現役の大学生にして、次々と面白い本格ミステリを量産する俊英の最新作です。
キャッチコピーや説明文にあるとおり、何の変哲もない恋愛小説を校閲する、というストーリで、「校閲というとなんか地味な作業だな」と自分は思ってしまいましたが、結末まで読み終えてビックリ‼
恋愛小説が、あっと驚くミステリに変貌したからです。
その意味で、少し前の「Q. 彼ピはなぜイクラばかり食べるのか?」の系譜に属する作品ですが、本作は5,000字以内という短い文字数の制約の中で、本格ミステリならではのロジックとトリックを凝縮してみせている点が特筆すべきところ。
本格ミステリというと、なんだか取っつきにくい感じがしますが、本作に限ってはその心配は杞憂で、読みやすく明解な作品だと思います。
短い文字数の中で、分かりやすく本格ミステリの醍醐味を堪能できる本作は、天野純一作品の入門編として最適です。
才気あふれる若き本格ミステリの書き手の最新作、ぜひご一読ください。
ラストでの伏線の収束していく感じがとても面白かったです。
主人公は駆け出し作家の天野純一。彼はアンソロジーに寄稿する小説のネタに悩み、どうにか一作の恋愛小説を書き上げることができるが……。
作中作は「菊池」と「梨乃」の恋愛小説、という体で進む。「月が綺麗」と口にされたことで心がときめく様子などが描かれていた作品として仕上がる。
だが、第三話で登場する凄腕の校閲係の蛇喰が登場したことで、事態は思わぬ方向へと。
作中作に散りばめられたわずかな「違和感」のある描写の数々。それらが伏線として蛇喰のツッコミが入り、「思わぬ真相」、「思わぬ結末」へと導かれていく。
恋愛小説として書かれたものが、「矛盾点」という名の伏線を切り口に不穏な方向へと向かっていく。その過程がとても面白かったです。
とても斬新なミステリー作品で最初から最後まで楽しめました。
まずは、この作品がどういう内容か、大まかに話そうと思います。
作家の天野純一は「『月が綺麗ですね』を題材とした5000字以内の掌編アンソロジーを執筆していた。
締め切りは今日まで。
しかし、全然アイデアが思い浮かばず、苦しんでいた。
担当の編集者に急かされ、焦った天野は適当に小説を書いてしまう。
その小説は、簡潔に言うと、主人公と梨乃という女性が中学校の屋上で、夜空を一緒に見ながらロマンチックな時間を過ごすという物語なんですが、これが後に蛇喰という凄腕の校閲マンに矛盾点を指摘されまくることになります。
その指摘の数々には驚かされました。私はその作中作を読んだ段階では矛盾点にほとんど気づけなかったです。
現実の校閲をする人もこんなに細かく指摘してくるのかな、だとしたら怖いなぁって思っちゃいました(笑)
あなたも是非この作品を読んで、作中に出てくる小説におかしな点がないか、探してみてください。