第22話 PVP

「こ、このぉガキが舐めやがって!」

「PVP申請を送ったっ今すぐ受けやがれ!」


 激情に駆られて茹で上がった二人の絶叫に、僕は目論見が成功したことを確認する。頭に血がのぼれば判断力は鈍り、行動はより単調になっていくものだ。わざと挑発するようなことを言ったのも、このためである。


「言われなくても、そのつもりですよ」


 PVPが承認された。

 人生で初めての本気の殺し合い。


「モブやっちまえ!」

「絶対に勝つって信じてるからな!」


「はい……行ってきます!」


 ついに戦いは始まった。




 地を蹴りだして走り出した僕は、シノノメさんとエンビーさんを眺める。

 二人は共に剣士である。しかし、その役割は違う。シノノメさんは防御と火力を兼ね備えた剣身の長いバスタード・ソードを両手に持ち、その背後にいるエンビーさんは一撃よりも手数を優先したショート・ソードを構えている。


 火力とタンク係であるシノノメさんが圧力を出し、追撃をエンビーさんが担う形だ。これが、彼らの基本の型。


「ステータス差火力で潰れて死ねぇぇぇぇ」


 接敵した途端に、シノノメさんがバスタード・ソードを大きく振り上げた。

 レベル差を考慮すれば、まともに受ければ甚大な被害を被るのは必至。


———まあ、受けたらの話だけどね。

 

 初動の肩の動き、僅かな足の引き、武器の角度、学習した彼のパターンと照らし合わせ、導きだせられる軌道は……ここだ!


「よっ!」


 ガキンッと激しい金属を奏でて、僕はシミターで攻撃を受け流した。

 その威力にビリビリと腕が震える。


「な!?」


 筋力も速度も、あらゆる面で劣る僕に防がれると思っていなかったのだろう、シノノメさんが目を丸くする。


「ハァッ!」

「ぐっ!?」


 攻撃をスカして胴の回り切った体へ反撃を加えると、くぐもった呻き声が聞こえた。


「隙だらけですよっ」

「調子に乗んじゃねぇぇぇ!」


 振り切った腕を引き戻すように攻撃がくるが、肘と手首の角度、腰の入り方で、軌道は限定される。


(屈んで左へ一歩踏み込めば、絶対に攻撃は届かない)


 計算したルートにブンっと風切りが掠めた音をを聞き届けて、また一撃をお見舞いする。


「どりゃ!」

「がぁ!?」


「どけシノノメぇ!」


 前に出っ張るシノノメさんがリズムを崩したら、スイッチしたエンビーさんがくるのは織り込み済み。


(さて、上手くいくだろうか?)


 エンビーさんのショート・ソードが弾かれたように水平に線を引く。半歩下がってそれを回避。その間も、視線でエンビーさんの動いを捉え続ける。


(水平斬りからの、二連撃目でこの体制、90%の確率で逆方向への切り返し)


 わずかに腰を捻り、最小限の動作で剣を躱す。


「くっ!」

 

(まだ続くか、踏み込みの深さからして左下からの切り上げ……これはエンビーさんが最も得意とする攻撃パターンだ)


 彼が手癖のように初撃で放つ左、右、左下、上、右上の五連撃の三撃目。

 答え合わせをするように、左下からの切り上げがきた。


(ならば、五連撃の最後にソード・スキルがくるはずっ!)


 スキル直後は、ほんのわずかな硬直が生まれる。

 そこを狙い撃ちする。

 

「死ねぇぇ、スラッシュッッ!」


(ここだっ!)


「ハァァァ!」


 すべての剣戟を躱し、カウンターを叩き込む!


「ぐわぁ!?」


 赤いエフェクトが散り、シミターから確かな手応えが伝わってきた。


「な、なんで当たらねえんだ!?」


 ダメージを受けて怯んだエンビーさんは、それでも諦めずに馬鹿の一つ覚えみたいに突貫をしてくる。


「手伝えシノノメぇ!」

「うおぉおぉ!」


 加勢に加わったシノノメさん、一対二の人数不利の状況……。

 

