第2話
仮に先ほどのまとめ記事に書かれていたことが本当だとしよう。
スレ主は死神に憑かれた人間は遠からず死ぬといっていた。
だとしたら、俺はもうすぐ死ぬということになる。
死因はなんだ?
自殺…はあり得ない。
現時点で死ぬ気はない。
病気で死ぬことも考えられない。
俺の体は至って健康だ。
だとしたら事故死?
俺は再度、死神をじっとみる。
死神は相変わらず俺から離れず、一定の距離を保ってついてくる。
その時が来たら、俺はこいつに連れて行かれてしまうのだろうか。
「冗談じゃない…死ぬなんてごめんだ」
仮に俺がなんらかの事故で死ぬとしよう。
どんな事故が考えられる?
俺はあたりを見渡した。
すぐ横の車道を車が走り抜けていく。
仮に車が運転を誤り、歩道に乗り上げてきたら?
俺は車に押し潰されて死んでしまうかもしれない。
通常だと考えられないことだが、可能性はゼロじゃない。
他にも、事故の可能性はさまざまなところに潜んでいる。
電柱が倒れてきたら?
建物が突然崩れたら?
地面が崩落して下水の中に落ちて死ぬ、なんてこともあり得るかもしれない。
「…っ」
さまざまな可能性が頭の中に思い浮かび、俺は歩くことさえも躊躇してしまう。
突っ込んでくる車はないか。
倒れそうな建物はないか。
俺は警戒しながら通学路を進んでいく。
死神は、そんな俺の後ろをピッタリくっついて歩いていた。
「…っ」
最も緊張したのは信号を渡る時だった。
事故が起こる可能性があるとしたら、1番あり得るのが自動車事故だと思った。
居眠り運転のトラックが、青信号に突っ込んでこないとも限らない。
俺は周囲を確認し、最新の注意を払いながら走って信号を渡り切った。
何も起こらなかった。
信号を無視して突っ込んでくる車は一台もいなかった。
死神はまだ俺についてきている。
死因は自動車事故ではないのか。
いつ事故に遭うかわからないという状態がずっと続くのは、思ったよりもしんどかった。
「どうぞ。こっちの道を通ってください」
「…?」
そんな声と共に、歩道から道路へと誘導されそうになった。
見れば、いつもの通学路の途中にある道路に穴が空いており、作業服を着た男達が何やら工事をしているのが見えた。
「現在こちらは工事中なので、こちらを通るようお願いします」
「えっと…」
道は工事中の場所を避けるようにして、道路上に敷かれていた。
向こうで作業員さんが、俺が通るために反対側からくる車を止めているのが見える。
「どうぞ。進んでください」
「…っ」
嫌な予感がした。
俺は背後を振り返る。
死神は相変わらず虚な瞳で俺のことをじっと見ている。
「すみません」
「えっ?」
俺は頭を下げて回れ右をした。
そのままその場から離れ、わざわざ大回りをして向かい側にある道を通った。
俺を誘導しようとした作業員さんが、反対側の歩道を歩く俺を首を不可解な表情で眺めている。
俺はそのまま工事が行われている場所を大きく避けるようにして通り過ぎようとした。
「危ないぞ!!!」
誰かが叫んだ。
ぐらりと地面が揺れて、思わずよろける。
何かが崩れるような崩落音と、凄まじい衝撃音があたりを蹂躙する。
俺はバランスを保っていられず、その場で転んでしまう。
「大丈夫か!?」
「誰か落ちたぞ!!」
「救急車!!救急車を呼べ!!」
「大変だ!!」
作業員達の切羽詰まった声が聞こえる。
恐る恐る顔を上げると、道路が崩落していた。
片側車線が丸ごと崩落しており、重機が何台も落下していた。
誰かが穴に落ちてしまったのか、作業員達が慌ただしく動いている。
通り過ぎようとした車が穴の前で止まり、たくさんの人が様子を見るために降りてくる。
「嘘だろ!?」
「まじかよ…!!」
「巨大な穴が空いてるぞ!」
「おいおいおい、大事故じゃないか!!」
「人が落ちたらしいぞ!!」
徐々に周囲が慌ただしくなってくる。
野次馬があちこちから集まってきて、穴の中を覗き込んでいる。
中にはスマホで事故現場を撮影するものもいた。
俺はしばらくその場から立ち上がることが出来なかった。
もし引き返さずにあそこを通ろうとしていたら?
俺は穴の中へ落ちて重機に押し潰されて死んでいたのではないだろうか。
「…っ」
ごくりと唾を飲む。
背後を振り返ると、死神が俺に背を向けてゆっくりと立ち去っていくのが見えた。
その背中は、どこか残念そうに見えた。
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