解散したアイドルユニットをまだ箱推ししてる私の下に、推しの一人が転校してきました
伊咲
1話 世界の崩壊
私が尊敬してやまない同級生は教室の席にいる誰でもなくて、液晶画面の向こうで輝く推しの学生アイドル二人組。
歌番組の生放送のコーナーで、その姿を何度も見た。
「私達、小学5年生の頃からアイドルやってまして。今年でもう中3なんですが……」
そう、中継されている前でもデニムジャケットを纏いダメージジーンズを履いた長身の少女は自然でにこやかな笑顔を崩さない。その笑顔は見ているだけで胸の奥をふわりと浮かび上がらせてくれる。
「それだけ前からやってたら、最初の頃とかお客さん怖かったんじゃないの?」
番組の司会の人が、曲入り前の会話を回す。
「ホントは契約書に判子押す時、怖かったんです。だけど今こうしてみれば、私達を見てくれるファンの人も沢山出来て、楽しいよね!アオ!」
横に立つもう一人の少女、アオに彼女は話しかける。
濃い黒で統一されたゴシックパンクのドレスを着たそのアオと呼ばれる細身の少女は、
「かっこいいミズが見れて、だからあの時契約して良かったと、思います」
と少し身を縮めながら気弱な姿勢で答えた。
互いに視線を交わし、頷きあう二人。その瞬間、液晶越しに二人だけの空間が出来る。
「はい!と、いう訳で新曲の方、お聞きくださーい!」
二人の芸名はそれぞれミズとアオ。スワロウテイルというユニット名で日本を駆け回っていた。
スタジオの照明が切り替わり、瞬くピンクと紫の光が二人を激しく囲み輝かせる。
それを見る私を囲むのはリビングの薄闇。然しチラチラと目に差し込む光のプリズムがほんの少しだけ私の身体も輝かせてくれた。
アオが息切れしそうになればミズがより高く声を張り上げて、その度に黒髪の中にわずかに差し込まれた赤いメッシュが一際輝き灯火のように燃えて見える。ミズが出しきれない低い声を、アオが歌声のトーンを下げてカバーする。その度に彼女の着る黒いドレスは自身がこの世界の主だと告げるように際立って映る。
二人で一人。
互いを補い合える、真のパートナー。彼女達が歌い舞う場は、クラシカルな劇場のよう。そう思えるまでの鮮やかが、ずっと、ずっと自分の心の中で焼き付いて離れない。
だけど世界は常に移ろいゆく物だ。
いくら私、東山いちごがずっと応援していたファンに少しでも責任を取ってほしいなんて勝手すぎる想いを抱いても。もう二人が放つ輝きを見る事は出来ない。理由も分からず解散したからだ。
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