永遠のヒーラー(短編)ショートショート集

シンリーベクトル

第1話 永遠のヒーラー


はるか昔、

ひとりのヒーラーがいた。彼は傷ついた者を放っておけなかった。

彼は全力で傷や病を治療した。その成果もありみるみるレベルが上がった。


彼はどんな病も癒し、どんな傷も治した。

死にゆく者を見捨てず、泣く子を放っておけず、

人々の願いを聞くたびに力を使い続けた。


やがて世界から死が消えた。


人々は歓喜し、祭りを開いた。

王は「この国は永遠に繁栄する」と宣言した。


――それから数百年。



街は、静かすぎた。


子どもが泣かない。

老人が死なない。

人々は老いても死ねず、

肌は枯れ枝のように皺だらけにひび割れ、

骨が軋み、内臓が腐りながらも意識だけは残った。


それでも、死ねない。


なぜならこの世界には、

「死」という機能そのものが、存在しないからだ。



王城の地下には、数千体の人々が積み重なっていた。

動かぬのに生きている。

心臓は動きを止めたが、魂は抜けられない。

誰もが口を開けば同じ言葉をつぶやく。


「治して……治して……」


ヒーラーは意識も無く年老いた体で街全体にヒールを撒き散らしていた。永遠に。


彼もまた勇者に倒される存在なのだろう。

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