第20話
「白石!お前のことが好きだ!付き合ってくれ!!」
「…えっと、ごめん。無理かな」
皆の見ている前で、白石はあっさりと北村の告白を振った。
北村が一瞬呆然とする。
気まずい沈黙が教室内に流れた。
「り、理由を聞いていいか…?」
やがて、北村がおずおずとそんな言葉を捻り出した。
「うーん…今はあんまり付き合うとかは考えられないかな…」
「そ、そうか…」
北村がガックリと肩を落とす。
振られた北村が教室を出ていき、だんだんと教室に元の喧騒が戻ってきた。
「お疲れー、澪」
「澪、お疲れ様」
「告白、断るのも疲れるよね〜」
北村をあっさりと振った白石は、自分のグループへ戻っていく。
取り巻きの女子たちが、白石のことを労う。
「それにしてもすごいね、澪。告白、今年に入って何回目だっけ?」
「さあ、覚えてない」
「確か9回目とかじゃなかった?」
「まじ!?すご!!もうすぐ2桁じゃん!!」
「というか澪、今更だけど断って良かったのー?」
「うん。なんで?」
「一年の頃、結構いい感じじゃなかった?あんたと北村」
「別に。向こうから話しかけてきてただけ」
「あ、そうなんだー」
「北村も澪のお眼鏡には敵わなかったかー」
「私なら北村くんに告白されたら付き合っちゃうなー」
「わかるー。北村くん、背高くて顔かっこいいもんね」
「澪はやっぱりお目が高いなー。芸能人レベルの容姿じゃないと、澪は嫌なんだ」
「ちょっと。そこまで面食いじゃないから」
たった今行われた告白の話で、白石と取り巻きの女子たちはキャイキャイ盛り上がっている。
クラスの中心人物が揃っている彼らのグルー
プの声は、いつも教室中に響き渡るほど大きい。
「面食いじゃないなら北村のどこが嫌だったの?」
「…別に。嫌とかじゃないけど」
「じゃあ付き合っちゃえば良かったのに」
「…」
「違うよ。澪ちゃんは今、他に好きな人がいるんだよ」
「えっ、そうなの?」
「…」
「きゃああっ、とうとう澪にも春が!?」
「えー、誰々!?マジで気になる!!」
「教えてよ澪ちゃん!!」
「私たち応援するよ!!!」
「…あんたたちに応援してもらわなくてもいい」
「あー、そういうのないじゃん!!」
「教えてよ!!」
「私たちだっていつも澪ちゃんに包み隠さず話してるじゃん!!」
「…あんたたちが勝手に話すだけでしょうが」
その後、白石のグループは、教室を見渡して、男子たちを順番に指さし始めた。
その度に、知らないふりを決め込んでいた男子たちが、あからさまにそわそわし出す。
みんな、よそ見をしているふりをして、白石たちの会話に耳を傾けているのだ。
「北村でもダメだったかぁ…ワンチャンあると思ったんだが…」
告白の一部始終を見ていた灰原がそんな感想を漏らした。
「一年の頃、あいつら相当中良かったふうに見えたんだがなぁ…白石が北村の試合なんかを見にいったって話も聞いてたんだが…」
「…公開告白なんてよくやるよなぁ」
「相当自信があったんだろ。俺も北村ならもしかしたら白石の牙城を崩せるかと思ったんだが…」
「そういやお前、一年の頃、白石と同じクラスなんだっけ?」
「そうだぜ。今回の告白が、一年の頃から数えて通算22回目だな。今年に入ってからはすで
に9回告白されてる」
「なんで知ってんだよ」
「俺は情報屋だからな。誰と誰が付き合ったとか、告白されたとか、そういうのは大体把握してるつもりだ」
「…何者なんだよお前」
クラスに一人はいるよな。
学年で起こる恋愛事情に精通してて、大体の情報を握ってるやつ。
このクラスでは灰原がまさにそうで、各クラスにいる可愛いと言われている生徒の告白した、告白されたなどの事情は大抵把握しているようだ。
そんな灰原と友達をやっている俺も、無駄に他人の恋愛事情に詳しくなってしまったりしている。
こいつの隣にいると、誰と誰がいい感じとか、誰と誰が密かに付き合ってるとか、そういう情報が嫌でも耳に入ってくるからな。
「ん?こっち見てないか…?」
灰原に言われて俺は顔を上げる。
白石のグループの女子たちがこちらを見ていた。
白石の周りにいる女子たちが、こちらを指さし、そして白石の顔を見た。
白石がちらっとこちらに視線を送ったあと、そっぽを向いた。
きゃああと女子たちから悲鳴が上がる。
「え、俺か…?まさか俺なのか…!?」
途端に灰原が興奮しだす。
「い、今俺を指さしてたよな!?おいこれきたか…!?俺にもついに春が…!?」
「…」
「そういや一年の頃、何度かあいつと話したもんな…放課後白石が日直で俺が忘れ物を取りにいった時とか……まあ実はあれは口実作りのためにわざと忘れ物したんだけど…それで黒板の掃除を手伝ってポイント稼ぎとかして……まさかあれなのか!?あれで白石が俺に落ちたのか!?」
「…」
なんかキモいことを言い始めた灰原を放っておいて、俺は七瀬を見た。
七瀬はさっきから俺の隣に立ってずっと黙っていた。
「七瀬…?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
七瀬の視線の先をおうと、そこには白石がいた。
心なしか、少し怒ったような表情で白石のことを見ていた気がする。
俺が声をかけると、慌てて我に帰って笑顔を作った。
「そろそろ席に戻るね、黒瀬くん」
「お、おう」
自分の席へ戻っていく七瀬の背中を見ながら、俺は首を傾げた。
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