第3話
彼女の家からすぐにはスーパーマーケットがある。
いつもなら入らないが、ちょうど買いたい物があると言うので仕方なく付き合うことにした。今夜は僕が彼女の家に泊まるのは確定らしい。
言わなくても分かる。そこは理解できるんだ僕だって。
「君は餅が食べた事ないのに嫌いなの?」
スーパーのカゴを振りながら唐突に話を切り出された。無邪気な小学生みたいに。酔いは、何のその目は爛々と輝いている。
「うん。嫌いだな。そもそも餅って僕と違って浮気症なんだ。きな粉や、あんこなんかつけちゃってさ。甘くて子供にも人気があると思えば、醤油やはたまた大根おろしなんかつけて、お年寄りにも媚びを売る」
この発想はじいちゃんが死んだ後に無理やりこじつけた物だけど、長年考えてみると確かに、そうだそうだと自分の気持ちにうまく着地してしまった。
「なにそれ?」
彼女は理解出来ない顔をしながら、呆れ笑いをしてる。そりゃそうだ多分彼女が僕の事を理解できないのはこういう所。だけども茶化さずまだ話を聞いてくれていた。
「そんでもってよ。全員を油断させて、最後は窒息におとしめる。天使の顔して近づいてくる悪魔だよ」
餅の嫌いなところは止まらないな。永遠と語れる自信がある。根拠もない自信だけど、本当に自信満々。
「君はあれだね。ツンデレってやつだ」
彼女は僕の目を覗き込み、指をさす。ツンデレねぇ、久しぶりに聞いた言葉だな。
「デレた覚えはないけど」
そうとも、なんで餅なんぞに出れないといけないんだ。
あんな奴。ってよりもあんな餅?よく分からないけど箸先でツンツンしてやれば良いんだ。デレなんて無用だ。
「その割にはさ。嫌い嫌いって言いながら、お餅をどう食べるとか知ってるじゃない」
本当に確信めいた事を言うなこの人は。人を常に観察してる仕事をしているからだろうか、癖になってんだなそういうの。あれ?この台詞も何処かで聞いたような?
そんな事を思いつつ
「仇の事はよく調べとくべきじゃないかな。おかしいかな?」
と発言した。彼女はもう何を言っても無駄だと、観念したように
「それが君なんだね」
といって微笑んだ。でも不思議と呆れ笑いには見えない。暖かい陽だまりの中で干されたシーツ見たいな顔。
「それが僕だから」
同じ様な微笑みを向けた。でも多分僕の顔は洗濯し終わったシーツ見たいな顔なんだろうな。シワクチャ。
お互い、疑問の掛け合い等の会話がなくなりしばらく無言の空間が続いた。スーパーのBGMがやけにうるさく感じられる。
「君はさ……なんだよ」
彼女は語りだした。とても静かにおしとやかに。口を見てそれがわかった。
だか、スーパーのBGMにかき消されてその言葉は僕の耳まで届かなかった。届かせようとしなかったが的確かもしれない。
「今なんて言ったの?」
聞き返すと彼女はじっーと僕の目を見つめていた。体感時間が急に長く感じられる。見つめられると弱い。蛇に睨まれた蛙のように動かなくなる。
僕も彼女に踏み潰されてしまうのだろうか。
「羨ましいよ。君の生き方が。なんていうか?迷いが無いというか、信念が強いというか。私にはそれは出来ないな」
ポジティブに考えればそう言う捉え方もあるんだな。そうだ、信念。武士みたいで格好良いじゃないか。彼女にもそうして欲しいと親切心が出てしまい
「これからすればいい」
と口にした。
彼女は目を丸くして困惑した表情を浮かべた。
しばらくして笑いながら
「それもそうだね」
と言って足早に食品コーナーと向かっていった。
僕は考えた。さっき見せた彼女の表情。僕の目を見た時、確実に何かを訴えかけてた気がする。それが今はなにか分からないけど、いい知らせならいいな。
「よいしょっと」
少し考えてた隙に彼女は食品をどんどんと買い物カゴに入れていった。
カゴの中が食品でいっぱいになったので、何を入れたのかと覗いてみた。
すべて餅だった。
「ちょっとまってよ。さっきも話した通り、僕は餅が嫌いなんだって」
そんな言葉を遮るように、はなから僕の存在が無かったかのように。
彼女は僕を無視して、一心不乱にカゴに餅を入れている。
「ねぇ。どんだけ買うんだよ。ねぇってば」
ちょうどカゴが満杯になった時、彼女は僕の存在に気付いたのか
「大丈夫、大丈夫。これ全部、私が食べるから」
と言って、カゴを持ちレジへと歩いていった。
その時に目に焼き付いた彼女の後ろ姿と、店員さんの驚愕の顔は忘れられない。
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