第三章「天下動乱」

第一節 軍師降臨

越後の国、春日山城下。


諸葛亮は、一人、宿屋にいた。


あの白い光に飲まれてから、三ヶ月。彼は一人、この異国を旅していた。


「ここは...日本、という国か」


諸葛亮は、この三ヶ月で徹底的に情報を集めていた。


この国の歴史。勢力図。主要な武将たち。戦の様式。すべてを頭に叩き込んだ。


「群雄割拠の世...まるで、春秋戦国時代の中原のようだ」


羽扇を静かに揺らす。


「織田信長。武田信玄。上杉謙信。北条氏康。毛利元就...」


「優れた武将たちだ。だが...」


諸葛亮の目が鋭くなる。


「主公は、どこにおられる...」


劉備。自分が仕える主君。あの光に飲まれて以来、会えていない。


「関羽殿、張飛殿、趙雲殿...皆、ご無事だろうか」


諸葛亮が立ち上がった。


「情報は十分に集めた。次は、主公を探さねば」


---


その時、宿屋の下で騒ぎが起きた。


「なんだ!?」


諸葛亮が窓から覗くと、武者たちが集まっている。


「聞いたか!近江に、異国の武者がいるそうだ!」


「劉備、という名らしい」


「仁徳の人だそうだ」


諸葛亮の目が見開かれた。


「劉備...!主公...!」


諸葛亮が宿屋を飛び出す。


「おい、その劉備という方は、どこに!?」


「近江の小谷城だそうだ」


「近江...!」


諸葛亮が走り出した。


「主公...ついに見つけた...!」


---


数日後、諸葛亮は近江に到着した。


だが、小谷城に向かう途中、街で奇妙な光景を目にした。


村人たちが、劉備の噂をしている。


「劉備様は、本当に素晴らしい方だ」


「野盗から村を守ってくださった」


「あの方がいれば、安心だ」


諸葛亮が微笑む。


「やはり、主公は主公のままだった」


---


小谷城。


諸葛亮が門の前に立った。


「私は諸葛亮。劉備様にお会いしたい」


門番が驚く。


「諸葛...亮...?もしや、劉備様が探しておられた!」


「主公が...!」


「お待ちください!すぐにお呼びします!」


---


城内。


劉備は、報告を聞いて立ち上がった。


「何!?孔明が!?」


「はい!門の前に!」


劉備が走り出す。関羽、張飛、趙雲も後を追う。


「兄者!」


「主公!」


だが、劉備は止まらなかった。


城門に辿り着くと、そこに――


白い衣を纏い、羽扇を持った男が立っていた。


「孔明...!」


「主公...!」


二人が駆け寄る。


劉備が諸葛亮の手を取った。


「孔明...無事だったか...!」


「はい...主公こそ、ご無事で...!」


諸葛亮の目に、涙が浮かぶ。


「探しました...ずっと探していました...」


「私もだ...ずっと、お前を...」


二人が抱き合う。


関羽、張飛、趙雲も駆け寄ってきた。


「孔明殿!」


「孔明!」


「諸葛亮殿!」


「関羽殿...張飛殿...趙雲殿...!」


五人が、再び一つになった。


---


その夜、劉備の部屋。


五人が集まり、これまでのことを話し合った。


「孔明。お前は、この三ヶ月、どこで何を?」


「越後におりました。そして、この国の情勢を調べていました」


諸葛亮が地図を広げる。


「主公。この国は、今、群雄割拠の世です」


「ああ。それは私も理解している」


「ですが、それだけではありません」


諸葛亮の目が鋭くなる。


「曹操殿、孫権殿、そして呂布...彼らも、この国にいます」


「!」


劉備が驚く。


「曹操と孫権も...!」


「はい。曹操殿は関東で北条と組み、孫権殿は瀬戸内で毛利と組んでいます」


「そうだったのか...」


「そして、呂布は単独で暴れ回っています」


諸葛亮が地図を指差す。


「主公。この国で、再び三国の争いが始まろうとしています」


「...」


劉備が黙り込む。


「だが、今度は違います」


諸葛亮が続ける。


