第8話・交渉相手04


「しょ、将軍!」


「ですが、ギザル正教国と事を構えると

 なると」


「いったん本国に戻って確認を取ってからの

 方が―――」


アーノルドの決断に、部下たちは次々と

異議いぎを唱えるが、


「……なあ、お前らだって

 本当はわかってんだろ?」


ブロンドの短髪の青年は静かに語り出す。


「いくら王族っつっても、俺みたいな

 下から数えた方が早い王子について

 来たって、出世の見込みはねーよ。


 今回だってそうだ。

 レイサイ王国を占領したところで、

 出来て当然当たり前、って評価に

 なるだけ。

 単なる経験を積ませるだけの派兵って

 事は、みんな知っているからな」


その言葉に配下は沈黙し、


「だがよ、もし同時に侵攻して来た、

 ギザル正教国のレイナード将軍を

 打ち負かして撤退させたとなりゃ、

 俺たちへの評価は一変するぜ?


 少なくとも、いつでも捨て石に出来る

 都合のいい戦力とはならないはずだ。


 賭ける価値はある、と俺は見た。

 俺に命を預けてくれるヤツだけついて

 来てくれ」


「(おおぉおおおっ!!

 やった!! やりましたよ

 オッサーン!!)」


それを見てメルダは内心喜びの雄叫びを

上げる。


【なかなかいい感触のようだな。

 それに、このアーノルドってヤツが

 どういう立ち位置なのかもわかった。


 これはやりやすいかもな】


「(やりやすい?

 ってどーゆー)」


【それは後でいい。

 今はこの場から無事離れるまで

 気を抜くな】


そこでメルダはハッとなって―――


「……信じて頂けるのですか?」


彼女の言葉に、アーノルドは向き直り、


「女の身でここまで来たんだ。

 文字通り命がけだっただろう。


 それがもしウソだったら、むしろ

 スゲーと思って死ぬさ。

 あんたみてーな美人の策で死ぬなら

 本望だよ」


その言葉にメルダはドキリとして、


「だだ、ダメですよ死んではっ!!」


急に甲高かんだかい声が俺の耳に響く。

その様子を見ていた(と言っても

メルダの声を聞いていただけだが)俺は、


【お前、もしかして結構チョロイ?】


「(ちーがーいーまーすー!!

 レイナード将軍を倒してもらわなければ

 ならないからですー!!)」


【どうでもいいから取りつくろえ。

 そして本題に入れ】


そこで彼女は真顔に戻って、


「では、いくつか策を具申ぐしんしておきます」


そこでメルダは、10分ほどアーノルドと

話し込んだ。




「それでは、どうかご武運を。

 成功したあかつきには、ぜひレイサイ王国へ

 お立ち寄りください」


「おう。その時は歓迎してくれよな」


そして深々と礼をすると、メルダは

バラン皇国派遣隊の野営地から出て、

従者たちと合流した―――




「(お、終わりましたぁ~……)」


馬に揺られながら、一仕事終えたような

声を出す彼女に、


【おう、ひとまずご苦労さん。


 だがむしろこれからが本番だぞ。

 これから腕によりをかけて『歓迎』

 しなけりゃならないからな】


「(その歓迎ってどうやるんですか?)」


【だから文字通り『歓迎』だよ】


「(???)」


【まあ、とにかく帰ってからだ】


よくわかっていない状況のメルダに、

俺は戻るよう指示を出した。


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