 しかし、


「ど、どうして俺達の攻撃だけ当たらねえんだ!?」

「おかしいだろおぉぉ!?」


 ダメージを一方的に与えるのは僕の方だった。


「はぁぁ!」


 斬って、斬って、斬りまくる。

 未来予測をしているかのように動く僕を、彼らは捕まえることができない。


 右側から迫るバスタード・ソードを躱して、一閃。


「ぐわぁ!?」


 上段からのショート・ソードを受け流して、一閃。


「だはぁ!?」


 たまらず距離を置いた彼らが、僕に化け物を見るような瞳を向けてくる。


「どうして俺達の攻撃だけが当たらねえんだ!?」


 シノノメさんの恐れを含んだ叫びに、答える。


「貴方達が弱すぎるからですよ」

「な、なんだと! だ、だがレべルは俺達の方が上で……」

「その意識こそが、この状況を招いている原因だ」

「……どういうことだっ」

「まだ分かりませんかっ!」


 シミターを翻し、火花散る剣戟の応酬の中で、僕は喋る余裕すらあった。


「初めてフィールドで出会った時、貴方達はレベル14だと言ったのに推奨レベル8の野猿の渓谷で活動していた! 今だって、21レベルなのに猩猩盆地に留まっている!」

「だ、だからそれが何だって言うんだよ!」

「お前らは、ステータスのごり押しによる勝ち方しか知らないってことだ!」


 初めて彼らの戦う様子を見た時に、すぐにピンときた。

 彼らはレべルに対して、


「格上のイグニスさんに凄まれたら一目散に逃げるくせに、レベルの低い相手からのPVPは嬉々として受け入れたのがその証拠だろ!」


 僕は数日に渡って、冒険者を雇い彼らに挑ませた。

 その中で戦ってもらえたのは、彼らよりもレベルが圧倒的に低い者たちだけだった。


「ステータス差で勝利をしたところで、そこに技術の研鑽は生まれない。学びのないただの消化試合だ!」


 惰性でモンスターに勝利した経験値と、工夫と努力で勝利した経験値は、数値上では同じかもしれない質が違う。

 理論を組み立て、対策を練り、創意工夫を凝らし、実践で学び得られたものは、数字には反映されない黄金の経験値。


「レベルだけが高いお前らの攻撃は一辺倒で読みやすい……」

 

 その証拠に、データを収集した僕の足元からは勝利を維持する確定ルートウィニング・ラインが無数に広がっていた。

 もしこれが技術力の伴うプレイヤーさんだったら、僕に勝ち目はなかったかもしれない。しかし、この二人相手ならば、僕はステータスを覆すことができると踏んだのだ。


「冒険者のくせに、冒険をしないお前らの剣は、あまりにも軽い」


 シノノメさん達は、押し黙った。

 歯を食いしばり、剣を握る手に力を込めて。その無様な表情は、目を背けていた事実を暴かれたのが気に食わなそうに、屈辱と憤怒で醜く歪んでいた。


「だからどうしたぁぁ、結局最後に勝てばいいんだよ!」

「ニュー・エリシオンはレベルこそが正義だっ、それを教えてやる!」


(やはり、こうくるか)


 僕が危惧していたのは、彼らがプライドを捨てて、どちらかを犠牲にする自爆覚悟で襲ってきた場合だった。

 レベル差によるダメージ減衰で、秒間ダメージDPS不足の僕では、彼らを倒しきるのに時間がかかる。相打ち前提の攻撃を回避し続けるのは不可能だ。だからこそ、この状況を打破できる最後のピース、火力を求めていたのだ。


 ふふ、見せてやろう!

 これが僕が考えたリーサルへの道筋だッ!


「うぉぉぉ、 敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」

 

 ソードスキルを発動させようとするシノノメさんの顔面を、風魔法が打ちぬいた。

 驚愕するエンビーさん。


「ま、魔法!? し、しかも紫エフェクトだとぉ!?」


 間抜けな顔で固まる彼らに左手を掲げる。


「ヘビィィ・スパァァーク!」

「「ギャアア!?」」


 閃光に焼かれた目を抑えてのたうちまわる二人に、剣戟の猛ラッシュを食らわす。そして、目潰しの持続時間が終わる前に距離を取るように駆け出して……


「敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」


ドーン。


「敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」


ドーン。


「ど、どうなってやがる!? な、なんでクールタイムがぁごは!?」


ドーン。


「ひぃぃ!?」


ドーン。


状況に頭がついていけていない彼らに急接近して、接近戦を挑む。

相打ち気味の攻撃を一度貰うが、剣戟で時間を稼ぎスキルのリキャストタイムがきたところで……


「ヘビィィ・スパァァーク!」

「「ギャアア!?」」


その隙に一瞬でポーションを飲みほして、剣戟を連打、連打、連打ッ!

そして、逃げる!


「敵を打ち滅ぼすための、一陣の風を吹かせ、ブラスト!」


ドーン。


それを十分ほど繰り返した結果……HPが底を尽きてノックダウンしたまま動けなくなったエンビーさんと、シノノメさんが地面に横たわっていた。


 僕の完全勝利である。


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