第22話 PVP
「こ、このぉガキが舐めやがって!」
「PVP申請を送ったっ今すぐ受けやがれ!」
激情に駆られて茹で上がった二人の絶叫に、僕は目論見が成功したことを確認する。頭に血がのぼれば判断力は鈍り、行動はより単調になっていくものだ。わざと挑発するようなことを言ったのも、このためである。
「言われなくても、そのつもりですよ」
PVPが承認された。
人生で初めての本気の殺し合い。
「モブやっちまえ!」
「絶対に勝つって信じてるからな!」
「はい……行ってきます!」
ついに戦いは始まった。
◇
地を蹴りだして走り出した僕は、シノノメさんとエンビーさんを眺める。
二人は共に剣士である。しかし、その役割は違う。シノノメさんは防御と火力を兼ね備えた剣身の長いバスタード・ソードを両手に持ち、その背後にいるエンビーさんは一撃よりも手数を優先したショート・ソードを構えている。
火力とタンク係であるシノノメさんが圧力を出し、追撃をエンビーさんが担う形だ。これが、彼らの基本の型。
「ステータス差火力で潰れて死ねぇぇぇぇ」
接敵した途端に、シノノメさんがバスタード・ソードを大きく振り上げた。
レベル差を考慮すれば、まともに受ければ甚大な被害を被るのは必至。
———まあ、受けたらの話だけどね。
初動の肩の動き、僅かな足の引き、武器の角度、学習した彼のパターンと照らし合わせ、導きだせられる軌道は……ここだ!
「よっ!」
ガキンッと激しい金属を奏でて、僕はシミターで攻撃を受け流した。
その威力にビリビリと腕が震える。
「な!?」
筋力も速度も、あらゆる面で劣る僕に防がれると思っていなかったのだろう、シノノメさんが目を丸くする。
「ハァッ!」
「ぐっ!?」
攻撃をスカして胴の回り切った体へ反撃を加えると、くぐもった呻き声が聞こえた。
「隙だらけですよっ」
「調子に乗んじゃねぇぇぇ!」
振り切った腕を引き戻すように攻撃がくるが、肘と手首の角度、腰の入り方で、軌道は限定される。
(屈んで左へ一歩踏み込めば、絶対に攻撃は届かない)
計算したルートにブンっと風切りが掠めた音をを聞き届けて、また一撃をお見舞いする。
「どりゃ!」
「がぁ!?」
「どけシノノメぇ!」
前に出っ張るシノノメさんがリズムを崩したら、スイッチしたエンビーさんがくるのは織り込み済み。
(さて、上手くいくだろうか?)
エンビーさんのショート・ソードが弾かれたように水平に線を引く。半歩下がってそれを回避。その間も、視線でエンビーさんの動いを捉え続ける。
(水平斬りからの、二連撃目でこの体制、90%の確率で逆方向への切り返し)
わずかに腰を捻り、最小限の動作で剣を躱す。
「くっ!」
(まだ続くか、踏み込みの深さからして左下からの切り上げ……これはエンビーさんが最も得意とする攻撃パターンだ)
彼が手癖のように初撃で放つ左、右、左下、上、右上の五連撃の三撃目。
答え合わせをするように、左下からの切り上げがきた。
(ならば、五連撃の最後にソード・スキルがくるはずっ!)
スキル直後は、ほんのわずかな硬直が生まれる。
そこを狙い撃ちする。
「死ねぇぇ、スラッシュッッ!」
(ここだっ!)
「ハァァァ!」
すべての剣戟を躱し、カウンターを叩き込む!
「ぐわぁ!?」
赤いエフェクトが散り、シミターから確かな手応えが伝わってきた。
「な、なんで当たらねえんだ!?」
ダメージを受けて怯んだエンビーさんは、それでも諦めずに馬鹿の一つ覚えみたいに突貫をしてくる。
「手伝えシノノメぇ!」
「うおぉおぉ!」
加勢に加わったシノノメさん、一対二の人数不利の状況……。
しかし、
「ど、どうして俺達の攻撃だけ当たらねえんだ!?」
「おかしいだろおぉぉ!?」
ダメージを一方的に与えるのは僕の方だった。
「はぁぁ!」
斬って、斬って、斬りまくる。
未来予測をしているかのように動く僕を、彼らは捕まえることができない。
右側から迫るバスタード・ソードを躱して、一閃。
「ぐわぁ!?」
上段からのショート・ソードを受け流して、一閃。
「だはぁ!?」
たまらず距離を置いた彼らが、僕に化け物を見るような瞳を向けてくる。
「どうして俺達の攻撃だけが当たらねえんだ!?」
シノノメさんの恐れを含んだ叫びに、答える。
「貴方達が弱すぎるからですよ」
「な、なんだと! だ、だがレべルは俺達の方が上で……」
「その意識こそが、この状況を招いている原因だ」
「……どういうことだっ」
「まだ分かりませんかっ!」
シミターを翻し、火花散る剣戟の応酬の中で、僕は喋る余裕すらあった。
「初めてフィールドで出会った時、貴方達はレベル14だと言ったのに推奨レベル8の野猿の渓谷で活動していた! 今だって、21レベルなのに猩猩盆地に留まっている!」
「だ、だからそれが何だって言うんだよ!」
「お前らは、ステータスのごり押しによる勝ち方しか知らないってことだ!」
初めて彼らの戦う様子を見た時に、すぐにピンときた。
彼らはレべルに対して、あまりにも弱すぎたのだ。
「格上のイグニスさんに凄まれたら一目散に逃げるくせに、レベルの低い相手からのPVPは嬉々として受け入れたのがその証拠だろ!」
僕は数日に渡って、冒険者を雇い彼らに挑ませた。
その中で戦ってもらえたのは、彼らよりもレベルが圧倒的に低い者たちだけだった。
「ステータス差で勝利をしたところで、そこに技術の研鑽は生まれない。学びのないただの消化試合だ!」
惰性でモンスターに勝利した経験値と、工夫と努力で勝利した経験値は、数値上では同じかもしれない質が違う。
理論を組み立て、対策を練り、創意工夫を凝らし、実践で学び得られたものは、数字には反映されない黄金の経験値。
「レベルだけが高いお前らの攻撃は一辺倒で読みやすい……」
その証拠に、データを収集した僕の足元からは
もしこれが技術力の伴うプレイヤーさんだったら、僕に勝ち目はなかったかもしれない。しかし、この二人相手ならば、僕はステータスを覆すことができると踏んだのだ。
「冒険者のくせに、冒険をしないお前らの剣は、あまりにも軽い」
シノノメさん達は、押し黙った。
歯を食いしばり、剣を握る手に力を込めて。その無様な表情は、目を背けていた事実を暴かれたのが気に食わなそうに、屈辱と憤怒で醜く歪んでいた。
「だからどうしたぁぁ、結局最後に勝てばいいんだよ!」
「ニュー・エリシオンはレベルこそが正義だっ、それを教えてやる!」
(やはり、こうくるか)
僕が危惧していたのは、彼らがプライドを捨てて、どちらかを犠牲にする自爆覚悟で襲ってきた場合だった。
レベル差によるダメージ減衰で、
ふふ、見せてやろう!
これが僕が考えたリーサルへの道筋だッ!
「うぉぉぉ、 敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」
ソードスキルを発動させようとするシノノメさんの顔面を、風魔法が打ちぬいた。
驚愕するエンビーさん。
「ま、魔法!? し、しかも紫エフェクトだとぉ!?」
間抜けな顔で固まる彼らに左手を掲げる。
「ヘビィィ・スパァァーク!」
「「ギャアア!?」」
閃光に焼かれた目を抑えてのたうちまわる二人に、剣戟の猛ラッシュを食らわす。そして、目潰しの持続時間が終わる前に距離を取るように駆け出して……
「敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」
ドーン。
「敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」
ドーン。
「ど、どうなってやがる!? な、なんでクールタイムがぁごは!?」
ドーン。
「ひぃぃ!?」
ドーン。
状況に頭がついていけていない彼らに急接近して、接近戦を挑む。
相打ち気味の攻撃を一度貰うが、剣戟で時間を稼ぎスキルのリキャストタイムがきたところで……
「ヘビィィ・スパァァーク!」
「「ギャアア!?」」
その隙に一瞬でポーションを飲みほして、剣戟を連打、連打、連打ッ!
そして、逃げる!
「敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」
ドーン。
それを十分ほど繰り返した結果……HPが底を尽きてノックダウンしたまま動けなくなったエンビーさんと、シノノメさんが地面に横たわっていた。
僕の完全勝利である。
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