それでもここで生きていく
旅幸
第1話 まつり
人の期待に応えるコツを、僕は知らない。
ちゃんとやれば良いのだと、人生の先駆者たちは言うけれど僕は言わずもがなそれが子供だましと分かってる。
日々自分のできる以上のことを求められるじゃんか、だからこそ僕は面倒でも頑張ってるんだ。
僕はきちんとできてるって、誰かに僕は見てほしいんだよ。
期待を裏切っちゃだめだよな、そうだよな。諦めず頑張ろうとしなきゃいけないんだ。
でも本当に気づいてほしい人に見てもらえてないって、僕は理解っている。
物憂げな秋が訪れ
僕は街の広場のベンチに腰掛けて、叔父のストラウおじさんと話していた。
「祭りの屋台造りを手伝え?やだなー、ストラウおじさん。」
「ハロン...おまえ、明日はあのルクア様を讃える祭りだぞ!失礼じゃないか。それに、祭りのアイデアだって考えたんだろ?」
「それはさあ……」
明日は一年で最も大切な日、ルクア祭。
けどルクア祭なんてそんなの、僕はもう意味ないと思うんだ。
「俺もスマさんとドロウに怒られるからな、頼むって!」
葉に衣着せない物言いをする僕に疲れ、ストラウおじさんは手を合わせて頼み込んだ。
「父さんと母さん?大丈夫だって。それにストラウおじさん、ルクア祭用じゃなくても屋台はあるじゃんか。」
わざわざルクア祭だけのために手作業でしなくたって別に何か言われるわけじゃないのに。
ストラウおじさんは融通が利かないな。もっと頭を柔らかくして考えてほしいや。
そう思っていると、僕の心のしこりに気づいたみたいにストラウおじさんがまっすぐ僕の顔を見て諭すように言った。
「ルクア祭は他の祭りと同じにしちゃいけないって分かってるだろ?」
「ルクア様のしたことを褒め称える祭りなんだから。」
確かにそうだ。学校でもルクアさまとルクア祭の大切さは教えられる。
でもなあ。
「⋯うん」
「オッケー、分かったんなら行こう!」
ストラウおじさんは胸を撫で下ろすようにして祭りの準備場所に向かった。
セラムの中心部にはルクア様の像があり、そこで明日祭りが行われる。
祭りの屋台は街の収益にもなるから、屋台は大事な仕事らしい。
さっそく道具を借りて組み立てようとすると、いかつい大工の人に止められた。
「おいおい、ハロンじゃねえか。昨日はありがとな。せっかくのルクア祭が台無しになるところだったからな!」
昨日のルクア祭の会議にいた人か。もっとルクア祭の負担を減らした方がいいって思ったから言ったんだけどな。
「で、何しに来たんだ?」
僕が準備を手伝うというと、目を見開いてその大工は言った。
「ルクア様に敬意がないお前に仕事を任せるのは癪だ。でもドロウさんにはお世話になってるし仕方ねえ。」
父さんの名前を出して、何が言いたいんだよ。
少し場がピリピリとした雰囲気になりかけたとき、近くにいたクラスメイトのカントが間に入った。
「シンドさん、ハロンはルクアさまを尊んでないわけじゃないんです。確かに強引なところはありますけど、みなさんが大変そうだから楽にしようって提案しただけなんです。」
大工のシンドはカントの話を聞いてちょっとは納得したらしく、僕の方を向くと「まあ、しっかり仕事するんだぞ。」と途切れがちに言った。
「カントありがとう」
「全然おっけい!というかシンドめっちゃ恥ずかしくなってたくない?」
「そうだよな、ちょっと照れてるようにも見えたかも…。」
「がち?あの人今年三十だよ!」
どうでもいい話をカントとしていると、シンドの視線が飛んできた。
「ハロン、手を動かせ!間違えるなよ、山から切った大切な木だぞ!」
そろそろやるか。
接着剤と釘を使って屋台を組み上げていく。
カントを見ると屋台の看板を作っているところだった。
「何の看板?」
「これは、栗。たぶん焼き栗とか甘栗じゃない?」
「おい、ハロン!大丈夫かー?」
「はい、すみません!」
シンドに気づかれてしまった。
目線前にあるのに何でわかるんだ!?
手作業で組み立てる長い時間が続き、カントとも協力しながらやっと僕は屋台を作り上げた。
「オッケー!できたな。ありがとさん。これで明日の祭りに間に合うな、解散でいいぞ!!」
「はぁい」
周りを見渡すと、空が黒に染められようとしていた。
早く帰らないと。あれが出るかもしれない。
「カント、バイバイ!」
「ハロン、また明日!」
父さんと母さんの門限に間に合うかな。
時計がないから確認できない。
僕は早足で帰りながらルクア祭について考えていた。
昼間っからずっとやって夜に終わるって、本当に手作業でしないといけないのかな。
ルクア祭は昔からあるし、大切な行事だとは思うけどそこまでほかの祭りと変わらないじゃんか。
けどストラウおじさんや父さんや母さんは一緒にしちゃいけないって言うし。
そんな大切かな。
ルクアっていう昔の人間を敬うことがそんなに大切かな。
いつの間にか足がゆっくりになっていた。
「あー、もう。」
今考えたって分かんないや。
家の近くまで来た僕は、町外れにひっそり佇むあの像を見に行きたくなった。
今日は何だか家に入りたくない。
森に近いし夜なのに不思議と怖さが薄れていた。
「サク、サク。」
土を踏む足音を立たせながら歩くと、自分の気持ちが消化されていくような気がした。
無駄なことをする人もいるけど、それは心が整理できて余裕が生まれるからいいのか。
でも昔の人を敬うためにわざわざ一からする必要ってあるのか。
考えることが頭の中でポップコーンみたいにはじけて楽しくなってきた。
ジャンプするみたいに気になることがどんどん浮かぶ。
「ルクアっていう人はどうしてそんなに尊敬されるんだろう?」
道を進み、森の中に少し入った場所にその像は佇んでいた。
とても古びていて、
いつもここで遊んでいるはずなのに少し怖い。
「誰かいますか?」
注意して像に近寄った。
ん、変だな。
見覚えのない板が像の首にかかっている。
違う、板じゃない。
蔓の花が文字みたいになって、咲いてるんだ。
「ノルドからルクアへ」
「ルー。あれを倒したとき、ルーの心
一瞬人影が見えた気がした。
「おい!ハロン、大丈夫か!?」
でも声が聞こえたとき、そこにはもういなかった。
それでもここで生きていく 旅幸 @platit
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