第1章 第5話 冒険者ギルドへの再挑戦
森を抜けた先に、灰色の石造りの街並みが見えた。
風がそっと頬をなで、俺は足を止めた。
「……帰ってきたな」
追放されたあの日以来の街。
胸の奥にへばりついた苦い記憶が疼く。
でも隣――いや、肩の上には、小さな精霊ミルがいる。
「うわ、ホコリくさい。人間の匂いだわ」
「お前なぁ……懐かしいとか、ないのか?」
「ない。あたしは森派よ。空気が濃い方が落ち着く」
思わず吹き出してしまった。
街に戻る不安も、少し薄れる。
俺は、街門をくぐった。
人の声、商人の駆け引き、馬車の音――
これが世界の息吹だ。
再び歩き出す理由。
冒険者ギルドへの再挑戦。
◆
冒険者ギルド《翠の盾》。
中は昼間から賑やかで、酒の匂いと人の熱気が満ちている。
冒険者たちが依頼書の前で喧騒を上げ、笑い、騒ぎ合っている。
「初めての登録ですか? お名前と職業をどうぞ」
受付嬢――エルナ。柔らかい声。
俺は深呼吸して、答えた。
「レオン=アークライト。……職業は精霊使いです」
その瞬間、彼女が一瞬目を瞬かせた。
「精霊使い……? 珍しいですね」
――背後から、クスクスと嘲笑。
「精霊使いだってよ」
「ガキの空想職じゃねぇか」
「掃除屋か? 無能職がよ」
胸が、小さく刺されたみたいに痛む。
ミルが肩から飛び上がりそうな勢いで睨んだ。
「ねえ吹き飛ばす? あの口悪いの」
「やめろ、登録前に問題起こしたくない」
「でもムカつく!」
風が巻き上がり、書類が舞い上がる。
紙吹雪みたいに依頼書がひらひら。
「ふふっ。元気があるのはいいことですけど、中では風は控えてくださいね」
「す、すみません!」
ミルはそっぽを向きながら宙をぷかぷか漂う。
「……練習よ。風の呼吸の」
「どんな言い訳だよ」
エルナが手続きを終え、カードを差し出す。
「登録完了です。レオン=アークライトさん――Cランクとなります」
「ありがとうございます」
その直後。
「はっ、無能が帰ってきたってよ」
「ギルドも落ちたな」
……まただ。
追放の時のあの声が、脳裏によみがえる。
けれど――
「……怒ってる?」
「いや。証明すればいいだけだ」
俺の言葉を聞いて、ミルが小さく笑う。
「ふん。いい顔するじゃない」
◆
依頼掲示板には色んな依頼が並んでいる。
魔獣討伐、護衛、遺跡探索――危険度は高いものが多い。
「うーん……どれも難しそうだな」
その時、一枚の地味な依頼が目に入った。
《薬草採取:森の南端/報酬1000リル/難易度E》
「これならいけそうだ」
「薬草? 地味すぎるでしょ。モンスター退治がいい!」
「初仕事だし、堅実が一番だ」
「堅実とか似合わないんだけど」
軽口を交わしながら、依頼書を受付へ。
「簡単な依頼ですよ。お気を付けて」
「はい!」
ただ、その裏で職員同士の声。
「(最近あの森、魔樹が出るって噂……)」
「(まあEランクだし、大丈夫でしょ)」
俺の耳には届かない。
◆
夕暮れの街を歩きながら、ミルがため息。
「アンタの初依頼、地味すぎ」
「いいんだよ。最初は慎重に」
「ふーん、つまんな」
「お前な……」
肩の上の精霊と、くだらない言い合い。
それでも胸のざわつきはなく、背筋は――前を向いていた。
宿で地図を広げる。
「森の南端。明日は朝一で行くぞ」
「寝坊したら置いてく」
「寝るのはお前なのに」
ミルがあくびしながら俺の肩で丸くなる。
静かな夜。
だが、風はざわりと警告を送っていた。
――明日。
俺たちの初仕事は、薬草採取事件と呼ばれることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます