第9話「ダウナー妹の想い」
そうか、そういうことか……。
風麗の態度の急変と、先程の文字。
それが意味することを理解した俺は、腕の中にいる白雪さんに視線を落とす。
「あれから、何時間経ったかしら? 今頃、どうなって――」
「黙れ」
楽しそうに笑っている翠玉に対し、顔を上げた俺は初めて殺気を放つ。
一瞬にして翠玉の顔には恐怖の色が出るが、俺は構わず言葉を続ける。
「もし、雛に何かあってみろ。お前はタダじゃおかない」
「……っ。私に暴力を振るというの? 天上院財閥を敵に回すつもり?」
「お前と引き換えなら、それも悪くないな」
「ふっ、口だけならなんとでも――」
翠玉が馬鹿にするように鼻で笑った直後、俺は床を蹴り、一瞬にして翠玉との距離を縮める。
「なっ――うっ!?」
驚く翠玉の顎を、俺は右手でクイッと持ち上げ、翠玉の目を至近距離から覗き込む。
「本気かどうか、今から試してみるか?」
「……っ」
脅しをかけると、翠玉は言葉を失ってしまう。
言い返すどころか、彼女の目には次第に涙が溜まってきた。
――やはり、傲慢な態度の割に翠玉は小心者のようだ。
脅しはこれくらいでいいか……。
もちろん、雛に本当にもしものことがあればただではおかないが、今はそんなことよりも雛のほうが優先だ。
もし翠玉がどこに逃げようと見つけ出す自信はあるので、ここで逃げられたとしても構わない。
「愛真君……君の妹は、私たちの手の中にあることを忘れないでほしい……。お姉ちゃんに手荒な真似は、許さない……」
「……あぁ、わかってる。俺が言っているのも、雛に何かあればって話だ。それで、白雪さんと交換で場所を教えてくれるってことだったな?」
翠玉の顎をパッと放し、ヘナヘナと床に崩れ落ちる翠玉を横目に、俺は話しかけてきた風麗へと振り向く。
そして――
「お断りだ。この子を渡すつもりはない」
――風麗の交渉を断わった。
「妹の、居場所がわからなくてもいいの……?」
「構わない、すぐに見つけ出すからな」
実際、もうどこにいるかはわかっている。
なぜなら、雛の居場所を知っている当事者――風麗が、既に居場所を教えてくれていたのだから。
『33WC猫』
これが、雛の居場所を示すものだったのだ。
もちろん、日本中を探せば、『33WC猫』と関連するものは沢山見つかるだろう。
だけど学校内に限れば、むしろ当てはまるところがあるかどうか、という話になってくる。
そして、風麗が先程言った学校外に連れ出したという話だが――それは、風麗が吐いた嘘だ。
雛は間違いなく、学校の中にいる。
それがわかるのは、風麗が一度『33WC』だけで俺に伝わると思い、指を止めたからだった。
彼女と俺の共通点はこの学校にしかない。
そしてこの学校には『33WC』で表せる場所があるのだ。
しかもそれだけではなく、その場所で猫が関わる出来事もあった。
どうして風麗が知っているのかはわからないが、まず間違いないと言い切れる。
だから学校外と言ったのはおそらく、風麗が俺に場所を教えていたことを翠玉たちに気付かれないための、ブラフだ。
――となれば、俺がこの場で出さないといけなかった答えは、白雪さんを渡さないというものだった。
そうでなければ、風麗が俺に対して雛の居場所を交換条件に出すのに、その前に雛の居場所を教える意味がないのだから。
むしろ、交渉するならたとえヒントであろうと、俺に教えてはいけなかっただろう。
だからこそ、『白雪さんと引き換えに雛の居場所を教える』という交渉は、『氷をそのまま連れて行って』という風麗からのメッセージだと、俺は受け取った。
「無駄なことを……」
「生憎、人探しは得意なんだよ。だから、翠玉――お前がどこに逃げようと、俺は絶対にお前を逃がさないからな?」
意趣返しも込めて再度翠玉に脅しをかけると、床にへたり込んでいた彼女はゴクッと唾を呑んだ。
まぁ脅しというか、雛にもしものことがあった場合、本当に逃がさないのだけど。
「時間が惜しい。どいてくれ」
俺は風麗や出入口にいた女子を睨むことでどかし、白雪さんを抱っこからおんぶに変えて走り出すのだった。
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