素が見当たらないのだ。
それと、どこかで聞いた事のあるような「きゃっ」なんだよ。
なんだったかな……
意外と身近で……それも最近も聞いたような?
「な、なにか……?」
俺が藤田さんを不思議そうに凝視していたからか、驚いた表情で藤田さんが俺に話しかけてきた。
「あ、いやごめん何でもない。」
ホームルームを無事に乗り越えると、俺はスマホを操作していつものボイスを漏れないように再生する。
俺がERsiteというダウンロードコンテンツでお気に入りの同人声優、【|椛楓《もみじかえで)】の声を聴く事にする。
全年齢用のASMRから、ちょっとHなR15の音声までではあるが、とても綺麗で澄んだ声をしている。
極たまに、どこから出したのかって低音を出したり、まるでそこにいるかのような息遣いだったり。
R15までしか投稿していない事から察するに、まだ高校生か18歳未満なのだろうとは思ってる。
とにかく、疲れた時とか悩んだ時に彼女のボイスを聴く事が、癒しであり趣味であり活力となっているのだ。
この1年近くの学業と隠れシナリオライターの二足の草鞋を乗り越えられたのも、彼女の声に癒されたからに他ならない。
「やっぱりどこかで聞いた事があるんだよなぁ。」
ちなみに今思ってる事はと言えば、先程の藤田さんの事ではなく、椛楓の声がどこか身近なところで聞いた事があるような?という疑問だった。
実を言うと、俺はデビュー作をプレイしてはいない。
オープニングムービーやエンディングロールもだ。
OPにはおっぱいとか、モザイクの掛かったヒロイン達の下半身とかが描写されているため、残念ながら俺ではまだ閲覧できないのだ。
それ故に、俺は物語を書いただけ。
俺の書いたメインストーリーと各キャラの個別ルートに、親父のエロセリフが加わったものだ。
出来上がったエンディングロールやパッケージには、昨年1年の時に作ったペンネームと、Hシーン担当で親父の名前が記載されている。
ペンネームの由来や経緯については、回想出来る時があれば回想しよう。
そういや、親父からメインヒロインの声優オーディションについて相談を受けたっけ。お前もメインヒロインくらいは自分で選びたいんじゃないか?と。
そういやそんな事もあったな。俺はリモート会議で、数回顔出し(実際には音声のみ)参加しただけだけど。
最終候補に残った5人から、先入観なしにって声優名を伏せられた番号の振られたフォルダと、フォルダに入っていたいくつかのセリフのサンプルボイスが入っていた。
そうだ。俺が一番良い!って思ったのが、どう考えても椛楓にしか聞こえなかったんだ。
声に一目惚れというのが正確かはわからないけど、とにかく一度聞いて虜になったのを覚えてる。
結局製品版は、実はまだパッケージすら見ていない。
さっきも思った事だけど、18歳未満だからパッケージに映るHな絵を視界に入れてはいけない。少なくとも俺はそう思ってる。
別にイラストくらい見てもいいだろ?とは思わなくはないんだけどさ。ソフ倫は通ってるんだから。
あの時は好きな声の持ち主が増えてこれから大変になるなぁなんて思ってたけど。
もしかしたら、オーディションの時には18歳になって、HなのもOKになったという事かな。
いや待て。まだ同一人物と決まったわけでは……
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