第41話「二人がかり」

『氷が……準備、万端だから……?』


 バトンタッチしたことで少し落ち着いたのか、風麗ふれいの口調がいつものようなものにも戻る。


 そんな彼女に対し、白雪さんは――

『ち、ちがっ……やぁあああああ! う、うごかさないで……!! そ、そんな、こすらないでくださいぃいいいいい!』

 ――否定しようとして、俺に邪魔されたようだ。


 画面は相変わらず天井を映しているので彼女がどうなっているかは見えないが、言葉からなんとなく察してしまう。

 もう、態度だけクールで大人っぽい少女は、与えられる刺激により、完全に別人と化していた。


『氷、かわいい……』

『えっ!? えっ!? にゃんで、むねにてをのばして――やぁあああああ! く、くりくりしないでくださいぃいいいいい!』


 その上、どうやら風麗まで参戦してしまったらしい。

 この子、かわいいものがほんと好きなんだなぁ……という感想よりも、ある疑問が浮かんだ。


 そんな俺の疑問をよそに、動画は進んでいき――。


『じゃあ、こっち……? かりかり……』

『ひぃっ!? つ、つめでにゃんて……!? ふ、ふれいさまも、えいとさまも、おたわむれはよしてくださいぃいいいいい!』


 更に、風麗は追い打ちをかけたようだ。

 というか、薬を使われているわけでもないのに、白雪さんは随分と余裕がないな……。


『英斗は寝てるから……言っても、意味ないよ……?』

『しゃきほどの、いしゅがえしでしゅか……!? も、もう、やめてくだしゃい……! こんにゃ、うえとした、どうじににゃんて、むりでしゅ……!』


 白雪さんはよほどこういうのに弱いのか、口調というか、活舌が段々とおかしくなっていく。

 そんな彼女をなぶっている風麗は、楽しそうに笑い声を漏らしていた。


『ふふ……大丈夫……私は、するのは慣れてるから……』

『にゃにがだいじょうぶなんでしゅかぁあああああ! えめらしゃまと、いっしょにしにゃいでくだしゃいぃいいいいい!』


 やはり、俺が抱いた疑問は正しかったらしい。

 どうやら風麗は、普段甘えん坊のくせに、こういう時にはSになるようだ。

 むしろ、頭に『ド』が付きそうである。


 なんなら、風麗と白雪さんのやりとりを聞いていて、風麗に責められて泣き叫ぶ、翠玉の姿を想像してしまった。

 この様子を見るに、道具があれば風麗は容赦なく使って、翠玉を追い込むだろうし。


 あのドMの根本を作ったのって、間違いなく俺じゃなく、風麗じゃないか……?

 俺はただ、それを表面に引っ張り出してしまっただけで……。


 とすら、思ってしまった。


 なんだか鳴き叫ぶ白雪さんの声を聞いていると、いたたまれなくなってしまい、俺は動画をスキップしていく。


 すると――

『――っ!? にゃ、にゃんで、わたしをあおむけに……!? ひゃぁああああ!?』

 ――突然、白雪さんの嬌声という名の悲鳴が一段階大きくなった。


 どうやら、俺もしくは風麗が彼女の体を仰向けにした後、何かしたようだ。


『み、みみ、にゃめたらだめぇえええええ! こ、こんにゃの、ほんとうにむりぃいいいいい!!』

『へぇ……氷、お姉ちゃんと同じで、耳が弱いんだね……。じゃあ、私も……』

『ひぃいいいいい!? りょ、りょうほうからにゃんて、おかしくなりゅぅ……!! いやぁあああああ! も、もう、じぇ、じぇんしん、わけわかんにゃぃいいいいい! こんにゃの、ずりゅぃいいいいい!』


 うん……白雪さんの弱点だと見るや否や、風麗は容赦なくそこを責めたようだ。

 おかげで、白雪さんがベッドの上で暴れ回っている音や、悲鳴がスマホから沢山聞こえてきて――思わず、スキップしてしまった。


 しかし、その光景というか、悲鳴は続くままで――小鳥のさえずりが聞こえてきて、天井が薄っすらと明るくなった頃、『あぅっ……』という白雪さんの声と共に終わったようだ。

 気絶してしまったのかもしれない。


「……これ、どうするんだよ……」


 俺は満足そうにスヤスヤと寝ている風麗と、未だに心ここにあらずの様子で、意識があるのかないのかもよくわからずボーッと天井を見上げてだらしない表情をしている、白雪さんに視線を向ける。


 スマホの音声は彼女にも聞こえていただろうに、見るのを止めようとしてこなかった時点で、未だに意識が朦朧もうろうとしているのだろう。

 風麗は洞察力に優れているので、弱点とかすぐに見抜くだろうし、やりとりを聞いていた限り、翠玉相手に手慣れてもいたようなので、俺と風麗の二人がかりでやられていた白雪さんは、薬を使われた翠玉よりも悲惨だったかもしれない。


 目を覚ましたら、俺に殺意を向けてきたりしないだろうな……?


 とりあえず、この場にいるのもいたたまれなくなった俺は、部屋を出て顔を洗うことにした。


 すると――

「んぅううう!」

 ――なぜか、ドアの前の壁にもたれて、自身の体に両手を触れさせながら身悶えしている、翠玉がいた。


 彼女は、ズボンもスカートも穿いておらず、学校のシャツ――しかも、男もののシャツを身に纏っているだけだった。

 所謂、彼シャツ姿というやつだろう。


 いや、それにしても……あるべき下着が、上も下も見当たらないが……。


「……何をしているんだ?」


 俺はいろんな意味を込めて、翠玉に声をかけたのだった。


「ふぇっ……?」

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