第19話 さらなる可能性

 翌日、僕は金策を兼ねてモンスター討伐に励んでいた。

 そんな日常の一幕に、とある変化が起きていた。


「ふふふ、風向きが変わった、我らの栄光への追い風となるだろう!」


 レッド・コングの群れを殲滅して、テンションの上がっているカオスが、怪しげな笑みで怪しいことを呟いている。


「ははは、カオスはいつも意味の分からないことを言うね」

「むっ、デリンジャーの名言を知らないのかまったく」

「僕はアニメっていうのを見たことがないんだ」

「そっか、まあ趣味は人それぞれ、人の趣味嗜好に口出しするのは野暮だな」


 これまで、一日のほとんどの時間はソロでの攻略だった。それはカスミンさんがログインできる時間が限られていたからだ。ミーリャも部活とやらが忙しくて中々来られないと言っていた。だけど、カオスは朝から晩まで冒険に付き合ってくれている。


(カオスは学校というやつに通ってないんだろうか?)

 

 魔道書をベルトのホルダーにしまったカオスが、ぽつりとささやく。


「モブに出会えてよかったよ……変な詮索がないから落ち着くっていうか……」


 おだやかでありながら、どこか後ろ暗い感情を滲ませるような声だった。

 



 一週間後、ついに猩猩盆地を中央付近まで踏破することに成功した。


「やった、レベルが9まで上がりましたよ!」

「この調子でガンガン上げて行こう!」


 この辺は、レッド・コングよりも強いモンスターが跋扈している。

 それだけ経験値も稼ぎ安く、僕は7レベルから9レベルへアップし、カオスは19レベルまで成長した。


「カオスの魔法のおかげですよ!」

「ふっ、紅蓮の炎は世の理すらも焼き尽くす、いずれ魔術の神髄を会得するこの大魔術師カオスに任せておけば、この程度容易いさ」

「……ははっ、そうですねぇ」


 だいたい、こういうセリフがカオスから飛び出す時は、調子に乗っている時なんだよね。僕に褒められたのがよっぽど嬉しかったんだろう、すっごく分かりやすい。


「というか、規格外なのはモブの職業の方だろう」


 僕の魔法やスキルを見せた時、カオスとミーリャのリアクションは予想通りというか、腰を抜かすくらい驚いていた。やはり、この能力はプレイヤーさんからすると、破格のようだ。


 モンスターとの戦闘を終えて、空が夕暮れ色に染まる。

 そろそろキョウノグラに引き返そとした時、彼らは現れた。


「よう、モブ今日も会ったな」

「いつものキモオタ君も一緒じゃねーか、へへ」


 嘲笑を含ませた声の主は、シノノメさんとエンビーさんだった。


「そこの、いつもの中二病発言をしろよ、はは!」

「うっ」


 という言葉に、カオスが青ざめた顔で口を押えた。

 二日前ほどから、またシノノメさん達の嫌がらせが再開していた。


 僕を狙って跡をつけていたようだが、一緒にいたカオスも馬鹿にされる対象となっていた。いやむしろ、今やその主たる標的はカオスになっていた。

 カオスは悪口や悪意の感情に晒されることに人一倍敏感だった。暴言を吐かれる度に、顔色を悪くし、その反応が楽しいのかシノノメさんたちは面白がるようになった。


 僕は耐えきれず、何度も怒鳴りかえしたが、そうなると彼らを決まってこう返してきた。


『じゃあ一対一のPVPでケリをつけようぜ』


 彼らの現在の強さは20レベルである。


「モ、モブ無視していこう」

「でも……」

「俺は平気だからさ」


 カオスが僕の手をとって背を向けると、シノノメさんの意味深な声が耳に残った。


「ふふ、そうやって逃げ続けられるのも今のうちだけだぞ……モブ」




 夜、ギルドに向かう僕らは、暗い大路を歩いていた。

 

「すみません、僕の問題に巻き込んでしまって」

「いいんだ、こんなの慣れているから平気さ……それに、あいつら『反逆者イズ・デッド』だろ? 関わらない方がいいよ」

「『反逆者イズ・デッド』って、そんなに有名なんですか?」

「ああ、有名さ。悪名の方でだけどな」


 クランとは、大勢の冒険者で構成される組織。

 有名なクランはいくつあり、例えば二つ名のみのトッププレイヤーさんだけで構成される『クシナダ』はその武勇で名声を轟かせている。

 しかし、『イズ・デッド』に関しては構成員が多いという噂しか知らない。


「あいつら、ニュー・エリシオンではまだ目立ったことしてないけれど、過去に別ゲーでチートをつかって暴れていた過去があるんだ」

「別ゲーって?」

「うん? まあニュー・エリシオンみたいな、色んなゲームだよ」


 もしかしってプレイヤーさんは、リアルとニュー・エリシオンの他にも色んな世界に行き来できるの? まあ、天界リアルから降りてくる不思議な人達だし、そのくらい出来てもおかしくはないか。


「それに、『反逆者イズ・デッド』の元となった組織は指名手配されていたハッカー集団じゃないかって噂なんだ」

「それって、いけないことなんですか?」

「当たり前さ! 企業の情報を乗っ取り、漏洩されたくなければ身代金を寄こせと要求する、極悪人だよ。まぁ、モブに絡んでくる末端のあの二人が、その辺に深く関わっているとは思えないし、そもそも一人歩きした噂の可能性の方が高いけどね」


 リアルの事情は僕には理解し難いが、その噂が本当なら悪辣な手段も厭わない集団ということだ。

 

「だったら猶の事、僕はアイツらを許せません。カオスに悪口を言ったのだって、謝らせたい。どうにかして奴らを倒せるくらい強くなりたいんです!」


 僕の予想に間違いがなければ、本当にあと一歩なのだ。

 あとひとつ、何か勝てる要素が増えれば、勝利を掴みとることができる。


「強くなる方法か……うーん、前から思っていたんだが、どうしてモブは計算が得意なのに、魔法の詠唱を省略しないんだ?」

「詠唱の……省略?」

「う、嘘だろ、まさか知らないのか!?」


 そういえば、カオスが僕が魔法使いの職業についていないのを疑問に感じているようなことを言ってたな。


「はい、魔法はカスミンさんに教わって使っていたので」

「なるほど、じゃあチュートリアルで教わる基礎知識を知らないのか」


 そこで言葉を区切り、カオスはニヤリと笑った。


「だったらこの未来の大魔術師カオス様が、モブに魔法の深淵を覗かせてやろう。これをマスターすれば、モブの魔法は威力と発動速度の両方が格段に改善されるはずだぜ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る