時の少女
Kay.Valentine
第1話
ぼくは三浦秀一、伊東市内の高校に通っている高校三年生。
自宅のそばには広いミカン畑があり、バス停で下車して自宅に帰るときにいつもここを通る。ぼくはここからの眺めが気に入っている。
なだらかに下っていく畑のなかの一本道、その先の青い海、そして水平線上には伊豆大島。
ある晴天の土曜日、小学校低学年ぐらいの女の子がひとりで海を見ていることに気がついた。迷子かもしれないと思い声をかける。
「どうしたの?道に迷ったの?」
「うぅん、ここから海を見ているのが好きなの」
振り向いた女の子は栗色の髪の毛が透き通った肌によく似合う都会的な子供だった。
このあたりでは見ない子だ。どこの子なんだろう。
「このあたりの親戚のおうちに泊まりにきているの?」
「そうよ、もうすぐおうちの人がお迎えに来てくれるの」
そのあとも天気の良い土曜日にはかならず女の子は海を見ていた。少女は「みゆ」といった。
ただ、会うたびに一年ぐらい成長していく。
「ねえ、はじめて会ったときからずいぶん成長した気がするんだけど」
すると、みゆちゃんは理由を説明してくれた。
昔はこの隣の村に住んでいたそうだ。そして、お母さんと一緒によくここに来たそうだ。でも、やさしいお母さんは白血病で亡くなり、父親は仕事先の取引会社の人と再婚した。
父親は有能だったので、やがて東京本社の部長になった。一方、父と新しい母親との間には子供が生まれない。継母は、それをみゆちゃんのせいにしていじめるようになった。
三ヶ月に1回ぐらい、彼女は耐えられなくなると、やさしいお母さんと見た景色を見るためにここに来るようになった。念じると、ここに来ることはできるのだが、お母さんがいる頃まで戻るパワーはないらしい。
ある時、彼女は、セーラー服姿で海を見ていた。鼻血が出た。驚いた秀一は急いでティッシュで彼女の血を拭き取った。
少女はさらりと秀一に言う。
「わたしも白血病みたいなの」
「今までいつもありがとう」
ふたりは握手した。すると彼女はゆらゆらと揺れる白い雲の塊のようになって消えていった。
以来、みゆちゃんに会うことはなくなった。
「みかんの花咲く丘」という歌からイメージした話です。
時の少女 Kay.Valentine @Kay_Valentine
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