第2話 何の変哲もない恋愛小説
午後八時。俺と
「ハッピーハロウィーン」
俺が袋詰めのチョコクッキーを差し出すと、梨乃はクスッと笑った。
「ハロウィンは三日前に終わってるよ」
「ちょっとくらい遅れたっていいだろ。あ、じゃあ誕生日プレゼントってことにしよう。来週だったよな、誕生日」
梨乃が目を丸くする。
「
「去年地理の授業を終えた後に聞いたぜ。たしか梨乃は家庭科の授業を終えた直後だったか」
「すごい記憶力」
「誕生日プレゼントはこのクッキーをもって代えさせていただくということで」
「賞品当選メールでしか聞いたことない日本語」
ツッコミを入れながら梨乃はクッキーを受け取ってくれた。
「今ここで食べていい?」
「もちろん」
俺が答えると、彼女は器用な手つきで結び目をほどいていった。中にはチョコクッキーとバニラクッキーが二枚ずつ入っている。カントリーマ〇ムではない。
彼女は嬉しそうに頬張ってくれる。四枚のクッキーはあっという間になくなってしまった。
「おいしかった。ありがと」
「そりゃどうも」
梨乃が夜空を見上げた。秋の夜長に煌めく星々。彼女は手のひらを空に向かってかざす。
「時代は変わっても、星の動きはずっと変わらない。それってすごくロマンチックじゃない?」
「ああ……」
「私が生まれる前の年までは日本に新型コロナなんてなかったんだって。でも今となってはこの通り。当たり前のように生活の中に溶け込んでる」
「そうだな」
「目まぐるしく変化する時代の中で、私たちは常に揉まれながら生きてる。でも一回立ち止まって考えるべきだと思うんだよね」
視線の先には、晴れわたる星空で一際目を引く月。
「……月が綺麗ですね」
彼女は恍惚とした表情で呟く。俺はどう答えてよいものか迷ってしまう。
——
——紅一点の
羨ましくて仕方がなかった。俺の春はいつになったらやってくるんだ。そう自問したこと数知れず。
梨乃がこちらに顔を向けた。目を閉じ、唇を軽くすぼめる。
俺は口づけに応える代わりに、彼女を静かに抱き寄せた。
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