攻略されたダンジョンちゃんは、巨乳☆美少女メイドに転生したので、色仕掛けを使って冒険者に復讐したい

冬野トモ

第1話 「これがおっ☆いかッ!」

 気づいたらメイドになってた。


 いや、マジで。朝起きたら鏡に映ってるのが、黒髪ロングの美人で、胸が重い。豊満。グラマラス。ボインボイン。語彙力が死ぬレベルで巨乳なわけ。


「これがおっ☆いか……」


 鏡の前で遠慮なく揉む。フリルで飾りつくされたメイド服。肌が擦れて、奇妙な感じ。昨日まで人間ですらなかったのに。


「んッ……♡」


 声が漏れる。



 ♢ ♢ ♢



 わたしの正体、──それはダンジョンだ。


 そう、冒険者どもがワラワラと入って、トラップなんか避けながら、モンスターを倒して、宝を奪っていくって、あのダンジョン。

 地下50階層、罠120個、隠し部屋17個を誇る、このエリア随一の高難易度ダンジョンだったわけ。


 過去形。


 なぜなら、完全攻略されたから。


 犯人はコイツ。


「おはよう、今日もいい天気だね」

 朝から優雅に紅茶なんかすすってる。殴りたくなるほどイケメン、高身長。ほんとに冒険者やってたのか疑いたくなるほどの、傷一つない肌。細マッチョな体形。


 わたしの〝ご主人様〟だ。


 名前はボーケン。三十二歳、独身、趣味は紅茶と農園。


 こいつが長くて硬い聖剣を片手に、ソロで、たった一人で、わたし(ダンジョン)の奥深くまでズブズブと侵入して、最深部まで完全攻略しやがった。隠し部屋全部見つけて。レアドロップ全部回収して。


 おかげで、わたしはスッテンテン。財宝を奪われ、モンスターもいない。一方、コイツといえば、わたしから奪った金と、国王からの褒美とやらで、悠々自適にスローライフをおくってる。


 クソッ!



 ──で、


 なんの罰ゲームか知らないが、わたしは、このクソ冒険者のメイドに転生してたってわけだ。うん。最高じゃないか。今すぐフォークでコイツの首根っこを刺してあげよう。


「どうしたんだい? ダンジョンちゃん(笑顔)」


 殺意を察した……?


 わたしは慌てて、フォークを後ろ手に持ち直し、汗を垂らす。


「いいえ。何でもありません。わたしの雄々しきご主人様」


 殺意を消すため、語尾のあとにハートでもつけてやろう。ちょん。




 とにかく、わたしには明確な目的がある。


 復讐だ。


 このクソ冒険者を、確実に、完璧に、殺す。




 夜。転生して数週間


 わたしは決行した。


 乳首にたっぷり塗ったのは、毒。猛毒。舐めれば秒で死。


 ふふふ。


(せっかくメイドに転生したんだ。色仕掛けを使わない手はない。男なんて、みんなバカ。脳みそチ☆コに直結してる単細胞。楽勝)


「ご主人さま~」


 月明かりだけが差し込む屋敷の廊下を、音もなく進む。ご主人様の寝室の扉の前で立ち止まる。扉をそっと開ける。ちょっと高い声で、甘い声で呼んでみる。


 ベッドのご主人様。ゆっくりと目が開く。


「……ダンジョンちゃん?」


 寝ぼけた声。きた。チャンス。


「起こしてしまいましたか? 今夜は冷えます。わたしがおそばで温めて差し上げますわ」


 ぷるるん♡


 どうよ。この破壊力。豊満の恵体。二つのメロンでイチコロ。


 白い肌が月明かりで輝く。


「ダンジョンちゃん……、これは一体……」


 ふふふ。動揺してる。奴はきっと童貞だ。美少女に迫られたことなんてないだろうし。


「ご主人様が嫌でなければ、自由に舐めてください」


 うるうるの瞳。上目遣い。ちょっと恥ずかしそうに、でも大胆に。ズイッと顔に押し付ける。


「……。舐めて、いいんですか」


(——食いついた!)


「どうぞ。思う存分、わたしの身体を舐めてください」


 ご主人様は、わたしをガシッと掴んで、


「——では、遠慮なく」


 ペロペロペロ、ペロペロペロ

 ペロペロペロ、ペロペロペロ

 ペロペロペロ、ペロペロペロ


「はっ??」


 そこ、乳☆じゃない。わきなんよ。え? は? 何で脇? 


 コイツは気持ちよさそうな表情で、わたしの脇を舐めまくるのだった。思考が停止する。


(ええ!! 何で脇?? WAKIって何? 脇には、毒、塗ってねーよ。想定外なんよ!)


「ンッ……♡」


 思わぬ行動に、電気が走る。全身が震えた。


「あのう、こちらのメロンは……」

「興味ない(キリリッ)」


 えええーー!?


 そんなことある?


 メイドのおっ☆いに興味がないとか、大丈夫か? おっ☆いに親でも殺されたんか? おっ☆いはメインディッシュだろうが。前菜すっ飛ばして、サイドメニュー食ってんじゃねーぞ!


「あの、その……。変なトコ舐めてもらっても、恥ずかしいです」


「大丈夫。ダンジョンちゃんの脇は美人だから!」


(知らねーよ。それは脇の褒め方じゃねーと思うぞ! てか、脇を褒めるって何だよ。人生で初めての台詞だよ。新ジャンル、脇コンプ!じゃねーよ!)


 テンパる。目がぐるぐる回る。


「ダンジョンちゃん」

「ひ、ひゃい!」

「もっとわき開いて。うまく舐めれないから」

「ふぁ……!? ご主人様の変態!」

「ダンジョンちゃんが自由にしていいって言ってくれたんだろ?」


 そうだった!


 わたしのバカバカ! リサーチ不足! 計算外。オワタ。詰んだ。


「ほら、じっとしてて」

「ひゃい!」


 ペロペロペロ、ペロペロペロ

 ペロペロペロ、ペロペロペロ

 ペロペロペロ、ペロペロペロ


 そのまま、二の腕、肩、首筋。


 毒を塗ってない場所ばかりを、律儀になめられていく。


「っ……」


 息ができない。心臓がバクバクしてる。


 作戦どこいったよ。ただ、抱かれてるだけじゃん。


「ダンジョンちゃん。顔が赤いよ? 風邪?」


「う、うるさい……バカ! 変態! ドスケベ!」





 ——一時間後。


 わたしは自室のベッドで、枕に顔を埋めていた。


「ああああああああ! マジ無理! アイツ無理! リセットボタン押したい! セーブデータ消したい!」


 叫んだ。足をバタバタさせた。


 何やってんだわたし。

 暗殺しに行ったのに。

 毒殺するはずだったのに。

 なんで——ただ、ご主人様に脇を舐められて、ドキドキして終わってるの!


「くそう……脇フェチめ。アイツ、S級冒険者じゃなくてS級変態だろ。いや、SS級。SSS級変態。レジェンド級変態。殿堂入り変態」


 枕をボカスカ殴る。


 悔しい。


 でも——ちょっとだけ、ドキドキした自分もいた。


「明日こそ絶対殺す。マジで。ガチで。本気で。今度こそ。確実に。100%。いや120%殺す」


 わたしはベッドの上でゴロゴロ転がり続けた。

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