モルック同好会、始動!
TKO04
第1話 二つのモルック
いま、僕の目の前には、「モルック」の道具一式がある。
これはあるテレビ番組の視聴者プレゼントに応募して当たったものだったはずだが、違うかもしれない。
この話は、数日前にさかのぼる。
「
そう言って僕に声をかけてきたのは、隣の席の
大智さんとは、この春、千葉県西柏市にある鶴谷城高校に入学して、同じクラスになり、隣の席でお笑いの話をときどきするぐらいだけど。
大智さんはスラッとした長身でとてもきれいな子で、僕よりも背が高くて話すだけでも毎回ちょっと緊張するんだけど。
同じお笑い芸人が好きだということで、芸人がやってる配信や番組出演などについて話をしてる。
ある日、ホームルームが終わって家に帰ろうとしていたら、大智さんに話しかけられた。
好きなお笑い芸人がやっているスポーツ「モルック」に興味を持ったんだそうだ。
それで、この前その芸人が出演していたBSのテレビ番組で、モルックの道具が視聴者プレゼントになってて応募したら、当選したんだって!
いいなー! その番組は僕も見てて、実は応募もしたんだけど、大智さんが当たったんだ! すごいな!
それで、同じ芸人が好きな僕なら、モルックにも興味があるんじゃないかと思って、話しかけてくれたらしい。
で、なんと!
「今度、家の近くの公園でモルックをプレーしてみたいんだけど、興味のある人が周りにいなくて。香坂君、いっしょにやらない?」
というお誘いの話だった! やった!
モルックは、フィンランド発祥のスポーツで、細長い木製の棒(モルック)を投げて、①〜⑫の数字が書かれた木製のピン(スキットル)を倒して得点を競い合う、「ボウリング」と「ビリヤード」をかけ合わせたようなゲームで、二チームで対戦して、倒したピンの得点の合計数が先に50点ぴったりに到達したほうが勝つゲームだ。
大智さんからの話は、仲のいい隣クラスの
僕も前からモルックをやってみたいと思っていたので、中学時代からの友だちを誘ってみることにして、大智さんと別れた。
そのあとは、大智さんに誘われたことにドキドキしながら、家に帰ったんだけど。
玄関を開けると、段ボールが一つ置いてあった。
「
と奥からお母さんの声。
送り先を見ると、BSのモルック番組『モルック魂!』から僕宛ての荷物だった!
急いで部屋に運んで段ボールを開けてみると、モルックの道具一式が入っていた。
僕も大智さんと同じ番組『モルック魂!』の視聴者プレゼントに応募してたけど、まさか僕にもモルックの道具が当たるなんて!
すごい偶然に運命的なものを感じて、慌てて大智さんに連絡しようかと思ったけど。まずは「中身を確認してから」と思って、段ボールからモルックの道具を取り出す。
バッグの中にはビニールに包まれたモルック棒、スキットルという12本のピン、モルッカーリという、モルックを投げるときの仕切り線に使う細長い棒が入っていた。
右手ではじめて握ってみたモルック棒は、ペットボトルぐらいの重さで、以外と軽くて、木のいい香りがした。
握り締めながら、モルックの道具が当たったことはいったん内緒にして、「この道具を使って、少し自主練してみよう」と思い直す。
それで、こんなときに誘える友だちってなると、僕には
「大吾、今度の土曜日って空いてる?」
「午前中にバレー部の練習があるけど、その後なら大丈夫だ」
「モルックに興味ない?」
「モルック? あの棒を投げて棒を倒すボウリングみたいなやつ? なんで?」
実は……とこれまでの経緯を、大吾に説明すると。
ニヤニヤしながらも「面白そうじゃん」とOKしてくれた。
「大智さんってどんな子?」
「えっ、僕より背が高くて美人でお笑いが好きな子だよ」
「へー。……可能性ある感じ?」
なんて聞いてくるから、苦笑しながら、
「そんなんじゃないと思うよ。
大智さんモテそうだし、僕より背が高いし……」
「そうかぁ?
瑠衣はファニーな感じだから高校でモテそうな気がするけど」
なんだよ、ファニーって!
まあ背が低くて童顔だから「小動物」「コロボックル」ってよくからかわれてるの大吾は知ってるから、そういう言い方をしてくれたんだろうけど。
大吾はいいよな。ヒョロっとしてるけど、僕と違って背が高いし、高校でもバレー部でがんばってるし。
休みの日まで、まだ数日あった。
それまでに、当選したモルックの道具を使って、家の近くの駐車場や公園で練習を繰り返した。
ネットの動画を参考にして、見よう見まねで水平に握ったモルック棒を数メートル先に立てた12本のスキットルに向けて投げてみる。
最初は全然当たらなかったけど、だんだんコツを掴んでいってスキットルのピンに当たり出した。
モルックは、モルック棒を投げて倒した12本のピンの合計数か、1本だけ倒したピンに書いてる数字が得点になるんだけど。
試合開始のときは、ボウリングやビリヤードのように、12本が一塊になったピンにめがけてモルック棒を投げて、とにかく多くのピンを倒すのがセオリーだ。これを「ガシャ」と呼ぶらしい。
モルック棒は、足元に敷いたモルッカーリという細長い棒からはみ出さないように気をつけて、3~4メートル離れた先に立てたスキットルの束に向って投げる。
最初は、スキットルに当たらなくて、手前に落ちて明後日の方向に飛んだり、棒が浮き上がってスキットルの上を超えてしまったりして、なかなか難しかった。
スキットルの手前で跳ねても、倒せれば問題ないし、ボウリングみたいに転がして倒してもいいけど、モルックは芝生や土の上で競技することが多いので、どう飛び跳ねるかわからない。
僕は、なるべく狙いを定めたピンに直接当てて倒すほうが向いているかもしれない。
もともと、ボウリングが得意で、特にボウリングレーンにある印(スパット)に向けてストレートボールを投げてストライクをとるタイプだったので、投げるときに膝の曲がりや棒が浮かないことを意識して、低い位置から先頭の①ピンと②ピンの間を狙って、力強く投げてみる。
「コツン!」
という音とともにスキットルのピンが12本ぜんぶ倒れた。
これで12点ゲット!
それからは、散らばったピンを倒しては、自分で立てて、モルック棒を投げることを繰り返す。
だんだん狙いどおりのピンを1本ずつ、倒せるようになっていく。
あれっ、僕ってモルックに向いてるかも?
ビギナーズラックだったのか、そのあとは一投目ほどの見事な投てきはできなかったんだけど。
それでも、ガシャで一本でも多くのピンを倒し、狙いどおりに高得点のスキットルを1本ずつ倒して、50点を目指していく。
その日は遅い時間まで、夢中になってモルック棒を投げ続けた。
モルックは一回投げるたびに、点数計算と倒れたスキットルを立てる作業を行わないといけない。
一人でもできるけど、練習で投げては一回一回倒したスキットルを立てるのがちょっと面倒で、一人でやるより交代でみんなでやるほうがきっと面白いし、盛り上がりそうだなぁ。
みんなでやる日を待ちわびながら、部屋の中や駐車場で自主練習を繰り返す日々を過ごした。
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