仮面の国

テマキズシ

仮面の国


 仮面の国。そう呼ばれている国がある。


 そこで生まれた全ての人間は生まれたその時から仮面を被らされ、死ぬその時まで脱ぐことは無い。


 洗顔やお風呂はどうするのか?

 体が成長したら仮面をどうするのか?


 何やら対策はあるらしいが、あまり興味が無くて知ろうと思った事はなかった。


 しかし最近になり、仮面の国にある会社の一つと取引することになり、私は仮面の国へと訪れることになった。



「……凄いな。本当に全員、仮面をつけてるのか」


 道行く人は皆仮面をつけている。大人子供も、男女も関係無い。

 まるで無機質なロボットのように、淡々と仕事や生活を行っている。かなり大きな都市なのにそこまでうるさくない。


 ……なんか、嫌だなあ。この国。


 ただ仮面をつけてるから嫌なのではない。なんというか、この国にいる全員があまり感情を出していないような、どこまでいっても平坦なのだ。建物も。雰囲気も。



「始めまして。凄井商事の田中です」


 予定通り取引予定の会社に着いた私は、待っていた二人に名刺を渡す。


 チームリーダーと言っていた男はまだ若い。妙に禍々しい仮面をつけているが、それでもイケメンオーラが見て取れた。

 もう一人、ここで一番権力のある部長は四十は超えているであろうおじさん。髪は薄くなっているが健康的な体をしている。正直頭と仮面以外は羨ましい。


 話し合いは割とすぐに終わった。二人はまるでロボットのように淡々と、一切詰まることなく進めていった。あまりの速さに私が困ってしまったほどだ。


 今は部長の提案で工場の見学を行っている。

 こちらも全社員が淡々と作業を行っており、休む事なく作業をしていた。


「凄いですね…。そこら辺の機械よりよっぽど正確だ」


「その特技こそが、仮面の国が成長できた理由ですから」


 部長の言う通り、この仮面の国は人口は少ないが、圧倒的な産業の強さで強国の立場を手に入れている。産業革命が起きていた時のイギリスのようだといえば分かりやすいだろう。


 工場を見るとその理由が分かった気がする。

 全員感情がないように機械的に作業をしているからだ。壊れることの無いブラック企業が国全土にあったらそりゃ強い。


 それからも社内をまわったが、やはりこちらも淡々と作業をしている。社内で会話をする様子を一度も見てない。全てのデスクが完全に統一され、特徴が一切見られない。


 正直言って怖い。別の国は世界が違うと言われることがあるが、まさにその通りだと納得した。

 ここは私はいる国とは常識が根本から違う。  

 今すぐここから逃げたいと思ってしまうほどに。異常な空間に、私は居た。



 だが仕事中は逃げられない。何とか仕事をこなし、契約をキチンと詰め終える。そして帰る前に許可を取って食堂へと向かう。

 正直今すぐ帰りたかったが、帰りにどこかへ寄る度胸もなかった。

 ホテルも遠いし…仕方が無い。


 食堂のレシピは一つだけ。ブロック状の未来食のような物だけだ。


「……嘘だろ」


 後悔したが許可を貰った以上食べなければ。

 謎の使命感に駆られ食事を食べていると、隣の席に先程のリーダーさんが座ってきた。


「あ、先程ぶりですね」


 私が話しかけると、少しフリーズしたようだがすぐに正気に戻ったのか、ロボットのような返事を返してきた。

 それから少し談笑をする。といっても私が話しかけてリーダーがそれを返すというだけだ。


「それにしてもこの国は本当に凄いですね。全員が画面なんて、私の国だったら不審者扱いされて通報されちゃいますよ……」


 あ、やばい。つい流れで失言してしまった。

 色々とストレスが溜まっていたのが声となって出てしまったな…。


 謝ろう。そう思い声を出そうとしたら、その前にリーダーが声を出した。


「仮面をつけているのは貴方の国も同じでしょう?」


「え?」


 思わず聞き返してしまう。リーダーは一体何を言っているのだろうか?


「貴方達は皆、仮面を被っています。先程の会議の時だって、貴方は我々に対して気味の悪いという感情を抱いていましたが、その感情を仮面で覆い隠していたでしょう?」


「あ……、いやそれは」


 ……確かにそうだ。

 リーダーの言葉に私は思わず納得してしまった。何か喋ろうとするが、言葉に詰まってしまう。


「社会で生きるためには、どんな人間だって仮面を被る必要があります。この国は、ならば最初から被ってしまえばいい。感情が生まれる前に、仮面で覆えばいい。そう偉い人達は考えたから、国民は生まれてすぐに仮面を被るという法律が産まれたんです」


「……………そう、なんですね」


 この時、私はどんな表情をしていたのだろうか。


 私はこの後すぐにホテルへ戻った。

 これ以上この国の人間に関わりたくなかった。それは別に自分の仮面を当てられたからでない。



 次の日。空港に着いた私は、周囲の人達を見回す。

 全員仕事をしに来ましたよ! と見て分かる人達ばかりで観光客は一人もいない。この国は観光に一切力を注いでいないから当然だが。


 後は仮面を被ったこの国の人達。全員淡々と仕事をこなしている。


 私はその姿を見て、口から声が溢れた。



「………なんか、つまらない国だなあ」






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