第24話
なんか最近、昼休みに星川がうちのクラスにやってくることが多くなった気がする。
榛原のやつのせいで一度星川率いる女子のグループと昼食を食べることになったあの日から、星川は2日に一回から3日に一回ぐらいのペースでうちのクラスにくるようになった。
そしてきた時は大体、俺のグループで食べる。
もちろん俺から誘っているわけではない。
星川に声をかけるのは大抵灰原で、なぜか星川も榛原の誘いにやけに乗ってくるのだ。
てっきりデリカシーのない灰原は、星川に嫌われているとばかり思ったのだが、案外馬が合うのだろうか。
「おいおい、これはいよいよ、俺の名前が週刊誌に載る日も近いかもしれないぞ。親友」
「俺が芸能界に入ることになっても、お前とは友達でいるからな?」
「最初は星川の彼氏として取り上げられるんだ。だが、徐々に番組なんかに呼ばれる中で、俺のギャグセンスがテレビ視聴者たちに見つかってしまい、俺は面白くて顔もいい高校生タレントとして徐々に人気が高まっていって…」
そんなことが続くものだから、灰原は日に日に調子に乗っている。
どうやらこいつの中ではもはや、星川と自分が恋仲になるのは既定路線らしい。
こいつは蒼井ちゃんが店員をやっているコンビニに通っているとかいっていたが、蒼井ちゃんのことは忘れたのだろうか。
気が多いというか、軽いというか、なんというか。
もはや手がつけられないほどに思い込みを深めていく親友に、俺はかけてやる言葉がなかった。
「あ、星川さん!!こっちこっち!!」
昼休み。
昨日に引き続き、今日も星川が昼休みに俺たちの教室にやってきた。
目敏く見つけた灰原が、待ってましたとばかりに星川の方へ駆け寄っていく。
「席確保しておいたよ!!」
「ありがとう、灰原くん!!」
当たり前のように星川一行が、俺たちのところへやってくる。
灰原はすでにいくつかの机を確保してくっつけており、星川たちの席を用意していた。
最近、うちのクラスは星川がよく昼食を食べにくるということで、たくさんの生徒が集まるようになった。
学年問わず、星川のファンっぽい男たちが、教室で昼食を食べている。
なので最近では昼食時間になると、ほとんどの席が埋まってしまうのだ。
よって星川たちが座ることのできる席が、灰原が確保している俺たちのグループの席しかないということになり、結果的に星川たちは俺たちのグループに来るしかないことになる。
「ここ座るね」
「お、おう」
いつものように俺の隣に座る星川。
向かい側には当然のように灰原が陣取る。
残りの席に、星川一行の女子たちが座り昼食が始まった。
「…なんで、このクラスにくるの?」
ちなみに星川がうちのクラスで昼食を食べるようになってから、七瀬はずっと不機嫌だ。
表面上はなんとか笑顔を保っているが、時折星川を睨んだりしている。
七瀬としては、昼食は俺と二人で食べたいわけであり、星川一行および灰原の存在は邪魔でしかないのだろう。
俺個人としては、別にどちらでもいい。
七瀬と二人きりだろうが、他の連中がいようが、大して変わらないと思っていた。
「わー、今日も七瀬さんのお弁当、すごく豪華だねー」
「…」
「七瀬さん。いつも朝起きて作ってるのー?」
「…うん」
「そうなんだ!大変じゃない?」
「…別に。黒瀬くんのためだから」
「そっかぁ。黒瀬くん、愛されてるね。このこの〜」
星川が俺を小突いてくる。
「ははは。そうだな〜」
七瀬の表情がどんどん曇っていくのを見て、俺は誤魔化し笑いを浮かべる。
「…星川さん。一つ聞いてもいい?」
「ん?なになに?」
七瀬が座った目で星川を見ながらいった。
「星川さんと黒瀬くんって……仲がいいよね。どうして…?」
「え…?」
「…っ」
突然の質問に俺らは顔を見合わせる。
「この間ライブのチケットをもらった時……黒瀬くん言ってた。星川さんを手伝ったお礼って……何を手伝ったの…?」
「えっと、それは…」
七瀬が何かを見極めようとするようにじーっと俺らを見つめてくる。
まずい。
そういえばそんなことも言ったな。
あの時は具体的はことは言わないではぐらかしたが、七瀬はちゃんと覚えていたらしい。
星川がライブのチケットをくれたのは、俺が星川をストーカーから助けたからなのだが、もちろんそのことを明かすわけにはいかない。
何か上手く切り抜ける方法を模索するが、何も思い浮かばず、俺は助けを求めるように星川を見た。
星川が全く表情を崩さずにいった。
「あー、そのことなら…!えっとね、私が先生に頼まれて化学準備室に教材を運んだ時にね、黒瀬くんが手伝ってくれたの。一人じゃ運べないぐらい重くて…」
「あー、そうそう。そうだったな!そんなこともあったな…!」
星川の素晴らしいアシストに俺は乗っかる。
だが七瀬の疑うような表情はまだ晴れなかった。
「それ、だけ…?」
「うん、それだけだよ」
「…っ」
七瀬がじっと星川のことを見る。
星川は笑顔を崩さない。
「…そう、なんだ」
七瀬が安心したように表情を緩めた。
どうやら上手く切り抜けることができたらしい。
俺が星川の方を見ると、星川が俺にウインクしてきた。
俺は星川を見て頷いた。
「それより、七瀬さんさ…!今度お弁当の作り方、教えてよ!私も七瀬さんみたいに豪華な手作り弁当が作れるようになりたいな!」
「え…わ、私は別に…人に教えるほど上手くは…」
「ううん!七瀬さんの料理本当にすごいよ!ぜひ教えて欲しいな!!時間がある時でいいから」
「…うん、それじゃあ。今度、ね…」
星川がうまく話題を変えて、一瞬気まずくなりかけた空気が元に戻る。
俺は普通に会話する七瀬と星川に、ほっと胸を撫で下ろすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます