首の語り手 おやすみ中

まーさん

第1話 身の上

 まあ、ごきげんよう。こんな状態でお話しするなんて少し恥ずかしいです。

 なぜ生首なんだ?と。ええ、ええ!

 実はとある方の怒りを買ってしまって……。原因、ですか。

 その、なんというか……。その方がとても美しい方で、しかも悲劇的な死を遂げたのですわ。

 なぜ死んでるんだ? あらあら! この町はそういう場所ですわ。あまり考え過ぎますと病みますわ。

 ふふ。ええ、それでその方の人生の情報を纏めてネタに困っていた文筆家に渡しましたの。それはそれは劇的に売れました。

 はい。若干怯えるくらいには売れました。

 その方……戸津川眞太郎様の名前はご存知? 知ってる。そうでしょうねぇ。昭和初期の戦争に駆り立てられる日本の悲劇のシンボルになってしまいましたもの。

 帝大の建築科を素晴らしい成績で卒業。語学も堪能で文武両道、そして絶世の美青年ですもの。

 同じ下宿で暮らしていた学友達が残した当時の貴重な写真や日本画は有名です。

 わたくしの予想を越えてあの方の美貌は世界を狂わせたのです。

 まさか自分を拷問して殺害した者たちへ復讐の為に怪人になって蘇った、なんて噂になるなんて想像していなかったのです。

 ええ、実際にあの方を拷問した者、濡れ衣を着せた者、関係者が全員殺害されて犯人が逮捕されていないのですから信憑性がありますもの。

 まあ、実際にあの方が恨み憎しみ祟って殺したの事実ですし。

 なんですの? 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。

 ええ。あの方は近代人でありながら自力で怨霊になって関係者を皆殺しにしましたの。

 凄まじい方ですわ。

 まあ、問題はそのあと。

 その惨劇と怪人赤マントの噂が混じりましたの。

 あり得ない?

 いいえ。

 人の想像力を舐めてはいけません。

 わたくし達魂の領域にある存在にとっては噂話とは最も恐ろしいものなのです。

 全ての関係者が死んで、祟りの蔓延を恐れた者達によって慰霊碑が建てられ、祀られていたあの方が怪人赤マントとして蘇るほどに。

 悲劇の美青年。凶暴な怪人。恐ろしき祟り神は混ざって目覚めて暴れていたのです。

 そしてあの方が有名になった原因は、まあ、その。わたくしにもありますでしょう?

 名前を呼んだ瞬間に首を落とされて、このザマですわ。

 人間だったら即死ですけど、怪異ですもの。生き延びましたわ。

 まあ。縫合用の糸が足りなくて暫く放置決定なんですけど。

 そんなこんなでわたくし、生首生活を楽しんでますの。

 ふふ。おしゃべり相手になって下さると嬉しいですわ。

 ああ、名乗りを忘れていましたわね。

 わたくしは玉緒。玉緒ですわ。

 よろしくお願い致します。

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