第43話「実はかわいい(?)」
「…………」
「ほ、本当に違いますよ……!? 英斗君が風麗や雛に気を取られている間に、脱衣所からコッソリ抜き取って別の服を代わりに洗濯ものとして出したりなんて、してませんから……!」
俺が疑うように見つめると、
随分と具体的なことを言っているんだが、語るに落ちるというのはこういうことを言うんじゃないだろうか?
「そもそも、俺の服を着ているのがおかしいんだが……?」
「そ、それは、その……そうです……! お風呂から出ると、私が着る服がなかったので、仕方がなかったのです……!」
自白に近い部分はあえてスルーしたが、俺の問い詰めに対して翠玉は視線を
なんでこの嘘が通ると思ったんだ、と言いたくなるくらいのポンコツな返しだが、もう一周回っておかしくなってくる。
というか、それはつまり服を脱衣所で調達しているわけで、脱衣所にある俺の学校のシャツなんて、俺が昨日学校で着ていたやつしかないんだが……?
こいつほんと、もう、なんていうか……うん、やっぱりお仕置きが必要だな……。
――そして、ふと思った。
冷たくされるのを喜ぶなら、逆に甘やかしてみるとどうなのだろう?
と。
「…………」
「――っ!? ど、どうして急に頭を撫でてこられたんですか!?」
雛や風麗にするように頭を撫でてみると、翠玉が一瞬にして全身を固くしたのがわかった。
緊張しているのもあるだろうが、それ以上に俺を警戒しているように見える。
ふむ……やっぱり、甘やかされるのは嫌うというか、苦手なのか?
放置するよりも、こっちのほうが罰になるのかもしれない。
そう思いながら、俺はゆっくりと口を開く。
「いや、なんとなく撫でてみただけだ」
「そ、そうですか……えへへ……」
「――っ」
罰になるなら、これでいいか。
そんな雑な考えでお仕置きをしていた俺を、翠玉のかわいらしい緩みきった笑顔が襲ってきた。
完全に不意を突かれた俺は思わずドキッとしてしまい――不覚にも、翠玉のことをかわいいと思ってしまった。
性格はともかく、顔はあの真莉愛さんの血を引いているだけあって、抜群にいい。
なんなら、学校では神格化されるほどだ。
それほどの美貌を誇る人間の無邪気な笑顔を、俺は舐めていたのかもしれない。
まぁ、今までのギャップというのもあるんだろうが……。
「英斗君……?」
固まる俺の顔を、翠玉が心配そうに上目遣いで覗き込んでくる。
無意識でやっているのだろうけど、中々にあざとい奴だ。
本当に、あの女王様はいったいどこに消えたのやら……。
「なんでもない。それよりも、二日連続で眠れてないんだろ? 体調は大丈夫なのか?」
若干居心地が悪くなった俺は、空気を換える意味も込めて話題を変えた。
服に関しての追及はまた今度でいいだろう。
どうせこの調子だと、またするだろうし。
「あっ……そうですね、さすがにしんどいので本日は学校をおやすみしようかと。おそらく、風麗も氷も行かないでしょうし」
なんて気軽に学校を休む奴なんだ。
と思うが、原因の
てか、風麗も白雪さんも、俺のせいではあるので……うん、ほんとなんとも言い難いな……。
いや、白雪さんに関しては、風麗のせいな気もするが……。
「真莉愛さんに怒られないのか?」
「問題はないでしょう、今までも風麗がどうしても学校に行きたがらない時はお休みしていましたが、特に何かを言われたことはないので」
まぁあの人の場合、そこまで学校に関心はなさそうだもんな……。
二人とも成績はトップとその次だし、文句もなかったのだろう。
俺が休もうものなら、笑顔で家に押しかけてきそうな気もするが……。
「あっ、英斗君もお休みされますか……? その……風麗と三人で、お昼寝というのも……」
何を思ったのか、急に股をモジモジとすり合わせながら、期待したように上目遣いで俺の顔を見つめてくる翠玉。
何を期待しているかは明白なのだが、やはりこいつはドMだろう。
俺と風麗、二人がかりをご所望らしい。
とりあえず、俺は翠玉の頭から手を放すことにした。
それによって翠玉は残念そうにシュンとするが、俺は気にせず――そして、翠玉の先程の言葉は聞かなかったこととし、話を進める。
「お付きたちの件はどうするんだ? もう翠玉たちの家に呼んでいるが……」
「無視……またそれも……」
俺がスルーすると、ブルッと嬉しそうに体を震わせる翠玉。
もうこの子は駄目だ……と思わずにはいられないくらいに、行くところまで行ってしまっている。
こんなふうにした奴は責任を取らないといけないのでは?
と思ってしまうレベルではあるのだが、そうなると俺が取らないといけなくなるので、風麗のせいにしておこう。
白雪さんにしていたことや、風麗の言動を踏まえるに、元凶はあいつだろうし……。
「あの子たちなら、一度声をかけられた以上は私たちがいなくてもお屋敷に来るでしょう。英斗君は学校から帰ってお家で着替えるでしょうし、その際に私たちも同行して屋敷に向かいます」
俺に無視されたことで切り替えたらしく、翠玉は意外とすんなりと答えてくれた。
思考もクリアなようで、ポンコツになっている部分があるとはいえ、全部ではないようだ。
あのお付きたちのお仕置きは白雪さんに任せるつもりだし、これなら俺も文句はない。
雛の誤解を解くには、二人きりにしてもらえたほうが都合がいいしな。
――と、思考を巡らせていたところで、ドアが開く小さな音が耳に入ってきた。
顔は向けず視線だけを向けてみると、雛の部屋のドアがほんのりと開いている。
俺たちに気付かれないようにしながら、こちらの様子を窺っているようだ。
なんだかんだ言って、俺たちの様子が気になっているのだろう。
声をかけると閉じこもってしまうが、放っておけば
ただ、廊下で話し込んでいると警戒されるだろうから、リビングに向かうか――と思い、足を動かそうとした時だった。
別の部屋のドアの、開く音が聞こえたのは。
嫌な予感がした俺は、自分の部屋のドアに視線を向けると――
「よ、よくも、やってくれましたね……?」
――おそらく、引き出しから引っ張り出したであろう俺の学校のシャツに身を包む白雪さんが、足をガクガクと震わせながら、顔を真っ赤にして俺を睨んでくるのだった。
……なんでみんな、俺のシャツを着るんだよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます