陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。

沢田美

第1話 陰キャ、春に絶望す ――リア充たちの季節、俺だけ冬。

 この世の中には、絶対的勝者と絶対的敗者が存在する。

 勝者とは――恋人がいて、青春を謳歌し、学校生活をカラフルに染め上げる者たち。

 世間では彼らを「リア充」と呼ぶ。


 そして敗者とは――陰キャとして生き、モブキャラとして静かに日々を過ごす者たち。

 そう、俺こと――高一賢聖(たかいち・けんせい)だ。


 春風が頬を撫で、川のせせらぎが聞こえる。

 俺は心の中でそう嘆きながら、河川敷を一人歩いていた。


 今日から高校一年生。

 アホ毛が立つボサボサ頭に、死んだ魚のような目。やる気の欠片もない歩き方。

 どう見ても陰キャ。いや、俺自身がそれを誇りにしているまである。


 ふと、スマホで進学先の高校のホームページを開いた。

 そこにはデカデカと『バスケ部、全国大会出場決定!!』の文字。

 さらに、その下には――青みがかった黒髪の美少女がシュートを決める写真。


「……不知火優花(しらぬい・ゆうか)」


 思わず名前を呟いた。

 うん、間違いない。こいつ、絶対陽キャだ。


 ――新学期といえば新しい出会い。

 ラブコメ的な展開を期待する奴も多いだろう。

 だが断言する。そんなもの、物語の中にしか存在しない。

 主人公限定の特権だ!!


「フヒッ」


 気持ち悪い笑いが漏れる。

 つまり俺に出会いなんて――ない!! フハハハハハ!


 ……うん、周りの視線が痛い。

 女子高生と社畜の冷たい目線が同時に突き刺さる。


 ――あ、死にたい。


「……あの」


 不意に隣から可愛らしい声がした。

 俺がそちらを向くと、赤みがかったショートヘアの少女が立っていた。

 小柄で活発そうで、人懐っこい笑顔。少し幼さが残る丸い顔。


 ……陽キャ代表、来た。


「さっきハンカチ、落としてましたよ」


「あ、マジだ……ありがとうございます」


 手渡されたハンカチを受け取りながら、思わず彼女の顔を見つめる。


「もしかして同じ学校ですか?」


「え? あ、うん! 新入生? 私もなんです!」


 な、なんだこの会話!?

 俺が陽キャみたいに会話してる!? いや、もしかしてこれ――ラブコメ展開!?


 胸が一瞬だけ高鳴る。

 だが次の瞬間――


「あ! 優斗(ゆうと)!」

「悪ぃ、浅葱(あさぎ)!」


 スタイル抜群のイケメンが走ってきて、笑顔で声をかける。


 ――彼氏持ちかよ!!


 淡い希望は、一瞬で粉々に砕け散った。

 俺は引きつった笑顔のまま、そっと背を向けた。


 ……帰ったらゲームしよ。


 そう呟きながら歩く俺の前に、新しい学校の門が見えてきた。


 門の周りでは、先輩たちが部活勧誘の声を張り上げている。

 その喧騒を眺めながら、小さく息を吐いた。


「人生の主役たち、か……俺はそのモブで十分だな」


 そう心で呟き、気配を消すように門をくぐる。


「さて、俺の“収監生活”が始まるわけだな……」


 ――その時。


「お! 君、新入生だね?」


 振り向いた先。

 そこに立っていたのは、雪のように白い髪を持つ、美しい少女だった。


 陽光を受けて輝く絹糸のような白髪。

 切れ長の瞳、透き通る肌、そして制服越しでも分かる抜群のスタイル。

 まるで物語から抜け出してきたような存在。


「ねぇ、文芸部に興味ない?」


 甘く落ち着いた声。

 差し出された紹介紙を受け取るだけで、心臓が跳ね上がる。


「君、名前は?」


「……高一賢聖です」


「へぇ、高一くん。よかったらウチに入らない? いいこと、たくさんしてあげる」


 ――いいこと!? ここはエロゲか!?


「ドストレートですね」


「万年人手不足だからね」


 胸を張る彼女。揺れる。でかい。

 ……Fはあるな、あれ。


「考えときます。多分入らないですけど」


「ふ〜ん。楽しみにしてるね」


 と、その時。背後から声が飛んできた。


「あー! また由良(ゆら)が新入生をたぶらかしてる〜!」


 振り向けば、青みがかった黒髪、キリッとした瞳、長い脚。

 完璧な姿勢と抜群のオーラ。


 ――さっきホームページで見た、不知火優花。


 妖艶な白髪美少女・瀬良由良(せら・ゆら)

 凛々しい黒髪美少女・不知火優花(しらぬい・ゆうか)


 ――校内美少女の二大巨頭、まさかの邂逅。


 周囲の新入生たちがざわつく。


「文の女王・瀬良先輩と、武の女王・不知火先輩だ!!」


 歓声とスマホのシャッター音。

 二人が笑うたびに、春の空気が色づくようだった。


 その中心で、俺は――完全に固まっていた。


「……へ?」


「気になったらパソコン室、寄ってってね。高一くん」


 由良が微笑む。


「は、はい……」


 心臓が破裂寸前になりながら、その場を離れる。


 ――なんなんだあの二人……本当に人間か?


 由良と優花。

 二人の姿が、脳裏から離れなかった。

 

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