第32話 侵入

リルはカレラ・ド・マクラン伯爵邸から離れた位置で建物内の気配を探りながら日が暮れるのを待っていた。

夜になると伯爵邸の門番から死角になる外壁に取り付き、気配を探りながら外壁を飛び越え敷地に飛び降りる。

見張りに見つからないように、慎重に建物に近づき、建物内に侵入した。

建物内に入り気配察知を全開に探っていくと、地下に十数人の気配がする。

リルは地下への階段がないか、慎重かつ速やかに移動していく。

ある扉の前に来ると、地下からと思われる空気の流れを感じる。

慎重に扉を開け、足音を立てずにゆっくりと階段を下りていくと、階段を下りた先に檻のようなものが見え、その前に見張りと思われる男が二人、しゃべっていた。

「今回の奴隷、ジャポネまで行って仕入れてきた奴らだけどさ。

 お目当ての物を仕入できなかったのに、奴ら買い取ってくれるのかよ。」


「それは上の奴らが取引で考えることじゃねえか。

 頭が悪い俺たちが考えても分かんねえよ。」


「そうだな。ガハハハッ。」


リルはその会話を聞きながら、他に見張りが居ないか確認する。

見張りが二人しかいないことを確認すると、雷魔法を見張りに向かって静かに放った。

「マイクロケラウノス。」


「「ぎがががががっが。」」

男二人は雷魔法で感電状態となり意識を失い、バタンと倒れる。

リルは警戒しながら、檻の前に近づく。

檻の前に来ると鑑定魔法を使う。

「いた。」

檻の中にリセのお父さんとお母さんを見つける。

リルは、檻の中にいるリルの両親に話しかける。

「バロさん、ロゼさん、助けに来ました。」


「君は誰だい。」


「私は、リセを保護しているリルと言います。」


「リセっ!」

「リセは無事か。」


「はい。元気にしています。」


「そっそうか。良かった。」


「皆さん、静かにしてもらえますか。」

檻の中の人が一斉に黙る。

助けが来たと思った檻の中の人が少し興奮していたからだ。

このままだと屋敷の中にいる者たちに気付かれるかもしれない。


「皆さん、助けますから、静かにしてください。」


「・・・・・・。」

物分かりが良くて良かった。


リルは見張りが身に着けている鍵を奪い取り、鍵を開けて檻の中に入る。


「私の指示に従ってください。

 皆さん手を繋いでください。」


「えっ手を繋ぐ?」

「今すぐ逃げなくていいのか?」


「この人数の人がこのまま外に出ても捕まっちゃうのが関の山ですよ。」


「そうだな。」


「だから手を繋いでください。

 手を繋がなかったら置いてっちゃいますよ。」


「「「「「「「「「「「?????」」」」」」」」」」」」


「繋ぎましたね。では行きます。〈メタスタシス。〉」

リルは近くにいるバロの手を掴んで、ウルス獣王国の王宮に座標を指定して転移魔法を使った。


リルはウルス獣王国の王宮に転移すると、大きな声で、

「誰かいませんか。宰相のエンリケ様を呼んでください。」


王宮内で衛兵が慌ててやってくる。

リル達を見つけると、

「何者だ。どうやってここに?」


リルはやってきた衛兵に、

「私はリルと申します。宰相のエンリケさんを呼んでください。」


「エンリケ様だと。無礼者!エンリケ様がお前達なんかと・・・。」

リルは話が通じないと思い、変身魔法を使い、耳と尻尾を出す。

それを見た衛兵が、

「いや、失礼しました。すぐ呼んでまいります。」

リルは、走り去った衛兵の後姿を見ながら、フーっと息を吐いたのであった。

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