第15話 陸軍少将からの『スカウト』

「ほら、あそこの土台、外れそうでしょ?

 あそこにアームの爪を引っ掛けて……」


――ウィーン。

――ガタンッ!(土台破壊)

――ボトッ!(ゲット)


「へい〜(取れてよかったァ!汗)」


 正攻法では取れそうになかったので、設計者の裏をかいた『秘技・台座落とし』を使用した。


 倫理的には良くないが、ゲーム機本体を破壊されるよりはずっとマシなはずだ。


「はい、どうぞ」


「……おぉ(キミ、やるじゃん)。

 ……(取ってくれて)ありがと」

 ※()内は声に出してません。


 鴉羽あげはと呼ばれていた中学生くらいの少女に、獲得したぬいぐるみを渡す。


 4歳児が中学生に景品を取ってあげるのは絵面的におかしい気もする……が、まぁいいだろう。


「このぬいぐるみ、好きなんですか?」


「(うん、大)好き……。

 (このブタさんは)オヤシキブタ(って言うの)。

 ……サンピヨ(の大人気)キャラクター」


 彼女はボソボソした声で教えてくれた。

 正直、あまり聞き取れなかった。


「それは良かったです」


(よし、このまま会話を続けて、コイツらの目論見を暴いてやるぞ!)


 『虎穴に入らずんば、虎子を得ず』。

 リスクを取らなければ、大きな成果は得られないという意味のことわざだ。


 今回の例でいえば、

 連中の目的を探るためには、連中が陣取っている宴会場に侵入して、見つかることなく聞き耳を立てるしかない、ということである。


 まぁ、確かにその通りかもしれない。


 だが、僕はこうも思う。

 虎の穴に突っ込むのはバカのすることだ。

 僕なら、穴の外で遊んでいる虎の子を狙う!


 そう、このJCだ!


 あの不気味な男たちがいない間に、僕はこのJCに取り入り、機密情報を聞き出してやるのだ。


 我ながら、じつに合理的な作戦だ。


 心の中で邪悪な笑みを浮かべていた。

 その時、


「じゃあ、(私もう)行くね……」


 鴉羽あげははぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら、僕に背を向けて歩き出した。


「え、いや、もう行っちゃうの!?」


 確かに、彼女の目的は達成された。

 僕と長話をする筋合いはない。


 だが、このままでは情報を引き出せない!


「(うん、みんな)待ってるし……」


「ん、待ってる?

 あぁ、あの連れの人たちですね。

 でもたしか、呼びに来るって言ってましたよね?

 それまで、もうちょっと一緒にゲームしませんか?

 まぁ僕、お金ないんですけど!」


(なんとしてでも引き止めるぞ……!)


 少女は、足を止めて考え込んだ。

 そして、ダウナーな瞳で僕を見つめる。


「ん、まぁ(いいよ)……。

 オヤシキブタ(をとってくれたし)……。

 (お姉さんが一緒に)遊んであげる……」


 そういうと、彼女は僕の手を無造作に掴んで、対戦ゲームの筐体へと引きずっていった。


 なんかよくわかんないけど、成功したっぽい。


 とりあえず、僕たちは『路地裏の格闘家6』という名の格ゲーを開始した。これは完全に『スト6』である。


(スト6はやったことないけど……)


 和風ファンタジーゲーで鍛え上げられた僕のゲームセンスは、女子中学生を相手にするには十分すぎた。


 結果――5戦ほどストレート勝ち。

 完封である。


「もう一回」


――チャリン。


 4歳児に負けて悔しいのだろう。

 顔には出ていないが、彼女の身体からは薄らと闘気が漏れ出している。


 これ以上勝つのはヤバそうだ。


(それに、そろそろ頃合いかな)


「いいですよ、もう一度やりましょう。

 あ、そういえば、お姉ちゃん。

 鬼掘谷の鬼伝説って知っていますか?――」


     ◆


「わたし……勝った(!)」


 鴉羽あげはは大きく息を吐き、肩の力を抜いた。

 4歳児に勝利した余韻にひたる。


「あぁ、負けちゃいました」


 最後はわざと負けてあげた。

 ギリギリの接戦を演出して。


 聞きたいことは聞けたからOKだ。




 結論を言おう。


 僕の予想は、ほぼ当たっていた。


 あの男たちの目的は『鬼』だった。


 それも、赤鬼の方ではなく、

 その娘である半妖の少女『菊千代』だ。


「半妖は(すごく)貴重(な非検体)だから……。

 捕まえて、解剖(するの)……むん!」


 ゲームに集中している最中に誘導尋問をかけたら、面白いようにペラペラと喋ってくれた。


 それはまぁ、良かった。


(捕まえて解剖――バラバラってこと!?

 はっ、もしやブルーシートって!)


 男が旅館側に要求していたブルーシート。

 「部屋が汚れる」と言っていたのは、つまり――。


 なんて奴らだ!

 外道の所業じゃないか!


