ビッグフットさんに命乞い!

鈴鳴さくら

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山中で変死体が発見されたというニュースが放送されており眺めてみる。テレビ画面の向こうでニュース原稿読んでる男性アナウンサーの表情筋と声帯は特別な訓練を受け鍛え上げられているのだろうか。気味の悪い内容にも関わらず、男性アナウンサ一は個人の一切の感情を読ませずに、ただただ情報を声に乗せて視聴者の脳みそへ運び浸透させてゆく。伝える仕事のプロフェッショナルだなと白熊小雪しらくまこゆきはアナウンサーに感心する。

プロフェッショナルといえば、小雪自身も専門職に就きプロフェッショナルとして稼げる自分を想像し思い浮かべて憧れていた。しかしドラッグストアの店員の職を惰性で続けてしまっている。レジ打ちと品出しの店内ルーティンを淡々と行うリズムが楽ですっかり抜け出せない。

それに専門職に就くまでの道のりは、知識や技術の習得や資格取得等めんどくさいことが山積みで中々着手できていない。まあ今生活出来てるからいっか、そのうち本気出すわよ。それか…結婚して専業主婦になれたら勝ち確なんだけどね。白熊小雪は先月25歳の誕生日を迎えたが、生涯独り身は回避したいなとぼんやり考えるようになった。小雪の男性に求める理想の条件は、わたしより強いこと・まともであること・年収400万以上の三拍子だった。シンプルではあるが中々条件に当てはまる男性を見つけられずに小雪は燻らせていた。

なんせ小雪の筋肉は成人男性の筋力の50倍以上の怪力で破壊的なパワーを放出する。

嗅覚は犬並みと思った方が話は早く聴力はコウモリの超音波をも拾うし視力は鷹よりクリアにみえるので他人の毛穴の数を数えることが趣味だ。大雪小雪は、ビッグフットの血族である。


大雪家は、太古の昔から生物の常軌を逸脱したビッグフットとしての能力を

王族やお上に買われ代々仕え日本の歴史の裏で暗躍してきた。

現在は国に管理されており、始末屋業を担っている。

普段小雪は自らをビッグフットであることを隠し、ドラッグストアの店員として地味に暮らしてはいる。

他国のスパイやマフィアや反社や脱税者、どうしようもない人間は存在するので犯罪者中心にそれらを国から依頼されぶっ殺しまわりこの国のゴミ掃除するのでかなり高給取りだ。

本日は公休日だが実は昨日職場でトラブルが発生した。かねてより小雪にいやらしい目を向けてきた店長の樺谷数雄かばたにかすお(42歳)に閉店後の締め作業をバックヤードでしている最中背後から耳に息を吹きかけられ尻撫でられたのだ。小雪の理性は即座に樺谷をゴミと認識し処理することに決めた。理性がそういっているので小雪を止める手立ては端からなかった。樺谷店長の腕を掴んで肩越しに振り返る。樺谷店長はと黄色い歯を分厚い唇から覗かせながらなにか言葉を発しようとした。わたしが軽く睨んでいたので、なんだその反抗的な目は!みたいなニュアンスのことを言いたかったのだとわかる。なので小雪は営業スマイルを浮かべて樺谷店長の腕に

爪をつきたてた。プリンにスプーンをさしこむみたいに柔らかな感触がして飛び散るあたたかい鮮血。樺谷店長が叫ぶより先に、小さい鍋で茹でるためにパスタをへしおるよう首の骨を破壊した。

とどのつまり小雪は職場の上司を惨殺してし山中に遺棄した。さっきニュースで放送していた変死体は樺谷店長の亡骸だ。国に大目玉を食らうだろうが、どうせもみ消してくれる。それくらい許されるほどビッグフットは国家に貢献しているのだ。

なので樺谷店長の亡骸が見つかった件は別にどうでも良い。問題は大学生バイトの、日南朝陽ひみなみあさひくんに現場を目撃されたことだった。

「あ、あ、あ…?」

朝陽くんは目を見開き瞬きをかわいそうにかるくらい繰り返して「は…はえ?」と現状の把握ができずにいた。朝陽くんはレジの鍵を右手に握りしめている。間違ってポケットに入れっぱなしだったレジの鍵を返却しに戻って来たようだった。

白い制服を赤く染め首があらぬ方向にひん曲がり眼球がこぼれるくらい飛び出した樺谷店長。 レゲエをスマホから爆音で流しノリノリで樺谷店長のバーコードだった頭皮の毛を全てむしらんとしていた最中のスタッフの小雪。バックヤードの青白い電灯の下で小雪の両手は血が付着しあやしくぬめり光っていた。小雪はしまった…と朝陽くんがバックヤードに訪れるまで朝陽くんを感知し損ねたことに後悔した。やっと邪魔なセクハラハゲおやじがを始末できてテンションが上がっていた最中だった為小雪のビッグフットとして研ぎ澄まされた万能に等しい感覚は機能しなかった。

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ゆるしてください、ゆるしてください、なんでもしますなんでもしますから!」

朝陽くんはバックヤードの靴跡やキズ汚れまみれの床に頭をこすりつけながら命乞いを始めた。樺谷店長の血だまりが朝陽くんのサラサラの髪を汚した。小雪はそのさまがパレットに押し付けられた筆のように見えた。肩がガクガク震えており、乱れた呼吸音が朝陽くんの緊張しきった精神をあらわしている。

「なんでもしてくれるんだね」

小雪は朝陽を口封じで始末することを一先ず思いとどまった。

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