第5話 ジジイVSジジイ

「ミカエラちゃんは、つれないのう。そうは思わんか?」


ふたりにきりになった校長室で、オキロ校長がため息交じりに話しかけてきた。


「えっと、そ、そそそそうですね」


デスブリングは目を合わせることができず、視線を泳がせながら、つんつんと両の人差し指同士を、くっつけている。


(ふむ。魔力量は平均並みか。危険な魔道具の気配もない。挙動は不審だが、殺意はないし、単なるコミュ障かのう)


オキロは、鋭い視線でデスブリングを観察していた。


推薦入学状などという突飛な登場の仕方をしてきたので、多少は胡散臭さを感じていたが、本当に入学希望なだけかもしれない。


「儂の権限を使えば、その推薦入学状が本物か分かる。それが偽物ならば今のうちに告白しなさい。本来、虚偽は褒められるべきではないが、今回は熱意と受け取り、入学テスト次第で入学を認めよう」


「え? 本当ですか!? あ…、でも、これは、ほ、本物なので…」


(ふむ。嘘をついているようには見えんな)


「推薦入学状を出しなさい」


オキロは、デスブリングに推薦入学状を提出させると、それをしばらく観察して、机の上に置いた。


鍵のかかった戸棚から、分厚い魔導書を取り出すと、魔力を注ぎ込む。


「推薦入学状についてのアーカイブを実行」


魔道書がぼんやりと青い光を発し、パラパラと自動的にページを捲られていく。


「……ほう。ミカエラちゃんの言うとおり、過去に発行していた記録がある。では、こいつが本物か確かめてみよう」


オキロは左手に開いたままの魔導書を持ち、右手をすっと魔導書の上を払うように動かした。


その手の軌跡を追うように透明な板のようなものが現れる。


魔道具を制御するための記述式インターフェースだ。


その透明な板をカタカタと右手で操作し、術式を展開していく。


「本学園のアカシックを司る魔導書コタン・レーンよ。この証に刻まれし記録を我に伝えよ」


低く厳かな声が響く。


入学推薦状も青い光を放ち、魔導書と共鳴しているようだった。


「ふむ。これは確かに本物のようじゃのう。そして──なんじゃとぉおおお!!?」


突然オキロが大声を出した。


「うおっ!」


デスブリングもびっくりして大声をあげる。


『今のはヤバい。心臓が止まりそうになった』


『ぶっちゃけ、さっきから音がうるさいので、心臓止めてもらっていいですか?』


『ワシを殺す気か?』


ふたりのやり取りを、オキロ校長の問いが制止する。


「貴様、これをどこで手に入れた?」


敵意のある声だった。


びりびりとした剣呑な空気が室内を満たしている。


「え? どこって普通に、い、家にあって……」


「…ラグナロク」


オキロ校長が呟くと、彼の左手に別の魔導書が現れた。


魔法使いが戦うときに使う魔術デバイスだ。


つまりは、戦闘の意志を示す。


「ふざけるなよ、小僧。この推薦入学状の所持者は、デスブリング・オーバーロードじゃ」


「!!?」


デスブリングたちは激しく動揺した。


友達作りに脳のキャパを取られてて、所持者を調べられる可能性を失念していた。


というか、自分が嫌われていることを知る前は、普通にデスブリングの関係者として入学するつもりだったのだ。


世界中からヘイトを買い、恐れられ、憎まれている存在。


もしも正体がバレでもしたら、入学は絶対に無理だろう。


年齢的にもアウトだ。


想定外の展開。


「えっと、それは、その…」


「心して答えよ。場合によっては、儂の手でヴァルハラに送ることになるぞ」


オキロに変態ジジイの面影はなく、歴戦の魔法使いを彷彿とさせる洗練された殺意を放っていた。

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