 早急にこのことを鬼親子に伝えねば。

 そう決意した、その時だった。


鴉羽あげは、欲しい景品は取れましたか?」


 いつの間にか、背後にあの男が立っていた。

 まったく気配を感じられなかった。

 いつからそこに……!?


「あ、パパ……これ、(取ってもらったの)」


 鴉羽あげはが、ぬいぐるみを掲げて見せる。


(父親かい!)


 部下じゃなくて、親子だったのか。

 言われてみれば、暗い目つきがそっくりである。


「ん、この男の子は?」


 男の視線が、僕に突き刺さる。

 一気に全身の毛穴が閉じるような緊張感が走った。


「(この子に)取ってもらったの……」


「おや、それはそれは。

 娘が世話になりましたね。

 どうもありがとう」


 男は笑みを浮かべつつ、僕の前に屈み込んだ。


 僕は体のこわばりを必死に隠しながら、4歳児らしく無邪気な表情でペコリとお辞儀をする。


(怖っ!はよどっか行ってくれ!)


 そんな僕の思いに反して、

 男は僕をまじまじと見つめた後、

 とんでもないことを口にした。


「キミ、術士適正あるでしょ?」


 心臓が跳ねた。


 霊力も闘気も完全に隠していたはずなのに!

 なぜバレた!?


「は、はい」


 ここでしらばっくれるのは逆に怪しい。

 僕は小さく頷く。


 すると、男は途端に『満面の笑み』を浮かべた。

 それが逆に不気味で恐ろしい。


「それはとても素晴らしいですね!

 術士は『力』の象徴!

 キミのような若い芽が育っているなら、

 この国の未来も安泰でしょう!」


「は、はぁ……」


「キミはすでに高度な隠匿術を身につけている。

 私の『目』を以てしても、

 一見しただけでは霊力を視認できなかった。

 素晴らしい実力だ。

 ……優秀な人材は、常に不足しています。

 今のうちに唾をつけておきたいなぁ」


 男から一枚の名刺を手渡される。


==========

 陸軍術式研究所

 主任研究員

 登戸 鐐(のぼりと りょう)少将

==========


(研究所の主任で、しかも少将!

 なんかよく分からんけどカッコいい!

 僕も研究に参加したいのだが!)


「ずっと先の話にはなりますが、

 もし将来、就職先に困ったら連絡をください」


 まさかのスカウトである。


 正直、軍の研究機関とかめっちゃ興味ある。

 が、今はそれどころではない!


「それでは、さようなら。

 ……さぁ鴉羽あげはですよ」


「じゃあね……」


 2人はそのまま、悠然と去っていった。


(よし、それじゃあ僕は――)


 1人になった僕は、即座に個室トイレに駆け込み、鍵をかけた。


死門遊観しもんゆうかん


 発動。

 僕は一瞬にして旅館の外へとワープした。


(ヤバい奴らに狙われていることを、あの鬼の親子に伝えなきゃ!)


 僕は誰もいない山奥で、

 ありったけの声を張り上げた。


「赤鬼に告ぐ!

 直ちに娘を連れて、この山から避難しなさい!

 あなたの娘は今、ヤバい奴らに狙われている!」


 彼らがどこにいるのかは分からない。

 だが、声が届いていることを信じて、

 僕は必死に叫び続けた。


 20分後。


 ……鬼からの返答はない。


 これ以上は僕自身が怪しまれる。

 「お風呂に入ってくる」と言って部屋を出てから、かなりの時間が経過していた。


 仕方なく、僕は旅館へと戻った。


 すると案の定、

 旅館のロビーで母上がパニックを起こしていた。


灯弥とうや、どこ行ってたの!

 お風呂にいなかったから、お母さん心配で!」


 ママンに抱きしめられる。


「ご、ごめんなさい、母上。

 急にお腹が痛くなっちゃって。

 ずっとトイレに……」


「もう、心配させないで!」


 その後、泥酔から叩き起こされて青い顔をしたパパンとも合流。


 あわや警察沙汰、

 という寸前でなんとか事は収まった。


 パパンからはこってりと絞られ、

 かなりキツめのゲンコツを食らった。


 めちゃくちゃ痛かったが、

 僕は僕なりに最善手を打ったつもりだ。


 鬼の親子が助かれば、僕はそれでいい。

 我が党の合言葉は『妖怪ファースト』なのだ!


(とりあえず、登戸のぼりとたちが動き出すまでは、僕もおとなしくしていよう)


 本当なら、夜通しヤツらを監視したい。

 いつ動き出すか分からないから。


 だが、さっきの一件がある手前、

 これ以上両親の目を盗んで動くのは難しい。


 ヤツらとてこんな夜更けに山へは入らないだろう。

 暗闇では標的を取り逃がす可能性が高い。

 動き出すなら、早朝だろう。


 なら、今日はもう寝るに限る。

 そして明日、いち早く行動を開始するのだ。


 僕はそう結論づけ、布団の中に潜り込んだ




 しかし、

 この時の僕は、大変な勘違いをしていた。


 

 本当に助けるべき人は、別にいたのだ。

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