その意味を深く考えてはいけません

Yukl.ta

前編

この街には、ホームレスが多い。

特に、駅前の鉄橋下に。

撤去を呼びかけてはいたが、必ず誰かがそこを住居代わりにする。

市職員の俺にとっては、それが日常の悩みの種だった。



そんなある日。

橋の下のホームレス達が、突然に皆一斉にいなくなった。


やれやれ。

そう思い、残された住居代わりの山積みのダンボールを退けた時。


俺は驚いた!


なんとそこには、地下室へ続く秘密の階段が隠されていたのだ!


いやいや、そんなことが常識であり得るはずがない。


そう思いながらも。

俺は、恐怖半分・好奇心半分で、地下室への階段を降る…。






階段を降りた先。

その地下室にあったモノは…。


 俺と同じ姿をしたマネキンの口から吐き出され続ける仏像の形をした米粒と。


 蒸発しながら消えていく蜚蠊の塊を見ながら「次は自分達だ」と薄暗い部屋の隅で囁き合う鼠の群れと。


 おぎゃおぎゃと泣きながら昨今の国際情勢について罵倒雑言を吐き続ける気味悪い小さな人形と。


 隣街のデパートで販売されている肉と魚の形をしたモノの原材料が記されたレシートと。


 潰れた果肉の隙間から黒髪と歯が覗く巨大な苺と葡萄と柑橘類と。


 別れた彼女の断末魔の声を延々と流し続ける携帯電話と。


 俺の姿を見てカサコソカサコソと爆笑し続ける砂の詰まったガラス瓶と。


 俺の叫び声の意味を理解する液体に満たされたバスタブの中に浮かぶ注射器と。


 部屋の端っこで起きてもいない第9次世界大戦の映像をスクリーンに写し続ける八ミリ映写機と。


 それとあと。

 第十三版と書かれたメモ。

[壱:ヒトの五感は消去。視聴覚のみ再設定]

[弍:ヒトの死因はソースへの回帰の他に三つとする]

[惨:ヒトは須く皆、十の歳の頃に再調整される]




「なんだこれは?」

常識ではあり得ない光景だった。


「なんな

    んだこ

       れは!」

気が狂いそうになって逃

   げ出す俺の背後から激

 しい豪雨のよ

うな万雷の拍手のよう

    なホワイトノイ

  ズが鳴り響く。




その時。

『深く考えてはいけません』


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

視界が真っ黒に染まる。


不具合。

処理。

そう耳元で告げられ、

…音が消えた。

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