「この国には、優れた武将たちがいます。織田信長、武田信玄、上杉謙信...彼らも、天下を狙っています」


「つまり...」


「はい。三国の争いと、この国の戦国時代が、融合しようとしているのです」


諸葛亮が立ち上がった。


「主公。今、行動を起こさねば、曹操殿か、あるいはこの国の武将に天下を取られます」


「孔明...」


「主公の仁徳で、この国を統一しましょう。それが、民を救う唯一の道です」


劉備が深く頷いた。


「わかった。孔明、お前の策に従おう」


「ありがとうございます」


諸葛亮が羽扇を広げる。


「では、まず...」


---


翌日、劉備軍の軍議。


諸葛亮が中心となり、今後の戦略を説明していた。


「まず、我々は浅井殿、織田殿との同盟を強固にします」


「次に、近隣の小勢力を味方に引き入れます。主公の仁徳を用いて」


「そして、曹操殿の動きを封じます」


「曹操を?」


浅井長政が問う。


「はい。曹操殿は策士です。放っておけば、必ず我々を陥れます」


諸葛亮の目が光る。


「ですが、曹操殿の策には、必ず弱点がある。それを突きます」


「さすがは孔明殿...」


長政が感心する。


「それから...」


諸葛亮が地図の別の場所を指差す。


「武田信玄殿を、味方に引き入れます」


「武田を!?」


張飛が驚く。


「はい。武田殿は、曹操殿と敵対しています。ならば、我々と組む価値があるはずです」


「なるほど...」


関羽が頷く。


「孔明殿の策、見事ですな」


「恐れ入ります」


諸葛亮が劉備を見る。


「主公。これより、天下統一への道が始まります」


劉備が立ち上がった。


「みんな、聞いてくれ」


全員が劉備を見る。


「私は、天下を取りたいわけではない。ただ、民が平和に暮らせる世を作りたい」


「そのために、孔明の策に従う。そして、この国を統一する」


劉備が拳を握る。


「共に、戦おう!」


「おおーっ!」


全員が声を上げた。


---


その頃、関東では。


曹操が、報告を受けていた。


「諸葛亮が...劉備の元に?」


「はい。近江で合流したようです」


「...フッ」


曹操が笑った。


「ついに来たか、孔明」


「丞相?」


「劉備に孔明がつけば、厄介になる」


曹操が立ち上がる。


「だが、それで面白くなる。策士同士の勝負だ」


窓の外を見つめる。


「孔明...お前の策、見せてもらおう」


---


瀬戸内海でも。


周瑜が、報告を聞いていた。


「諸葛亮殿が...」


「公瑾、知り合いか?」


孫権が問う。


「はい。赤壁で共に戦いました。見事な軍師です」


周瑜が微笑む。


「これで、劉備様の軍は強くなります」


「ならば、我々も負けてはいられんな」


孫権が立ち上がる。


「公瑾、我々も動くぞ」


「御意!」


---


尾張、清洲城。


織田信長が、報告を聞いていた。


「劉備に、軍師が加わった?」


「はい。諸葛亮、という名だそうです」


「諸葛亮...」


信長の目が輝く。


「面白い。劉備が、さらに強くなるか」


「殿、劉備を警戒すべきでは?」


「いや」


信長が笑う。


「劉備は敵ではない。むしろ...」


窓の外を見つめる。


「共に戦う仲間だ」


---


美濃の森。


呂布が、劉備の噂を聞いていた。


「劉備に、軍師が...」


「劉備...」


その名に、呂布は苛立ちを覚える。

しかし、同時にどこかあの男を認めている自分にもまた苛立ちを覚えた。


「俺は...あの男を、、、」


赤兎馬が嘶く。


「...いずれ、会ってみるか」


---


諸葛亮が劉備軍に加わったことで、戦局が大きく動き始めた。


知略の諸葛亮。


仁徳の劉備。


武勇の関羽、張飛、趙雲。


最強の軍師と、最高の主君が再び一つになった。


そして、この結束が――


戦国の世を、大きく揺るがすことになる。

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